福田淳

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ライブラリーからライブの時代
だからこそコンテンツが王様なんです。

ソニー・デジタルエンタテインメント 社長

福田淳

FUKUDA Atsushi

2016. 12 .13 公開

interview : YANASE Hiroichi 
photo : KIM Yongduck

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ネットとスマホがもたらした「ライブが最高!」の時代

── 2011年の東日本大震災の頃ですね。

あの震災のときに、携帯電話がまったく通じなかったんですね。一方で、インターネット上のSNS、ツイッターやフェイスブックなどはちゃんと機能していた。いざというときに使える携帯端末は、従来の携帯電話、いわゆるガラケーではなく、当時発売から数年たったばかりのiPhoneを筆頭とするスマートフォンのほうだったわけです。スマホはパソコンと同レベルでインターネットにアクセスできる。きわめて限定的なネット利用しかできないiモードをベースにしたガラケーと大きな差がありました。
結果、日本ではガラケーとスマホのシェアがこのあと一気に逆転していきます。2016年に入ってからは、全世帯のスマホの保有率は70%を超え、10代20代に限れば97%です。
一方で数千億円のコンテンツ市場を一時はつくりだしたiモードを搭載したNTTドコモの携帯電話は2016年末をもって出荷終了となります。iモードという、一時は映画産業を超えるプラットフォームは17年で寿命を迎えてしまったわけです。

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そのiモードで流通していたコンテンツはどうなったか。
東日本大震災以降、一時はつぶれるかと思った僕らの会社ですが、その後、一気に普及するSNSのLINEを通じて展開します。LINEは国内限定だったiモードと異なり、海外の多数の国々で事業を展開しているため、ビジネスの広がりのスピードとケタが段違いでした。

主役はますますコンテンツです。
iモード時代からお付き合いいただいている楳図かずお先生は、LINEのスタンプ事業でも一緒にお仕事しています。楳図先生ご自身は、携帯電話もスマホも使ったことがない。でも、30年前、40年前に楳図さんの作り出したキャラクターは、今もスマホ上で活躍し、「グワシ!」といった決めポーズが今時の女の子のLINE上に登場する。まさに、「コンテンツ イズ キング」なんですよ。

とはいっても、コンテンツも同じかたちをしていてはダメです。
『新約聖書』のマタイ伝に、「新しい酒は、新しい革袋に入れよ」という言葉があります。新しい思想、新しい教えを人々に普及するには、新しい形式が必要だ、という意味です。ユダヤ教に代わってキリスト教を布教しようとする際に伝えられた言葉だそうですが、これはまさにコンテンツとプラットフォームにも当てはまる話です。

プラットフォームが変われば、コンテンツもかたちを変えなくっちゃいけない。雑誌やコミックになっている漫画をiモードで展開するときは、iモード用のキャラクターにしなければいけない。それが「デコメ」だったり「絵文字」だったりする。プラットフォームがスマホになったら、今度は「ステッカー」や「スタンプ」になる。

楳図先生にアニメで動く「ステッカー」をLINE用に描いていただいたときのことです。あるメディアがインタビューしました。
「もう(漫画の)新作は描かないんですか?」「またアニメはやらないんですか?」
すると楳図先生はこうおっしゃった。
「この『LINE』のアニメステッカーが最新作ですよ」
トップクリエイターはこのようによくわかっているんですね。新しいプラットフォームに合わせてコンテンツを作り直すのは十二分に創造的なことだということを。楳図先生はこう続けるわけです。
「これだけスマホが発達したら、むしろ1秒だけ動くアニメステッカーこそが最新のアニメだと思うよ」

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©KAZUO UMEZZ/SHOGAKUKAN 楳図かずお作のキャラクターがたくさん!楳図キャラのLINEステッカービジュアル

── これからはスマホがコンテンツのプラットフォームになるわけですか?

いえ、僕は必ずしもそう思っていません。むしろこう考えています。
「ライブラリーからライブへ」
スマホは、もちろんそこでコンテンツを配信することもできるけれど、むしろ人々を外に連れ出す手段としての機能が重要視され、コンテンツそのものは、「わざわざ出かけて」「一回こっきりしか体験できない」「消えもの」の「ライブ」に一番価値が出るようになる、と踏んでいるんです。

インターネットは、さまざまなコンテンツの図書館=ライブラリーになっています。お金さえ払えば、いつでも好きな音楽をダウンロードして聴くことができる。本だって、Kindleで読むことができる。映画だって、テレビ番組だって。好きなときに、過去のあらゆるコンテンツを、インターネット上のライブラリーから抜き出して、楽しむことが可能な時代です。夢のようですよね。
そんな便利な時代になったとき、みんな家に引きこもってパソコンのディスプレイの前でいろいろなコンテンツを寝そべりながら見るようになる……。
ほんのちょっと前まで、そんな近未来予測がありました。

ところが、スマホがインターネットメディアの主役の座をパソコンから奪い取りました。すると、インターネットは家の中から家の外に出るようになった。
じゃあ、今度はスマホで、誰もがどこでもいつでも自由にコンテンツを楽しむようになる……。たしかにそうなりました。なりましたが、実はもっと楽しいコンテンツの消費の仕方を、人々は気づいてしまったんですね。

それが、「ライブ」です。
この場合のライブというのは、コンサート会場でミュージシャンが歌うあのライブのことだけではなく、ある瞬間にある場所で1回きりしか味わえない、再生できないコンテンツのことです。
ウェブを通してだと「ニコニコ生放送」なんかも立派なライブです。
「ニコ生」が登場した当初、リッチな映像コンテンツやテレビ局のコンテンツがインターネットで見られるようになりつつあったので、「あんな素人同然のだらだらした放送に人が集まるわけがない」という声が、メディア業界では少なくなかったんです。でも結果はご覧の通りで、再生されない、つまりライブラリー化されない「ニコ生」は、インターネット上でのライブメディアとしての地位を確立しました。

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2007年、ミュージシャンのマドンナが、長年契約していたレコード会社ワーナーミュージックとたもとを分かち、世界最大の興行プロモーター、ライブ・ネイションと契約を結びました。さすがマドンナです。「マドンナ」というコンテンツの売り方を、レコード(CD)からライブへ、より明確にシフトしようと考えたのでしょう。

音楽を例にとると、コンテンツの消費の仕方は、そのコンテンツを消費するのに必要な「プラットフォーム」と「ハードウェア」に縛られていました。
1970年代まで音楽はLPレコードのかたちをしていました。ミュージシャンは1つのコンセプトに基づいたテーマで1枚40分前後のアルバムを制作し、消費者はおうちのステレオで神妙に聴いていた。
革命を起こしたのがソニーのウォークマンです。70年代後半に登場したウォークマンによって、音楽は自宅で聴くものから、カセットに好きな曲を録音して、自分の好きな場所で聴くスタイルに変化しました。ウォークマンというハードウェアの登場が、音楽というコンテンツの消費を変えたわけです。

さらに21世紀初頭、アップルのiPodというハードウェアが生まれ、iTunesというプラットフォームが登場して、人々の音楽の消費スタイルは激変しました。
音楽はかつてのLPレコードや音楽CDのように「アルバム」単位で購入するのではなく、自分の好きな曲だけをダウンロードして聴くようになりました。
結果、音楽CDは90年代後半をピークに市場が大幅縮小し、米国では大手ショップが倒産しました。

じゃあ、音楽はiPodやスマホでヘッドホン越しに孤独に聴くコンテンツになったのか? 違います。
先進的なミュージシャンは積極的に「ライブ」を中心にビジネスモデルを組み直しています。先ほど取り上げたマドンナもそうです。アメリカの伝説的なバンド、グレイトフル・デッドは、すでに70年代からライブを中心としたビジネスモデルを構築し、インターネットビジネスのお手本になるような「フリーミアムモデル」を確立しました。音楽がインターネットの普及で「ライブラリー化」し、「コモディティ」になった21世紀、一番価値ある消費の仕方は、一番原始的な生演奏、ライブになったというわけです。

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Column DRIVE de Cartier

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

DRIVE DE CARTIER

ドライブ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 41mm ¥640,000(税抜)

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

挑戦なくして、成功はない。カルティエの3代目ルイ・カルティエは、良き挑戦者であり、常に業界をリードするパイオニアであった。その最大の功績の一つが、紳士用腕時計を世界で初めて製作したことだろう。1904年、彼はブラジルの飛行家にして、ベルエポック期のパリで注目を一身に集めただて男、アルベルト・サントス=デュモンのためにエレガントな腕時計を製作。これこそが紳士用腕時計の始まりであり、その後のメンズウォッチの方向を決定づけた。名作「サントス」の誕生である。

カルティエは、その後も「タンク」「バロン ブルー」「カリブル ドゥ カルティエ」など、数々のメンズウォッチを生み出し、いまも時計業界のパイオニアであり続けている。そして、それらの傑作時計すべてに当てはまるのが、官能的なデザインと機械的精緻さの両立である。美しいフォルムを持つカルティエの時計は、ひと目見ただけでそれとすぐに分かる。これは、ウォッチメーカーとしての高い技術力なしには成し得ないものだ。

今年、メンズコレクションに新たに加わった「ドライブ ドゥ カルティエ」にも、その伝統は受け継がれている。ローマン数字のインデックスやフランケ模様のギヨシェダイヤル、ソード型の針など、随所に際立つ“カルティエらしさ”。優雅なクッションケースのボリューム感が目を引くが、実際は薄く作られており、腕にすると驚くほどよくなじむ。スケルトンバックからは、自社製ムーブメントCal.1904の美しい仕上げを堪能できる。

腕時計としては揺るぎない正統派。それでいて、7のインデックスに小さくCartierの隠し文字を入れるカルティエの伝統的な遊び心も、現代の粋人を引きつけている。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ