オフィス経営の分岐点

ホテル運営で中小ビルを再生、業界注目のファーストキャビン

“箱”を置くだけでコンパクトホテルに

2018/07/25
オフィス経営の分岐点

既存の中小規模ビルのフロアに、飛行機のファーストクラスをイメージした「キャビン」を並べた新しいスタイルのホテル、ファーストキャビン。低価格ながらスタイリッシュな客室空間は、女性にも人気だ。中小ビル再生が目的の一つだという独自のビジネスモデルは、用途変更によるビル再生を検討するオフィスビルオーナーからも熱い視線を注がれている。その戦略について、同社の来海忠男(きまち ただお)社長に聞いた。

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来海忠男(きまち ただお)社長

──ファーストキャビンのコンセプトを教えてください。

来海(来海忠男氏、以下来海) キーワードは「コンパクト&ラグジュアリー」です。今の時代は、どんなものも「安かろう悪かろう」ではダメで、「安いけれども良いもの」でなければ消費者に受け入れられない。ホテルの場合は、宿泊費は低価格でありながら、空間やサービスはラグジュアリーであることが必須になります。

一方、事業主にとっては、「投資がコンパクトである」ことも大切です。広い土地を買ってラグジュアリーなホテルを建てるには莫大なコストがかかります。そんな投資ができるのはごく限られた人だけでしょう。多くの人が参入できるのは、コンパクトなホテル投資なのです。

そもそもホテル運営を定めた旅館業法には、ホテル、旅館、簡易宿所という3つのカテゴリーがあります。ホテルは客室の広さが9m2以上で、各室に窓や水回りが必要になります。旅館は7m2以上の広さと窓が必要です。すでに不動産を所有しているビルオーナーにとっては、この条件をクリアする形でビルを再生するのはほぼ不可能です。窓の位置は変えられないし、ビルの平面形状も決まっているわけですから。

ところが、簡易宿所なら宿泊客一人あたり3.3m2(宿泊者10人未満とする場合)あればいい。窓は必要ですが、水回りも客室ごとに備える必要はありません。これなら、既存のオフィスビルでも対応できます。

ただし、いわゆる「カプセルホテル」のような簡易宿所でいいのかどうか。そのカテゴリーの中で「お客様に、きちんとしたホテルとして受け入れられるために何ができるか」を追求した結果、たどり着いたのが「コンパクト&ラグジュアリー」でした。

ファーストキャビンは、設計事務所であるプランテック総合計画事務所のグループ子会社です。設計事務所としてホテルのブランディングを手がけるなかで接してきた顧客のニーズや蓄積したノウハウをファーストキャビンの事業に込めています。ですから、法律上は簡易宿所に該当するとはいえ、居住空間の質はビジネスホテルに負けていません。宿泊費は、「ビジネスクラスキャビン」が4000円〜6000円台、「ファーストクラスキャビン」で5000円〜7000円台を設定しています。

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ファーストクラスキャビン(写真提供:ファーストキャビン)

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ビジネスクラスキャビン(写真提供:ファーストキャビン)

競争力のない中小ビルを再生させるビジネスモデル

──ファーストキャビンの事業の目的として「古いオフィスビルの再生」を掲げています。そこに着目した理由はなんですか。

来海 バブル経済の崩壊後、なかなか成長軌道に戻れなかったのが中小規模のビルでした。その後、一等地では大規模な再開発が現在に至るまで続いています。しかし、表通りから奥に入った場所に建っている中小オフィスビルの多くは、いまも競争力が低いままで空室を抱えています。

ファーストキャビンは、そうした問題を抱える中小オフィスビルのオーナーから再生のアイデアを求められて、生まれたビジネスモデルです。

──ファーストキャビンはどうやって運営しているのですか。

来海 ファーストキャビンの事業スキームには、フランチャイズ事業、運営受託事業、直営事業の3種類があります。

フランチャイズは、当社が店舗づくりや集客・運営のサポートをして、オーナーが経営と運営に当たり、売り上げの5%をフランチャイズフィーとして当社へ支払う形態です。運営受託は、経営者であるオーナーから当社が運営を請け負う形。直営は当社がビルを賃借して運営します。ビルオーナーに内装までつくってもらい、当社が経営と運営を行って賃料と売上歩合金をオーナーへ支払う形となります。

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(資料提供:ファーストキャビン)

このうち、中小ビルの再生に一番合っているのは、運営受託だと思います。当社へのフィーはフランチャイズとそれほど変わらない8%としています。オーナーにとって収益性は高く、しかも運営リスクは当社が負っています。当社がテナントとして入居する直営とは違い、オーナーには経営責任があるので、一緒になってお客さんを呼ぼうと頑張るなど、モチベーションも上がります。施設改善などにも前向きになるのです。


聞き手:編集部、文:三上美絵、写真:清水盟貴(特記なき写真)

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