急速に進む地球温暖化。これまで熱帯雨林を守ろうとする声は高かったが、抜本的な解決の手立てはなく、21世紀となってもこの分野でイノベーションが起きることはなかった。そんな中、世界に先駆けて行動を起こしたのがアジア・パルプ・アンド・ペーパー・グループ(以下APP)。地域住民による生計手段確保のための森林伐採や多民族問題などを抱え、極めて困難と思われてきたインドネシアの森林保全において、次々と施策を実施し世界の注目を集めている。2013年、「自然林伐採ゼロ」を誓い事業転換を図ったAPP。サステナビリティを推進するリーダー企業が、これまで歩んできた軌跡と現在の取り組み、今後の展望を語った。

この映像は2016年9月14日に日経新聞電子版に掲載されたものです。

約17,000以上の島々から成るインドネシア。APPは、その中でも最大面積のスマトラ島とカリマンタン島の貴重景観地域10カ所を対象に、保護・再生支援を誓約している。西端にあるスマトラ島は、オランウータンやスマトラタイガーが生息する熱帯雨林地帯。APPが2014年から開始した「1万本植樹プロジェクト」では、このスマトラ島中部のリアウ州ギアム・シアク・ケチルの景観地域にある荒廃地に、1万本の自生種「フタバガキ」を植える。

APPジャパン 代表取締役社長 兼CEO
ジョハン

APPは年間2,000万トンの紙・パルプの生産能力を持ち、120ヵ国以上へ紙製品を販売するアジア最大規模の製紙会社。創業者エカ・チプタ・ウイジャヤ氏が掲げる「誠実」「約束と実行」「忠誠心」「向上心」「積極性」を信条に、インドネシアの発展とともに成長を遂げてきた。

2013年2月、そんなAPPが発表したのが「森林保護方針(FCP)」。同方針の中でAPPは「自然林伐採停止」を宣言し、植林木を原料とする生産体制へ移行。世界の環境団体へ衝撃を与えた。アジアを率いる製紙会社が下した決断を、APPジャパン 代表取締役社長 兼 CEO ジョハン氏は次のように語る。「APPはこれまで業界で実施されたことのない最も遠大で影響力のある『森林保護方針(FCP)』を推進しています。当社の『森林保護方針(FCP)』は世界の森林保護の流れをさらに加速化させる契機になるものと考えています」。

APPはこの発表の翌年、国内の熱帯雨林の保護・再生支援を誓約。泥炭湿地帯を含み、極めて広範囲に及ぶAPPの保護・再生対象エリアは、この国特有の地域住民との土地問題、焼畑農業による森林火災など、企業努力だけでは解決できない問題を数多く抱えている場所だ。APPはそんな国家規模の難事業に対し、次々と施策を実施している。

「現在は持続的な森林経営の実現にむけ、自社植林地においてPEFC認証取得を進めており、既に全体の65%以上が取得済みです。これらの植林地から調達した原料で生産された製品はPEFC認証製品として販売されますが、2016年からは日本市場でも販売が開始されており、2017年にはさらなる拡大が見込まれています」(ジョハン氏)

また、APPはさらなる活動推進を目指し、COP21やCOP22、国際自然保護連合主催の「第6回世界自然保護会議」をはじめとする国際環境会議へ積極的に参加している。2014年の「国連気候変動サミット」では、製紙会社では唯一「森林に関するニューヨーク宣言」へ署名。経済成長と環境保全の両立を目指すことを誓約した。

「APPが目指すのは『世界一尊敬される製紙会社』。企業責任を果たすべく、自然林に依存しない持続可能なビジネスモデルを礎に社会と消費者へ寄与していきます。また広大なスマトラの熱帯雨林を再生する上では、より一層の活動基盤を整える必要があり、これまで築きあげてきたステークホルダーとの協業体制をより強固に拡大していく所存です」(ジョハン氏)

※適正に管理された森林で産出された木材を使って生産された製品であることを保証する国際森林認証プログラム。「森林」とその後につづく「生産、加工、流通過程」で持続可能な管理が行われていること第三者機関が監査し、監査に合格した場合にPEFC認証ロゴの表示が認められる。

インドネシアと中国で、東京都の約6倍の面積の植林地を有し、ユーカリとアカシアを育成するAPP。5~6年で成木となり、収穫後は次の苗木を植え、育て、収穫する。そのサイクルはまさに「木の畑」といえる。

パルプ生産から製紙・加工・梱包までを一貫して行う、スマトラ島リアウ州のベラワン工場。約15,000名の従業員のうち、14,000名以上は現地の住民。APPは地域の雇用創出にも貢献している。

APPインドネシア
持続可能性およびステークホルダー担当役員
アイダ・グリーンベリー

スマトラの森林保全を進める上で、看過できないのが焼畑農業による森林火災。焼畑農業は近隣諸国への深刻な煙害を及ぼすとされ、抑止が求められている。しかし、焼畑による土地の開拓は、農業・畜産にとって容易かつ安価な方法であり、地域コミュニティにとって重要な生計手段のひとつとなっている。

そこで、APPが開始したのが「総合森林農業システム」。その取り組みについて、APPインドネシア 持続可能性およびステークホルダー担当役員 アイダ・グリーンベリー氏は次のように語る。

「COP21において発表した同システムは、リアウ、ジャンビ、南スマトラ、東西カリマンタンの5地域にある500カ所の村落の地域住民へ、家畜の飼育や持続可能な青果栽培技術を指導することで、焼畑を伴わない代替生計手段を提供するものです」

持続的な森林経営を実現するために、APPは森林そのものの管理だけでなく、インドネシアにおける景観レベルの森林保護・再生に取り組んでいるが、一企業だけでの実現は難しい。そこで2015年12月には、ステークホルダーからの活動支援と資金調達を目的として、新たに「ベランターラ基金」を設立した。

「今年7月には、西カリマンタン州知事が取り組む『ケミル・スナン』の農園開発を行うパイロット・プロジェクトの支援を行いました。ケミル・スナンは新たなバイオ燃料の原料として注目される植物で、多年生の作物との間作も可能で小規模農家でも栽培しやすく、収穫効率も良いのが特徴です。今後、地域コミュニティへ導入することで、農業効率の向上による所得創出を目指すとともに、再生可能エネルギーの普及によって化石燃料の使用量削減効果も期待されています」(アイダ氏)。森林保護と保全活動の成功には、地域コミュニティの積極的な協力と支援が不可欠だと、APPは確信している。

「さまざまな民族が共存し、多様な価値観・文化が混在するこの地で活動を浸透させるため、APPは地域住民への十分な情報開示・説明を徹底しています。特に重要視しているのがFPIC(Free, Prior and Informed Consent)という概念。これはものごとの決定の際、影響する近隣住民側には、事前に十分な情報提供を受け、自由意思のもと判断ができる権利があるとする概念です。APPは今後も、FPICに基づき地域住民との信頼関係を築き続け、森林保全を進めていきます」(アイダ氏)

2016年2月に実施されたFCP活動報告会議のようす。ステークホルダーが参集し、今後の活動に関する意見交換が行われた。

APPは地域住民へ持続可能な青果栽培技術などを指導。焼畑を伴わない代替生計手段を提供し、地域の経済発展を支援している。

▲ページの先頭へ