「昨今、環境意識の高まりから、多くの日本企業がCSRとして森林保全に取り組んでおり、APPが活動するインドネシアをはじめ、熱帯雨林を有するブラジルなどでの植林地視察や植樹が活発に行われています」

そう日本企業の動向を語るのは、日本環境ビジネス推進機構理事長 神谷光徳氏。APPとともにスマトラでの森林保全活動を推進する人物だ。 今、われわれの予想を遥かに超えて、急速に進む地球温暖化。世界各地で異常気象による深刻な被害が報告されるなか、国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)は、現状のまま温暖化が進行した場合、今世紀には20世紀末と比べ、平均気温が最大4.8度、海面水位が最大82cm上昇する恐れがあると予測。気候変動を抑えるためには、抜本的かつ継続した温室効果ガスの排出削減が必要であるとしている。

日本環境ビジネス推進機構理事長
神谷 光徳

「温暖化対策のタイムリミットは残り10年とも言われ、世界は今、すみやかな対応を求められています。温室効果ガスの削減を考える上で重要となるのが、CO2を吸収し酸素を供給する『地球の肺』、熱帯雨林の保護・再生です。しかし広大かつ複合的な問題をはらむスマトラ熱帯雨林の保護においては、企業単位での活動で対応できる規模を超えており、それらの企業が連携を図り、社会全体で取り組んでいく必要があります。そのために、われわれはサステナビリティを推進するリーダー企業APPとともに、森林保全の活動を世界へ発信し協力体制の拡大へ努める考えです」(神谷氏)

神谷氏は、APPがスマトラ島リアウ州ギアム・シアク・ケチルにて推進する「1万本植樹プロジェクト」へも参画。森林保全の取り組みを次世代へつなげるべく、APPと一丸となり活動を推進している。

神谷氏が語るように、熱帯雨林の保全は地球温暖化防止に向け、社会全体が団結して向き合うべき喫緊の課題といえる。森林、そして地球の未来を守るために、APPは産学連携での協働を進めている。

そこで「学」の立場から見ると、APPの取り組みはどう映るのか。森林政策に精通する九州大学から、大学院理学研究院 生態科学研究室の矢原徹一教授がAPPの植林活動および自然林保全の取り組みを視察した。

九州大学 大学院理学研究院
生態科学研究室
矢原 徹一教授

矢原教授が向かったのは、インドネシア・スマトラ島リアウ州ベラワンにある、APPがインドネシア政府と共同で保護に取り組んでいる熱帯雨林の自然保護区。多種多様な動物や植物が生息し、敷地内では希少なスマトラゾウも保護されている場所だ。

矢原教授は高さ約15mの竿の先に取り付けた鎌を使い、枝を採取。ほとんど同種の樹木に遭遇しないほど多様性に満ちた森林であることを評価した。「原生的な状態が維持された、素晴らしい森でした。樹高30mに達する巨木が林立し、樹木の多様性は極めて高いといえます。500m2の範囲に262~334種の植物が確認されました。日本の常緑林で同じ調査をすると、その種類は50種程度。いかに豊かな森であるかが分かります。この豊かさを保つには、もう少し森林面積が必要です。『森林保護方針(FCP)』に沿った努力を強化してゆく必要があります」(矢原教授)。

矢原教授は、約15mまでのびる竿の先に取り付けた鎌で高木の葉を採取。スマトラの豊かな生物多様性を評価した。

今、企業の生産体制は、世界的にも自然林に代わる資源として植林を利用する方向にシフトするなか、アカシアとユーカリの植林を通して、それを実践するAPP。その取り組みについて、矢原教授は次のように語った。

「APPの『自然林伐採停止』宣言は素晴らしいと思います。熱帯雨林を再生する計画にも期待しています。九州大学には、われわれが取り組む生物多様性の研究と、森林経営などの研究があり、自然林と人工林を同時に視野に入れて研究ができます。これらの知見を活かして、APPの取組みに協力できると思います」(矢原教授)

このように、さまざまな環境団体や大学と協働し、森林保全を着実に進めているAPP。ジョハン氏が語ったように、現在もステークホルダーとの連携強化に向けて邁進している。そんなAPPが直近、多くのステークホルダーと連携し実施するプロジェクトがある。それが2015年より自然資源保護局、インドネシアゾウ保全フォーラム、WWFインドネシア、地域NGOなど、マルチステークホルダーと協働して進めているスマトラ島リアウ州におけるスマトラゾウ保護活動だ。

九州大学 矢原教授が評価するように、豊かな生物多様性を有するスマトラ熱帯雨林。しかし、深刻化する森林減少により、この地に生息する貴重な動植物の住処が失われ、絶滅の危機に瀕している。APPは持続的な森林経営を実現すべく、こうした動植物の保護に積極的に取り組んでいる。

その中でスマトラゾウは近年、生息数の減少が問題視されており、WWFインドネシアと自然資源保護局が実施した調査では、約7年前はリアウ州のBalai Raja野生保護区に少なくとも22頭のスマトラゾウの生息が推定されていたが、直近のデータモニタリングの結果、現在はわずか3~4頭へ減少していることが明らかとなった。

そこで当プロジェクトでは、減少を続けるスマトラゾウを保護するべく、再捕獲法や糞によるDNA解析によって個体数や行動範囲などを調査。残存するスマトラゾウのデータベースを作成し、一定期間における分布状況の変化を管理することで、効率的な活動推進を図っている。

さらにスマトラゾウの保護を進める上では、周辺地域社会への影響も考慮する必要がある。これまでも森林減少によって生活の場所を失ったスマトラゾウの群れが集落に現われ、民家を破壊したり、農作物を荒らす被害が報告されている。長期的にスマトラゾウを保護するためには、地域との共存が課題となる。APPはこうした問題に対処するため、ゾウが植林地に入らないようにゾウ除けの塀を設置するほか、植林地の従業員や近隣の地域コミュニティへ、スマトラゾウと遭遇した際の適切な対処方法を指導し、意識向上に取り組んでいる。

民間セクターもスマトラゾウ保全に大きな役割を果たすことができる。APPは自社の自然保護区で6頭のゾウを保護している。

2015年12月、APPは人間とゾウの衝突を緩和するため、スマトラ島リアウ州で、ゾウの調教師訓練を実施した。さらに、傷ついたゾウやトラ、クマなどの野生動物の手当てや、スマトラゾウ保全活動を実行に移すため、移動型の緊急出動チームの編成を行った。

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