デービッド・アトキンソン

03

日本人より日本の売り方を知る英国人。
「観光」で日本を救う。

小西美術工藝社 社長

デービッド・アトキンソン

David Atkinson

2016. 11 .1 公開

interview : SAKIYA Miho 
photo : KIM Yongduck

2

「日本型経営」も「おもてなし」も、ちょっとおかしいぞ

こうした「日本型経営」のようなレトリックに逃げ込む日本人経営者に共通していたのが、数字に基づいた経営ができないこと、数字を使った冷静な分析ができないことでした。

最近、私が行った日本の戦後の高度成長についての分析があります。その内容は日本のビジネスパーソンにものすごく不評です。「日本の戦後高度成長の最大の起爆剤は、爆発的な人口増にあった」という内容だったからです。「日本の成長は、その技術力の高さと勤勉さにあったのであって、人口が増えたから成長できたわけではない」と多くの日本人から反論を受けました。

でも、先進国の場合、その国の経済ランキングは人口規模と比例する、あるいは人口と最も密接に関わりがある、というのはむしろごく当たり前の結論です。突飛な意見でもなんでもありません。日本の技術力の高さ、日本人の勤勉さは、確かに日本の経済成長に貢献しました。私も異論はありません。ただ、他の先進国と比べて日本のGDP(国内総生産)が大きく伸びた最大の要因は、人口が爆発的に増えたこと。これに尽きるのです。
GDP上位国をずらりと並べてみれば分かりますが、各国の順位は人口の順位とほぼイコールです。なぜならば、GDPは人口×労働生産性で決まるからです。近年、中国のGDPが急速に成長して日本を抜いてアメリカについで2位になりました。でも、人口14億人の中国で、生産性が低いところから向上し始めれば、バブルでもなんでもなく、ごく当然の話として日本経済を抜きます。

写真

日本が自分たちの経済の特殊性を信じて、人口が減るのをそのままにしていれば、日本経済は大変なことになります。数字を見れば分かることです。数字を見ないから日本には危機感がないのです。
私が日本の伝統文化の保護に関わるようになったのは、日本の人口減少がはっきり見え始めてきた時代でもあります。小西美術工藝社の社長に就任して、日本の文化財の世界、そしてその文化財をビジネスにするはずの観光業界に、金融業界とそっくりの問題を見いだしたのです。
日本の観光業界は、日本特殊論に逃げ込んで、ビジネスチャンスを失っていました。数字をベースに論理的な戦略を立てた、経営ができていなかったのです。

小西美術工藝社では、国宝をはじめとする文化財の修復を生業としています。経営に携わってから不思議なことに気づきました。日本では、国宝や重要文化財の多くが、神社仏閣や博物館の奥底にしまわれたままで、めったに人の目に触れることがないのです。
文化財の維持にはコストがかかります。文化財は国民の財産でもありますから、国税を使って修理をします。ならば、文化財はもっと適切な形で公開して、お金を稼いだほうがいい。みんなが日本文化に親しむことができるし、ビジネスにもなる。持続可能な仕組みとはそういうものです。
ところが、文化財を扱っている人たちの多くは、「これが日本のやり方ですから」と日本特殊論を持ち出し、ロジカルに文化財の観光資源化を進めていなかったのです。

———つまり、文化財を観光商品にしていなかった。

そうです。実にもったいない話です。せっかくの宝物があるのに、それを市場に出していない。
観光は立派な産業です。
国連世界観光機関によると、世界の観光産業は、直接的・間接的および誘発的な影響も含めて、全世界のGDPの10%を占めています。11人に1人を雇用し、すべてのサービス業の輸出額の29%を占めているというデータもあります。しかも、大きな成長が見込める数少ない産業分野です。国連世界観光機関の長期予測では、これから2030年までの間に年平均3.3%の増加が見込まれているのです。

日本ではずっと不景気が続いています。70年代のイギリスのように。しかも、このままだと景気が大きく回復する見込みはかなり薄い。人口がどんどん減少しているからです。
どうすればいいのか。少子化対策を講じて出生率を上げても、すぐに人口が増えるわけではありません。

写真

となると、外から人を呼んでくるしかない。単純に考えれば移民政策をとればいい。人口が増加すれば、理論上GDPは上向きます。
ただ、いまの日本で大胆な移民政策を実施するのは現実的ではないでしょう。移民政策に対して拒否反応がありますし、日本語がメインの言語環境などを見る限り、移民の受け入れ体制は整っていません。

そこで秘策があります。「短期移民」を増やすのです。つまり外国人観光客を増やすのです。
一時的に遊びに来る観光客を増やすだけならば、日本の社会システムを大幅に変える必要はありません。たくさんの海外からの観光客が日本を訪れ、一定期間滞在してお金を使ってくれれば、実態として日本の消費人口が増えるのと同じ効果が得られるわけです。

そんな仮説を抱いて、私は『新・観光立国論』という書を物することにしました。
観光こそが人口衰退期の日本のような先進国にとって、最も有望な産業ではないかと。執筆に当たって、私は日本の観光産業の実態を調べてみました。
びっくりしました。
伝統文化を守るだけで観光商品にしていなかったことは知っていましたが、数字で見ると日本は想像以上の「観光後進国」だったのです。

日本を訪れる外国人観光客数は、国別で見て、2013年時点で27位。香港、マカオ、シンガポールのような都市や小規模国家より海外から訪れる観光客の数が少ない。
では、上位にはどんな国が並んでいるのか。1位フランス、2位アメリカ、3位スペイン、4位中国、5位イタリア、6位トルコ、7位ドイツ、8位イギリス、9位ロシア、10位タイ。欧米諸国が大半を占めています。
そう、観光は先進国のビジネスなのです。

———日本に魅力的な観光資源がないから、でしょうか?

いいえ。違います。
日本は、潜在能力で測れば、世界屈指の観光資源の豊富な国です。
観光産業を成り立たせるうえで、不可欠な観光資源は4つある、といわれています。
それは、その土地にしかない「気候」「自然」「文化」「食事」です。
日本は、この4つの観光資源をすべて有している稀有(けう)な国なのです。
南北に長く、海と山がある日本は、多様な気候と豊かな自然に恵まれています。
古くユニークな歴史を誇り、数々の貴重な文化財が各地にあります。
食は、素材も料理も世界第1級品です。
観光資源の潜在能力だけを見れば、まさに世界トップクラスの観光大国になってもおかしくありません。

ちなみにこの4つの観光資源を満たしている国は、例えばフランスやスペインがあります。両国とも国際観光客到着数ランキングの1位と3位、観光収入ランキング3位と2位、とまさに観光先進国の名をほしいままにしています。

2

Column DRIVE de Cartier

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

DRIVE DE CARTIER

ドライブ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 41mm ¥640,000(税抜)

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

挑戦なくして、成功はない。カルティエの3代目ルイ・カルティエは、良き挑戦者であり、常に業界をリードするパイオニアであった。その最大の功績の一つが、紳士用腕時計を世界で初めて製作したことだろう。1904年、彼はブラジルの飛行家にして、ベルエポック期のパリで注目を一身に集めただて男、アルベルト・サントス=デュモンのためにエレガントな腕時計を製作。これこそが紳士用腕時計の始まりであり、その後のメンズウォッチの方向を決定づけた。名作「サントス」の誕生である。

カルティエは、その後も「タンク」「バロン ブルー」「カリブル ドゥ カルティエ」など、数々のメンズウォッチを生み出し、いまも時計業界のパイオニアであり続けている。そして、それらの傑作時計すべてに当てはまるのが、官能的なデザインと機械的精緻さの両立である。美しいフォルムを持つカルティエの時計は、ひと目見ただけでそれとすぐに分かる。これは、ウォッチメーカーとしての高い技術力なしには成し得ないものだ。

今年、メンズコレクションに新たに加わった「ドライブ ドゥ カルティエ」にも、その伝統は受け継がれている。ローマン数字のインデックスやフランケ模様のギヨシェダイヤル、ソード型の針など、随所に際立つ“カルティエらしさ”。優雅なクッションケースのボリューム感が目を引くが、実際は薄く作られており、腕にすると驚くほどよくなじむ。スケルトンバックからは、自社製ムーブメントCal.1904の美しい仕上げを堪能できる。

腕時計としては揺るぎない正統派。それでいて、7のインデックスに小さくCartierの隠し文字を入れるカルティエの伝統的な遊び心も、現代の粋人を引きつけている。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ