アマゾン ウェブ サービス ジャパン
代表取締役社長
長崎 忠雄 氏

AWSのクラウドサービスが
あらゆるビジネスを変革する核となる

ネット通販の巨人である米アマゾン・ドット・コムが、クラウドサービスでも大きな存在感を示している。同社の関連企業である米アマゾン ウェブ サービス(AWS)が、IT産業の在り方を根本的に変えつつあるのだ。ITシステムは今後、「自社で所有するもの」から「必要な時に必要なサービスを利用するもの」へ──。このようなパラダイムシフトが現実になろうとしている。アマゾン ウェブ サービス ジャパンでトップを務める長崎忠雄氏に話を聞いた。

── ネット通販事業を手がけるアマゾン・ドット・コムが、なぜクラウド事業に参入したのでしょうか。

 アマゾン・ドット・コムは、インターネット書店として1994年に創業しました。その後、取り扱う商品を増やすとともに、お客様の使い勝手を高めるために継続的にウェブサイトを改善してきました。
 2000年頃には多数のネット通販事業者が登場し、競争が激化。その中で、他社との差異化を生み出すために、商品カテゴリーを増やしたり、新しい仕組みを取り入れたりする際に、いち早くサービスを立ち上げられるようにITインフラを抜本的に改修しました。

全社規模の業務システムでの利用も拡大中

 サーバーやストレージ(記憶装置)、ネットワークなどの物理的な機器を仮想化する最新技術を活用して、新たなビジネスプランを即座にシステムに実装するような仕組みです。これが、現在のアマゾンの強さを支えています。つまり、テクノロジーを駆使するスキルやノウハウが、アマゾンのコアコンピタンスの一つとなっているのです。
 アマゾンのビジネスで裏打ちされたITインフラやノウハウ、スキルを利用してもらえば、外部の人たちもビジネスのアジリティー(俊敏性)を向上できるのではないか──こうした思いが動機となり、2006年からクラウド事業を手がけ始めました。

── どのような企業が、どのようなタイプのアプリケーションでAWSのサービスを利用しているのでしょう。

 サービス開始当初は、ベンチャーやスタートアップ企業が多かったのですが、現在は公的機関を含めて、あらゆる業種・規模の組織が多様なタイプのアプリケーションで利用しています。
 大手企業がオンプレミス(社内運用)で稼働させていたERP(統合基幹業務システム)をAWSへ移行する動きが広がっており、SAPのERPでも国内100社超の実績があります。日本通運や旭硝子、ファーストリテイリングのように、全てのシステムをAWSへ移行しようとしている企業も増えています。

クラウドのスピードがビジネスの競争力を高める

── 導入企業は、どんなメリットがあると判断しているのでしょう。

 AWSを利用するメリットには、大きく2つの側面があります。1つは、ビジネスのスピードを加速できることです。市場の変化がとても速い昨今、そのスピードに迅速に対応できるITがなければビジネスも遅れてしまいます。自社でITインフラに多大な初期投資をしなくても、大規模なアプリケーションを瞬時に立ち上げられることはビジネス面で大きなメリットです。
 最近、ビッグデータの業務利用が叫ばれていますが、従来は基盤となるデータ・ウエアハウスを構築するためには何千万円から何億円にも上る初期投資が必要な上に、稼働を開始するまでに数カ月間を要していました。しかし、「Amazon Redshift」というデータ・ウエアハウス・サービスを使えば、初期投資なしで1時間当たり0.25ドルから利用することが可能です。しかも、データさえ揃っていればすぐに利用することが可能です。万が一、業務上の効果が得られなければ、サービスの利用を止めてしまえばその後の支払いは発生しません。失敗のコストが低いということは、成功への近道となります。
 もう1つのメリットが、IT基盤の運用管理という、利益を生み出さない作業から解放されることです。この典型例として、サイジングの手間の軽減が挙げられます。サイジングとは、システムやサービスの規模に合ったITリソースを見積もることです。オンプレミスのシステムでは、負荷のピークを想定し、それに耐えられるIT基盤を導入するので、世の中で稼働しているシステムの多くが日常的に余剰な処理能力を抱えているのが現実です。
 AWSを利用すれば、こうした課題を解決できます。AWSは、システムを止めずにITリソースを追加できるスケールアウトという機能を備えています。お客様は、ITリソースを利用した分だけのコストを負担すればよいので無駄が生じず、また撤退リスクに対するコストも最小化できます。
 サイバー攻撃の脅威が高まりつつある最近は、セキュリティー面でオンプレミスよりも優位性があると判断して、AWSを選ぶお客様も増えつつあります。AWSのデータセンターはスケールメリットが利くので、個別の企業では負担できないほど、セキュリティー対策に膨大な投資を継続的に実施しています。
 このようなビジネスメリットを評価いただき、現在は約190カ国、IDの数にすると100万以上のお客様にAWSを活用していただいています。お陰様で事業は急成長しており、2015年度の売上高は前年比69%増の78億8000万ドル(1ドル110円換算で約8670億円)、営業利益は182%増の18億6300万ドル(同・約2050億円)でした。ネット通販に続く、アマゾンの収益の柱になりつつあります。

PROFILE

長崎 忠雄 氏
1969年福岡県生まれ。高校時代に渡米し、米国カリフォルニア州立大学ヘイワード校卒業。理学士号取得。92年に帰国後、港湾関係メーカーやデルコンピュータ(現デル)を経て、2006年、F5ネットワークスジャパンの代表取締役社長兼米国本社副社長に就任。07年にスタンフォード大学大学院エグゼクティブプログラムを修了。11年に米アマゾン ウェブ サービスの日本立ち上げメンバーとしてアマゾン データ サービス ジャパン(現アマゾン ウェブ サービス ジャパン)の代表取締役社長に就任

常にお客様を念頭に置くこと
——これが我々の行動規範

── 昨年は、AWSに722もの新機能・新サービスをリリースしています。この判断基準は?

 端的に言えば、お客様のニーズが大きいものを順次、リリースしてきたということです。アマゾンでは、全社員がリーダーであるべしという考えの下、全ての行動・判断の軸となる価値観「Our Leadership Principles」(「我々のリーダーシップ原則」の意)を掲げています。これには14の原則が記されているのですが、「Customer Obsession」(「常にお客様を念頭に置くこと」の意)を最上位に位置づけています。これは、創設者兼CEO(最高経営責任者)であるジェフ・ベゾスが創業時に「成長のためには何が必要か」を考えたものがベースになっています。
 ここには「お客様から信頼を獲得・維持するために全力を尽くす」といった旨が記述されています。すなわち、我々の利益を最優先するのではなく、まずはお客様のニーズに応えることで満足度を高めていくことが、最終的に自分たちの成長につながると判断しているわけです。
 AWSで新機能・新サービスを提供する際にも、自分たちが獲得したスキルによって新たに実現できるサービスをリリースしていくのではなく、お客様やパートナー企業の意向を基にしています。定期的にお客様やパートナー企業の声を聞く機会を設け、何を提供していくかを意思決定しています。
 価格も例外ではありません。当然ながら小売業と同じく、お客様は低価格化を求めていますので、2006年からこれまで51回もサービスの価格を値下げしています。これを実現するために、継続的に徹底したローコストオペレーションを追求しています。

── 米国に本社があるアマゾングループだけで、独自の商習慣が多い日本企業のニーズを全方位的にカバーできるとは思えませんが。

 確かに、我々だけで全てのお客様のニーズに応えることは難しいでしょう。この課題を克服するために重要な役割を果たすのが、我々のパートナーが形成するエコシステムです。これは10年の歴史の中で築いてきたAWS独自の大きな強みです。そしてパートナーを支援するシステムとして「AWS Partner Network(APN)」制度があります。さらに、開発者のコミュニティーである「JAWS-UG(Japan AWS Users Group)」や、大手企業のCxO(業務での最高責任者)などからなるコミュニティー「E-JAWS(Enterprise Japan AWS Users Group)」など、参加者が自らのスキルやノウハウを進化させるコミュニティーもエコシステムに含まれています。
 今年6月には、これらのエコシステムの集大成ともいえるイベント「AWS Summit Tokyo 2016」を日本で開催します。「AWS Summit」は、AWSに関する事例や最新技術、活用方法を紹介するイベントで、世界中で開催されています。エグゼクティブからデベロッパーまで1万人以上が参加する「AWS Summit Tokyo 2016」は、その中でも世界最大規模のカンファレンスとなります。AWSに少しでもご興味を持たれたなら、ここに足を運んでいただいて、真実を確かめていただければ幸いです。