エコシステムとパートナー制度で
顧客のニーズに応える

アマゾン ウェブ サービス(AWS)の競争力の源泉は、顧客とパートナー企業を含めたエコシステムにある。この中で様々な業種・業態に向けて多種多様なタイプのサービスやアプリケーションを育んできた。エコシステムの成長を支えているプログラムがパートナー制度「AWSパートナーネットワーク(APN)」である。AWSは、このプログラムを通じてパートナーを支援することで、エコシステムの成長を加速させている。

 APNは、AWSのサービスを活用してビジネスを展開するパートナーに対して、ビジネス・技術・マーケティング・市場開拓を支援する仕組みだ。参加するパートナーには、独自の強みを持っているITベンダーが含まれる。それぞれの強みを組み合わせると、全ての業種・業態・規模の組織に必要なソリューションを揃えることができる。AWSのウェブサイトで、パートナーごとに得意分野などの詳細な情報が公開されており、顧客が何らかの課題に遭遇しても、この中から的確な答えを出せる経験や実績のあるパートナーを見つけられるはずだ。
 APNに参加するためには一定水準以上の能力が問われる。パートナーにとって、これを満たすことは大きなハードルだが、裏を返せば顧客への安心感につながっている。

経験と専門性による選定を可能に

APNのパートナーには、「APNコンサルティングパートナー」と「APNテクノロジーパートナー」という2つのカテゴリーがある(図を参照)。それぞれのカテゴリーにおいて、AWSの導入実績や社内で保有するスキルなどに基づいてクラス分けされている。

AWSパートナーネットワーク(APN)プログラムのシステム

 最上位のプレミア(コンサルティングパートナーのみ)は、「AWSのテクノロジーを使用して非常に優れた実績を上げた」や「顧客へのサービス提供において優れた貢献があった」「業界に影響力を持つ多数の顧客に対してAWSのシステムやサポートを提供した」といった経験と実績に基づいて認定される。現在、グローバルで数万社あるAPNパートナーの中で、2015年にプレミアに認定された企業は47社。日本では、アイレット(cloudpack)、クラスメソッド、サーバーワークス、TIS、野村総合研究所の5社がプレミアの認定を受けた。さらに、年間を通じて高い業績を上げたパートナーを表彰する「APNパートナーアワード」もある。2015年は最上位の「APNパートナー・オブ・ザ・イヤー」をアイレットが受賞した(表を参照)。

APN Partner Award 2015 の受賞パートナーとその内容

 また、APNには、専門性の高いスキルを評価する「AWSコンピテンシープログラム」と「MSP(マネージド・サービス・プロバイダ)プログラム」いう制度もある。顧客企業のニーズが高い、あるいは今後の拡大が見込まれる領域の専門的なスキルを有しているパートナーをAWSが認定する制度である。認定対象のコンピテンシーは、市場(対象は金融サービスや公共など)、専門技術(IoTやモバイルなど)、ワークロード(OracleやSAPなど)といった領域ごとに定められている。現在、グローバルでは253社、日本ではアイレット(認定対象はビッグデータ、MSP)、NTTデータグローバルソリューションズ(SAP)、クラスメソッド(ビッグデータ、モバイル、MSP)、サーバーワークス(MSP)、システムサポート(Oracle)、TIS(SAP)、野村総合研究所(ビッグデータ、Oracle、MSP)の7社がコンピテンシーおよびMSPプログラムの認定を受けている。この認定を受けるパートナーは年々、増え続けている。
 APNを統括する今野芳弘氏は、「パートナー同士は市場でしのぎを削り合うこともありますが、顧客がAWSサービス導入に必要な知識やノウハウの共有、スキルの向上のために様々な協力関係を築いています」と語る。AWSが新しいテクノロジーを利用した革新的なサービスを次々と投入しているため、新たな活用方法や開発の生産性を向上する手法などをコミュニティーで議論しているのだ。
 例えば、APNパートナーである6社(サーバーワークス、アクセンチュア、アビームコンサルティング、伊藤忠テクノソリューションズ、日本ユニシス、日立製作所)が、業務システムでAWSのサービスをいかに活用するかに焦点を当てたガイドブック『エンタープライズAWS導入ガイド』を共同執筆している。AWSの導入を検討している顧客企業の支援を主な目的としたもので、各社のウェブサイトから無償でダウンロード可能だ。このほかにも、金融業界のガイドラインに対応するリファレンスを提示するコミュニティーや、製薬業界のガイドラインに対応するコミュニティーがあるなど、AWSの導入を検討する企業の不安を払拭するといった面でも具体的な成果を出している。
 AWSのパートナー同士が、顧客の利便性や新たなニーズに応えるために競合関係を超えて協業し市場を開拓する──これが、AWSのパートナー協調環境を「エコシステム」と呼んでいる理由である。そして、このエコシステムが、顧客のAWS導入を加速しているといっても過言ではない。

パートナーの支援でエコシステムを強化

 米アマゾン・ドット・コムの創業者であるジェフ・ベゾス氏が、レストランで食事をしていた際に同社のビジネスモデルを思いつき、紙ナプキンに書き留めたという逸話は有名だ。そこには、「成長」という文字の周りに「顧客満足度の向上→販売増量→売り手の増加→品ぞろえの増加→顧客満足度の向上」というサイクルが描かれていた。顧客満足度の向上はアマゾン・ドット・コムの最重要課題なのである。さらに、このサイクルの回転をより高速化する要因として「低コスト構造」と「低価格の商品提供」という文字が書き添えられている。
 今野氏は、「AWSも現在、同じビジネスモデルで成長しています」と説明する。ただし、ネット通販事業の場合は、売り手と顧客の接点はアマゾンが大きく担っているのに対して、AWSではパートナーが多種多様なニーズを持つ顧客に直接、付加価値を提供して顧客満足度を高め、市場を拡大していくことも必要だ。そして、成長サイクルにおける「売り手の増加」「品ぞろえの増加」につながっていく。パートナーを支援するAPNは、顧客との接点を補強して、AWSのエコシステムの成長を促す取り組みであり、顧客へさらに低価格で高品質で多様なサービスを提供することも加速させている。