レポート1 LDL-Cの目標値は“一人ひとりで異なる”

危険因子が多いほど冠動脈疾患の危険性が高まる

 日本動脈硬化学会では脂質異常症(高LDLコレステロール〔LDL-C〕血症など)の診断基準(1)を定めているが、「LDL-Cの管理は十分になされていないのが現状だ」と自治医科大学内科学講座内分泌代謝学部門教授の石橋俊氏は指摘する。

表 脂質異常症の診断基準(空腹時採血)拡大する

 LDL-C値が高いと動脈硬化が進行する──。このことが明らかになったのは、今から約60年前のことだった。以来、“悪玉”と呼ばれるLDL-Cを中心に、コレステロール(脂質)に関する研究が進められてきた。

 わが国の報告によると、LDL-Cを含む総コレステロール値やトリグリセライド(TG)値が上昇すればするほど冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)のリスクが高まること、“善玉”と呼ばれるHDLコレステロール(HDL-C)値が低いほど冠動脈疾患の合併率が上昇することが判明している(2, 3, 4)

図 コレステロールと冠動脈疾患の関係拡大する

 「しかし、こうしたコレステロールの異常だけが動脈硬化のなりやすさを決めているわけではない」と石橋氏はいう。動脈硬化を引き起こす他の危険因子として加齢、喫煙、高血圧、糖尿病などがあり、LDL-C値が正常であっても、これらの危険因子を多く持っている人ほど冠動脈疾患の発症リスクが高まるからだ5)。過去に冠動脈疾患を発症したことがある人の場合はさらに危険で、LDL-C値が正常でも再発リスクは何倍にも跳ね上がる5)。このLDL-Cと危険因子の関係が一般の人に十分に認知されていないことが、脂質管理の軽視につながっている可能性がある。

 最近注目されている危険因子に慢性腎臓病(CKD)や脳血管障害、足の動脈が閉塞する末梢動脈疾患があり、これらも冠動脈疾患を引き起こすリスクとなる6, 7)

冠動脈疾患を防ぐにはLDL-C値が低いほどよい

 脂質異常症と診断された場合、食事や運動を含めた生活習慣の改善とともに薬物療法の適用が考慮される。こうした治療を進める上で重視されるようになったのが「累積LDL-C」という考え方である。これは、生まれてから大人になるまで、血管が“悪玉”のLDL-Cにどれだけさらされたかということを意味する。そして血管内に溜まり続けたLDL-Cが、ある一定の値(臨界点)を超えると、冠動脈疾患を発症すると考えられるようになった8)。喫煙や高血圧、糖尿病などの危険因子を持つ人は、この臨界点が低くなるので、若いうちに冠動脈疾患を発症するリスクが高い。

 「これまでの研究では、LDL-C値が低いほど、冠動脈疾患の新規発症率や再発率が減少することが確認されている9)」(石橋氏)

「コレステロール値は高いほうがよい」の誤解

 一方、世の中には「コレステロール値は高いほうがよい」という説も存在する。

 「コレステロール値が高いと死亡率は高まるが、低すぎても死亡率は高まるというデータが国内外で存在することは事実だ。これは“Jカーブ”といわれる現象だが、これには理由がある」と帝京大学臨床研究センター長の寺本民生氏は説明する。

 寺本氏によれば、コレステロールの低い人は何らかの病気を抱えているために低く、その病気が何らかのかたちで死亡に結びついたと考えられるという。「実際、わが国では、コレステロール値が低くて死亡した人の多くが肝臓の病気を持っていた。高いコレステロール値を下げたために死亡したのではない10, 11)」(寺本氏)。

 したがって、コレステロール値が異常に低すぎる場合は何らかの病気が背景にあると捉え、原因疾患に対して治療を進める必要があるという。

自分の病態に即したコレステロール値で管理することが大切

 これまでの研究結果を踏まえ、日本動脈硬化学会では「冠動脈疾患を発症したことがあるかどうか」「他の危険因子(糖尿病、CKDなど)を持っているかどうか」などでカテゴリー分類し、一人ひとりの病態に即したコレステロールの管理目標値も定めている1)

 例えば、糖尿病患者はハイリスク群に相当し、LDL-Cの管理目標値は120mg/dL未満となるが、「実際は約半分の人しか目標値に到達していないのが現状だ」と石橋氏は指摘する。「これには様々な理由があると思うが、糖尿病だと血糖値や肥満、血圧のほうにまず注意が向き、どうしてもコレステロールへの意識が後回しになることが問題として挙げられる。このような危険因子を把握し、適切な時期に適切な治療を受け、コレステロールをコントロールすることが冠動脈疾患の回避につながる」(石橋氏)。

 東北大学加齢医学研究所腫瘍循環研究分野教授の佐藤靖史氏は「特に、糖尿病や狭心症、心筋梗塞を発症したことのある人は非常にリスクが高いため、コレステロールに対する治療を継続することが重要だ」と注意を呼びかける。

引用文献
  • 1)動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版
  • 2)Okamura T, et al: Atherosclerosis 2007; 190: 216-223
  • 3)Kitamura A, et al: Circulation 1994; 89: 2533-2539
  • 4)Iso H, et al: Am J Epidemiol 2001; 153: 490-499
  • 5)馬渕宏: The Lipid 2007; 18: 63-72
  • 6)Go AS, et al: N Engl J Med 2004; 351: 1296-1305
  • 7)Krempf M, et al: Am J Cardiol 2010; 105: 667-671
  • 8)Horton JD, et al: J Lipid Res 2009; 50(Suppl): S172-S177
  • 9)Fisher M: Heart 2004; 90: 336-340
  • 10)Saito N, et al: Tohoku J Exp Med 2013; 229: 203-211
  • 11)Cholesterol Treatment Trialistsʼ(CTT)Collaboration: Lancet 2010; 376: 1670-1681

レポート2 心筋梗塞や狭心症は“突然”発症する

心筋梗塞を引き起こすコレステロールの「量的・質的問題」

 「現在、動脈硬化の進展は2つの観点から捉えられている」と語るのは、順天堂大学医学部 併任 順天堂東京江東高齢者医療センター循環器内科先任准教授の宮内克己氏。その1つはコレステロールの「量的問題」だという。これは、加齢に加え、喫煙、高血圧、糖尿病などによって、血管内にコレステロールを中心とした老廃物が多く蓄積し、そのため血管内腔が狭くなっていくという問題だ。

 一方、動脈硬化の厄介な点は、コレステロールの量が問題となるだけではなく、「質的問題」が存在することだと宮内氏は指摘する。「コレステロールの蓄積により動脈硬化をきたした血管は脆くなり、破綻しやすくなる」(宮内氏)。蓄積したコレステロール(プラーク;粥腫)が破綻すると血栓ができ、これによって血管が詰まり血流が途絶する。心臓に血液が届かないため、心臓の動きが止まってしまう──。これが心筋梗塞だ。

再発率・死亡率が高い心筋梗塞

 心筋梗塞の恐ろしさは、何の前触れもなく、突然発症することである。特に注意すべきは、一度冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)を起こした人は再発率が高いという点だ。冠動脈疾患の発症から2ヵ月でおよそ1割の人が心筋梗塞を起こす。そして、冠動脈疾患を起こしたことがない人に比べ、起こしたことがある人の死亡率は約15倍と高い1, 2, 3)

 不思議なのは、わが国の冠動脈疾患による死亡率は欧米の約10分の1と少ない4)ことだが、これは人種や民族の差ではなく、「どこに住み、どのような食生活を送っているかが問題となる」(宮内氏)という。実際、同じ日本人でも、日本に住むよりもハワイ、ハワイに住むよりもカリフォルニアに住むほうが、コレステロール値は高く、冠動脈疾患による死亡率も高いことが分かっている5)。これは、ハワイやカリフォルニアに住むことで動物性脂肪の摂取が高まったためと考えられる。

持続するコレステロール高値と心筋梗塞のリスク

 コレステロールと心血管疾患との関連を考える上で、興味深い米国の報告がある。若い世代の一般住民約1000人を総コレステロール(TC)値別に4つのグループに分け、30年以上にわたって追跡した貴重なデータである6)

 その結果を見ると、35年後の時点で、TC値の最も低いグループに比べ、最も高いグループの心血管疾患発症リスクは約3倍高かった()。コレステロール値が高いと心筋梗塞や狭心症を引き起こすことが分かるが、「この報告にはもう1つのメッセージがある」と宮内氏はいう。「グラフを見ると20年間はほとんど差がなく、その後徐々に差が開いている。つまり、コレステロール高値の状態が長期間続くと心筋梗塞のリスクが高まるということだ。したがって、毎年検診を受けて、コレステロール値をチェックすることが重要となる」(宮内氏)。

図 総コレステロール(TC)値別に見た心血管疾患発症リスク(若い世代を長期間にわたって追跡した疫学研究)拡大する

心筋梗塞や狭心症の再発を防ぐにはLDL-C値を下げることが重要

 これまでの大規模臨床試験の結果から、①LDL-C値を下げると確実に冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)の発症率は下がる7, 8)、②特に冠動脈疾患を発症したことがある人の二次(再発)予防では、LDL-C値は“the lower, the better(低ければ低いほどよい)”7, 8) 、③LDL-C値を下げると、すべての冠動脈疾患と脳卒中(脳出血を除く)の発症を抑制する9)──といった点が明らかになった。

 このように、一度心筋梗塞を起こしても、LDL-C値を下げることで再発を抑制することが可能なため、過去に冠動脈疾患を起こしたことのある人は、生活習慣の改善と薬物療法により、日本動脈硬化学会が定めたLDL-Cの管理目標値「100mg/dL未満」10)を順守することが大切だ。

引用文献
  • 1)Wallentin L, et al: Lancet 2000; 356: 9-16
  • 2)Juul-Möller S, et al: Lancet 1992; 340: 1421-1425
  • 3)Shepherd J, et al: N Engl J Med 1995; 333: 1301-1307
  • 4)Finegold JA, et al: Int J Cardiol 2013; 168: 934-945
  • 5)Marmot MG, et al: Am J Epidemiol 1975; 102: 514-525
  • 6)Klag MJ, et al: N Engl J Med 1993; 328: 313-318
  • 7)Rosenson RS: Expert Opin Emerg Drugs 2004; 9: 269-279
  • 8)LaRosa JC, et al: N Engl J Med 2005; 352: 1425-1435
  • 9)CTT Collaboration: Lancet 2010; 376: 1670-1681
  • 10)動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版

“家族でコレステロールが高い”そうした場合は要注意!

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