田邊󠄂優貴子

06

極地の水の底には、いまも「原始の地球」が
手つかずで暮らしている。その秘密を明かしたい。

国立極地研究所 生物圏研究グループ 助教

田邊󠄂優貴子

TANABE Yukiko

2016. 11 .22 公開

interview : KATASE Kyoko 
photo : KIM Yongduck

3

死ぬことが悲しいこととは思えなくなった

——次はいつ、どこへ行きますか。

11月27日に南極へ向けて出発します。7︎度目の南極ですが、私としては初めての越冬隊です。帰国は2018年3月末。帰ってくる年に40歳になるので、「あ、40歳までの予定が埋まっちゃったな」と(笑)。

調査の目的は3つあります。

1つ目は、淡水湖に生息するシアノバクテリアが行う「窒素固定」の機能について調べます。生き物にとって窒素は必須ですが、南極には窒素が含まれる栄養源がない。シアノバクテリアは光合成をして酸素を出すだけではなく、水中に溶け込んだ窒素分子を固定してアンモニアなどの化合物にする機能を持っています。ただ、どのくらいの速度でどのくらいの量の窒素を固定する能力があるのかについては、まだわかっていません。それを実際に現場測定しようと思っています。

2つ目。淡水湖には、3メートル以上の厚さでシアノバクテリアや藻などの死骸が積もっています。この有機物が別のバクテリアに分解されると硝酸やアンモニアになる。それが、淡水湖に棲む藻類やコケの栄養素になる。シアノバクテリアが窒素を固定し、それを使って藻類やコケが育ち、みんなの死骸が分解されて窒素化合物になり、それを栄養にして藻類やコケ類がさらに育つ。閉ざされた湖の中で生命がうまく循環している。その機能のスピードや量について正確に調べていきたい。

3つ目は、同じ時期にできたはずの淡水湖で、まったく別の生態系ができあがっているのがこれまでの調査でわかっているので、それぞれの淡水湖の誕生年代を明らかにしたいと思っています。おそらく、それぞれの淡水湖の生態系は古いもので2万年前、新しいものでは100年前くらいにできたのではと見ています。

写真

——最初は同じ条件だったはずの湖が、独自の生態系を育んできたのですね。

それぞれの湖の調査を行うと、生物の進化と生態系の進化、その両方について、リアルタイムで分析ができるわけです。進化の研究は、生物や生態系がどうやって進化したのか、そのプロセスを追うのが物理的にむずかしいのですが、南極ではいわば天然の実験室がいくつもある状態。面白い結果が出ればいいな、と思っています。

生命の循環といえば、茶色かグレーの南極大陸で、地表に鮮やかな緑がわずかに広がっている部分を見つけたときのことを思い出します。
そこには、アザラシの赤ちゃんの死骸がありました。分析したところ、おそらく2000年前の死骸と分かりました。普通ならあっという間に白骨化するでしょうが、ここは腐敗させる菌もバクテリアもほとんどいませんから腐敗しにくい、低温で乾燥した状況なので、ゆっくりと時間をかけてフリーズドライのようになっていました。それでも、2000年たつと少しずつ分解されて硝酸やアンモニアができて、その結果、死骸の周りにコケが生える。

私が見た緑は、おそらくここへ迷い込んできて死んだアザラシの赤ちゃんの生命。生と死はくっきりと分かれているはずなのに、その境目はぼんやりとしているんです。

それを見て、生態系は死の上に成り立っているんだなと思いましたし、死ぬことが悲しいこととは思えなくなりました。宗教でも何でもないのですが、生態系を研究していると、そういう気持ちになります。

写真

——南米で民家に泊まり、アラスカでテント生活をし、京都から青森まで自転車で旅し、船が43度傾いても平気で、死が悲しくない。田邊󠄂さんに、怖いものはないのですか。

怖いもの、ですか。実は、蝶がダメなんです。生き物好きなのに、なぜかダメ。あのひらひらと舞うのが怖い。自転車に乗っているときに、目の前を蝶が横切ったので転んでしまったことがあります。実際には蝶ではなくて、舞っていた木の葉だったのですが(笑)。でも、南極には、蝶々、いないから安心です。

田邊󠄂優貴子
国立極地研究所生物圏研究グループ助教。博士(理学)
1978年、青森市生まれ。南極・北極・高山で生きる植物を対象とした生理生態学的研究をしており、特に、南極の湖沼生態系に強い興味を持って取り組んでいる。

3

CHANGEMAKERS 10

Column CLÉ de Cartier

Simplicity is an Art.

凛とした強さこそ、美しい。

CLÉ DE CARTIER

クレ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 31mm ¥485,000(税抜)

Simplicity is an Art.

凛とした強さこそ、美しい。

自立した現代的な女性のファッションやライフスタイルにマッチし、対等なパートナーとして気持ちを奮い立たせるモノ……。それがカルティエの時計である。

どのコレクションもかれんなフォルムを持っているが、単に美しいだけでなく“凛(りん)とした強さ”を感じるのは、カルティエが時代の変革者であるからに他ならない。
170年を超える歴史と文化、伝統は守りつつ、そこに安住するのではなく、時代の変遷に合わせて明確なビジョンを持ち、常に新しいスタイルを作り出してきたという実績が、時代を切り開いていく女性たちから支持されるのだろう。

「クレ ドゥ カルティエ」はクッション型のたおやかなケースと小ぶりなローマン数字のインデックス、そして華やかに広がるフランケ模様のギヨシェという、カルティエらしいディテールを持っている。

しかし最大の特色は、目に飛び込んでくる角型のリュウズだろう。これはクレ(フランス語で“鍵”の意味)と呼ばれ、ケースのサイドフォルムを際立たせるために考案されたもの。デザインと機構の両面で常に新しいチャレンジを行ってきたカルティエらしい斬新なディテールだが、角型にすることで指先にフィットし、針を操作しやすくなったという実用的なメリットも見逃せない。

バリエーションも豊富で、日常使いに適したステンレススティールモデルもあれば、特別な時間を過ごすためのダイヤモンドが配されたモデルもある。その“鍵”は、幸せの扉を開くアイテムとして、貴女にそっと寄り添ってくれるに違いない。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ