事例研究・バリューアップ戦略

テナントニーズに応えた楽しいオフィスづくりを

バリューレイズ・石田竜一氏による「コストをかけないテナント誘致術」

2018/09/19
事例研究・バリューアップ戦略

「働きたくなるオフィス大全」は8月24日、パナソニック東京汐留ビル(東京都港区)で読者などを対象としたセミナーを開催した。セミナーでは、中小ビルの運営・戦略を手がける株式会社バリューレイズ代表取締役の石田竜一氏が「コストをかけないテナント誘致術」というテーマで講演を行った。主な内容は①「中小ビルの経営の常識を疑え」②「中小ビル経営のセオリーを破れ」③「中小ビルをもっと楽しんでもらおう」というもの。バリューレイズが手がけたオフィス改修の事例や、中小ビルだからこそできること、アイデア次第でニーズに応えるコンテンツ作りが可能なことなど、テナント誘致に繋がるヒントを石田氏自身のエピソードも交えて講じ、最後に参加者との活発な意見交換も行われた。今回は講演の主な内容をお伝えする。

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バリューレイズ代表取締役・石田竜一氏(写真:鈴木素子)

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(写真:鈴木素子)

石田氏は、まずは中小規模のオフィスビルの現状について以下のように解説した。

「ここ数年、賃貸オフィス市場は好調で、中小ビルもその恩恵にあずかっています。オフィス市場は大規模ビルも中小ビルも好況と不況の波を繰り返すため、周期的に需給バランスが崩れて貸し手が困る状況が訪れます。私たちが調べたところ、中小ビルの方が周期の波(不況の期間)が長いということが分かりました。これはあまり知られていない不都合な真実です。中小ビルのなかには、不況の度に賃料を下げてもテナントが埋まらず、景気が良くなるまで待つだけしかないものもあります。こんなことを繰り返していては、本質的に状況が改善することはありません。

そもそも、東京の民間事業所のうち、4分の3が従業員9人以下の規模になっています。つまり、本来なら20〜30坪のオフィスに、小規模な企業のニーズが集中しているはずです。そうでないとすれば、中小ビルのオーナーがテナント誘致に苦戦している理由は、そこに入居企業が持つニーズとのミスマッチが起きているからではないでしょうか。いま、テナントのニーズは変化しています。これからは時代のニーズとともにオフィスも進化していかなければ、中小ビルも淘汰されていくだろうと思っています。

いま、“普通じゃない”オフィスが増えています。私の知人にも、ギャラリーや海辺のサテライトオフィスで仕事をした方がはかどったり、創造性が増したりする人がいますが、そのようなニーズに応えるように、最近では1階にカフェがあるビルや、仕事や作業を通じたコミュニティースペースのあるビルなど、これまでのオフィスの常識にはなかった中小ビルが登場しています。この現象はまだ一部ですが、これからは、こうしたユーザーの生産性を高めるオフィス作りこそが、中小ビルが生き残るためのキーワードになると考えています」

新しい働き方の人たちは「自分たちらしいオフィス」を求めている

テナントはハード・ソフト面ともに求めるものが高くなっていると石田氏は語る。その背景には「普通でないユーザー」が急増しているからだという。仕事と遊びの境界が曖昧になっている人や、時間や場所、組織に縛られずに働く人が増えている。オフィスに求めるものをマズローの5段階欲求説にあてはめ、いまは「他者からカッコイイと思われたり、個性をオフィスでも表現したい」という「尊厳欲求」の段階に変化していると語る。さらに、「創造的活動や社会貢献もできるオフィス」として「自己実現欲求」に進んでいく可能性を示した。新しい働き方の人たちが求めているのは自由度。石田氏は時代のニーズに合わせた「普通じゃない」オフィスの事例を取り上げた。

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(資料提供:バリューレイズ、以下同じ)

「以前、ある企業から『新卒採用強化のためにトイレだけでも新しくしたいが、予算は30万円しかない』と相談されました。そこで、自分たちでリフォームしてみてはどうか、という提案をしました。こちらでやり方を教えると、社員全員で壁を塗装されたのです。愛着の湧く満足するリフォームができて、人材募集にかける媒体費よりも効果があったという声をいただきました。こうした“オフィスのDIY”に取り組むケースも今後、増えてくるでしょう。

具体的な事例もご紹介しましょう。

東京・港区の「テイショク西麻布」は、もともと住宅だったフロアを、私たちの会社がオーナーから借りて改修し、シェアオフィスにした事例です。シェアキッチン付きのラウンジを作り、屋上デッキをさまざまな人が楽しめるようにリフォームしました。ラウンジではパーティーが開かれたり、屋上ではヨガ教室が開催されたりするようになりました。テナント間の交流も生まれています。

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東京・市ケ谷にある LOWPビルは、入居していた専門学校が転出した後に、自社のオフィス兼シェアオフィスに改修しています。コンセプトは、ものづくりに関わる人たちのシェアオフィスです。地下のガレージ空間には共同工房を設け、3Dプリンターや工具を使って、思い思いにものづくりができる環境を整えています。1階には本格的に作り込んだキッチンもあり、入居者たちが食事などを楽しんでいます」

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文・写真/鈴木素子

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