レポート3 “家族でコレステロールが高い”そうした場合は要注意!

水泳選手の意外な死因

 アレクサンドル・ダーレ・オーエンというノルウェーの水泳選手のことを憶えているだろうか。2012年のロンドンオリンピック100m平泳ぎにおける金メダル最有力候補だったが、開幕3ヵ月前に急死したため、世界中で大きく報道された。直接の死因は冠動脈の凝血による心臓麻痺であったが、後に彼は以前から重い動脈硬化を抱えていたことが判明した。享年26歳。若く、運動選手だった彼が、どうして動脈硬化だったのか?

 「実は、オーエン選手の祖父も心臓病のために42歳で急死していることなどから、彼は“家族性高コレステロール血症(FH)”であったと推察されている」と国立循環器病研究センター研究所病態代謝部部長の斯波真理子氏は解説する。

生まれつきLDL-Cが増えてしまう「家族性高コレステロール血症(FH)」

 FHは、生まれつき血液中のLDLコレステロール(LDL-C)が異常に増えてしまう病気である。LDLは、血管を通り道として、細胞膜やホルモンなどの材料となるコレステロールを体の隅々まで運ぶ役割を担っている。通常、役目を終えたLDLは肝臓に取り込まれ回収されるが、肝臓表面にあるLDL受容体がなければ、その処理ができない。FHは、LDL受容体の遺伝子やこれを働かせる遺伝子に異常があり、LDL受容体の数が少ないため、LDL-Cが血管の中に溜まってしまうのである。

 父親、母親の両方の遺伝子に異常がある場合を「ホモ接合体」、いずれか一方のみに異常がある場合を「ヘテロ接合体」と呼ぶ。FHホモ接合体ではLDL受容体がほとんどなく、FHヘテロ接合体ではLDL受容体の数は通常の半分程度だと考えられる。

若年で心筋梗塞を起こしやすいFH

 FHの特徴として、斯波氏は「①生まれた時からLDL-C値が高い、②家族に心臓病やコレステロール値の高い人がいる、③食事療法が効きにくい、④アキレス腱が厚い、⑤動脈硬化により血管が細くなりやすい、⑥若年で心筋梗塞を起こしやすい」といった点を挙げる。

 国立循環器病研究センターの統計では、FHで冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)を発症した割合は、男性43.1%、女性17.1%と、やはり高いことが示された()。

図 家族性高コレステロール血症(FH)における冠動脈疾患と脳血管疾患の発症率拡大する

 日本動脈硬化学会によるFHヘテロ接合体の診断基準(15歳以上)では、「高LDL-C血症(未治療時のLDL-C値180mg/dL以上)」「腱黄色腫あるいは皮膚結節性黄色腫」「FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)」のうち、2項目が当てはまる場合をFHと診断する1)

高LDL-C血症治療を受けている人の中にFHが隠れている

 FHホモ接合体の患者は100万人に1人以上と稀な疾患だが、FHヘテロ接合体の患者は500人に1人以上と極めて頻度の高い疾患である。だが、「診断率の低さが多くの国で課題となっている」と斯波氏は指摘する。2013年の報告によると、オランダが71%という高い診断率を示す一方、イタリア、米国、カナダ、日本などは1%未満だった2)。これは、「高LDL-C血症の治療を受けている人の中にFHが隠れ、見逃されていることを示しており、この診断率の低さは大きな問題をはらんでいる」と斯波氏は警鐘を鳴らす。

 まずFHの場合、ただ単にLDL-C値が下がればよいわけではなく、動脈硬化の進行速度が通常と異なるため、その進行度合いを厳密に評価し、治療を維持する必要がある。日本動脈硬化学会が定めたFHのLDL-C管理目標値も「100mg/dL未満」と厳しい基準になっている1)

 また、診断率が低いと“家族全体のFH”が見逃されるという問題もある。逆にいえば、「1人の人間にFHが見つかった場合、その家族全員を診断することで、FHの早期発見・早期治療に結びつく」(斯波氏)というメリットがあるわけだ。

 早期に治療を開始すれば、FHヘテロ接合体であっても、冠動脈疾患の発症を10数年以上遅らせることができる2)。斯波氏は「FHについて知り、学ぶことは、自分自身や家族、友人を救うために非常に重要なことだ」と強く訴えている。

引用文献
  • 1)動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版
  • 2)Nordestgaard BG, et al: Eur Heart J 2013; 34: 3478-3490

取材協力

寺本 民生氏 帝京大学 臨床研究センター センター長
佐藤 靖史氏 東北大学 加齢医学研究所 腫瘍循環研究分野 教授
石橋 俊氏 自治医科大学 内科学講座 内分泌代謝学部門 教授
宮内 克己氏 順天堂大学医学部 併任 順天堂東京江東高齢者医療センター 循環器内科 先任准教授
斯波 真理子氏 国立循環器病研究センター研究所 病態代謝部 部長

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アステラス・アムジェン・バイオファーマ株式会社
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  • レポート 1 LDL-Cの目標値は“一人ひとりで異なる”
  • レポート 2 心筋梗塞や狭心症は“突然”発症する
  • レポート 3 “家族でコレステロールが高い”そうした場合は要注意!