新海誠

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観た人が、「ちょっと違う自分になった」
そう思ってくれる映画を、撮りたい。

アニメーション監督

新海誠

SHINKAI Makoto

2016. 12 .20 公開

interview : SAKIYA Miho 
photo : KIM Yongduck

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「自分もそうだったかもしれない」と思いを馳(は)せることから、人生も映画も始まる。

── これまでの新海作品の強みが、今回はさらに生かされている、と思った部分があります。映画の舞台と風景の描写。美しく描かれた風景が、自分がいる場所に対する圧倒的な肯定感を象徴しているように感じます。しかも、東京と山間の田舎、どちらもがそれぞれ美しく、生き生きと描かれている。

『君の名は。』は東京の男子高校生・瀧と、田舎の女子高生・三葉の心身が入れ替わるというストーリーです。必然的に、「東京と地方」という対比が出てくるのですが、「どちらも全然違うけど、どちらも同じくらい美しく描こう」と、ここは最初からはっきり決めていました。
「東京と地方」を対比して描くとき、映画やアニメの中の東京は、人が多くてごみごみしていて自然が少なくて空が狭くて、といったネガティブなイメージをまとった場所になっていたりします。
でも、長野で生まれ育った僕からすれば、東京の空は広いと思うんです。平野の街ですから。長野県の故郷のほうが八ヶ岳や奥秩父山地に囲まれていて、空は狭い(笑)。東京の景色のほうが開放感がある。そういう実感があったからこそ、「東京は空が狭くてぎすぎすしている」といった、ステレオタイプのありきたりな表現を、僕はそもそもまったく信じていないんです。

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物語の必然としても、東京と地方の両方を、違いを際立たせながらどちらも「美しく描く」のは最重要課題でした。
東京に育った瀧、地方に育った三葉。それぞれ、自分の環境の中で自分の大切な人たちに囲まれて育ち、暮らしている。心身が入れ替わることで、お互いがそれぞれの家族や友人のいる日常に混じりながら、いつしか惹かれていく。瀧に入れ替わった三葉が「東京はこんな人混みばっかでやだ」と思っちゃダメだし、三葉に入れ替わった瀧が、文字では「ど田舎」なんて毒づいた言葉を書いたりしているけど、なんだかいいところだな、いい友達がいるな、と思ってくれなければダメ。
だから、東京も地方も、どちらの景色もどちらの生活も、楽しく美しくなければならない。でなければ、会ったこともない誰かを好きになったりはしないだろう、と。

昔からずっと、「ただひとつの価値だけが正しい」と示すような映画はつくりたくない、という思いがあるんです。 現実の世界で、僕たちは人生において何度も選択を迫られます。2つの道のどちらかを選び続けている。僕の場合、大学進学時に、長野の田舎から東京に出る選択をした。東京で仕事を得てアニメーションの監督になる道を選択した。長野に残って親の家業を継ぐという道を選ばなかった。
でも、監督にならなかった自分、長野に帰って家業を継いでいる自分を今でもクリアに想像できるんです。毎日八ヶ岳を見ながら仕事をしているもうひとりの自分が、どこかに生きているような気がする。
どちらの道を選ぶのが正解だったのか。それを後からこっちだと断言するのは残酷なことだし、そもそも正解なんかない。どの道を選ぶのか、どこに住むのかは、自分の決断やいろいろな偶然の積み重ねを経て、長い時間軸のなかで決まっていくものです。
現実がそうならば、映画だってそう描いたほうがいいじゃないか。だから僕は、ひとつの価値だけを優位に置くような話ではなく、常にいろいろな選択肢を示す物語を描きたい。2つの道があったとき、実際に選べるのは1つだけど、どちらの道も肯定する。だから、「こちらを選んだら、あちらの道はダメなんだよ」ではなく、どちらも美しいし、どちらの道を選んでもいいんだよ、と。
この思いは、映画をつくり始めたときから今に至るまでずっと保ち続けています。
『ほしのこえ』の前につくった自主制作アニメーション『彼女と彼女の猫』のラストで、僕は主人公の猫にこう言わせています。
「僕も、それからたぶん彼女も、この世界のことを好きなんだと思う」

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©Makoto Shinkai 自主制作アニメーション『彼女と彼女の猫』より

── 『君の名は。』は、人生で選んだ道、選ばなかった道の岐路を示してやり直す機会を与える映画でした。そこで連想するのが、現実に起きてしまった東日本大震災です。

『君の名は。』は東日本大震災をモチーフにしたのでしょうか?とよく聞かれます。

直接意識はしていなかったんです。

東日本大震災が起きたあとに僕が個人的に思ったのは、みんなが「他者への想像力」を駆使するようになった、ということです。ベタに「思いやり」と言ってもいいかもしれない。それは「もしかしたら自分が当事者だったかもしれない」と他人の運命に共感し、自分を投影し、ひとごとから自分ごとにすることではないでしょうか。
震災があったときに、たくさんのひとびとが心の底から被災地の人たちを心配し、なんとかしてあげたい、と行動しました。まさに「自分があの場所にいたかもしれない」と当事者意識を持ったから、ひとごとじゃなくなった。 「自分があの人だったらどうしただろう」「自分が今と違う場所に住んでいたら」「自分が違う性別だったら」と、今の自分じゃない状態を想像することが、人間の共感、さらに言えば愛情の根源のような気がします。

映画も含めあらゆる芸術作品は、必然的に時代の空気の影響を受け、その反映として登場します。その意味では、間違いなくあの震災とそれ以降の空気の影響下にあった、と思います。

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── 『君の名は。』は、海外でも高い評価を得て、すでにいくつかの国では大ヒットしています。日本を舞台にした話をディテール細かく描きながら、人間にとってもっとも普遍的なテーマを描いているからこそ、国境を超えて人々の心をつかんだのでしょうか。

おかげさまで『君の名は。』も、スペイン、韓国、ロンドン、スコットランドなど、さまざまな国の映画祭で上映していただいています。台湾に引き続き、中国でも大規模に公開されました。
海外で温かい評価をいただき、たくさんの人たちが観に来てくれる。本当に勇気づけられましたね。
たとえば、ハリウッドの映画はかかっている資金も労力も圧倒的に巨大です。それであるがゆえに、内容にしても興行収入にしても邦画が勝てるわけないと思われている。
『君の名は。』の国内での観客動員数、そして海外での評価とお客さんの入りをみると、僕たちだって日本の中はもとより世界に映画を届けることができるんだ、と実感できます。だから、ここは欲張って、この映画をもっともっとたくさんの人に観てほしいです。

── 次回作の構想はもう固まっているんですか?

まだ真っ白です(笑)。12月中にはなんとかしなければ……。ただ、次の作品もみんなに楽しんでもらえる映画をつくりたい。それだけははっきり決めています。

新海誠
アニメーション監督
1973年生まれ、長野県出身。2002年個人制作した短編作品「ほしのこえ」でデビュー。新世紀東京国際アニメフェア21「公募部門優秀賞」をはじめ多数の賞を受賞。2004年初の長編作品『雲のむこう、約束の場所』は、第59回毎日映画コンクール「アニメーション映画賞」を受賞。2007年『秒速5センチメートル』で、アジアパシフィック映画祭「最優秀アニメ賞」、イタリアのフューチャーフィルム映画祭で「ランチア・プラチナグランプリ」を受賞。2011年『星を追う子ども』で第八回中国国際動漫節「金猴賞」優秀賞受賞。2012年内閣官房国家戦略室より「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」として感謝状を授与される。2013年『言の葉の庭』でドイツ・シュトゥットガルト国際アニメーション映画祭の長編アニメーション部門グランプリ受賞。第18回信毎選賞受賞。2016年『君の名は。』は興行収入200億円を超え、すでに歴代5位。スペイン・シッチェス・カタロニア映画祭でアニメーション最優秀長編作品賞受賞。韓国・プチョン国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門で優秀賞と観客賞をW受賞、第42回ロサンゼルス映画批評家協会賞でアニメ映画賞を受賞、第29回日刊スポーツ映画大賞で監督賞を受賞。各国で公開され、中国でも公開直後から大ヒットするなど、世界規模の作品に。

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CHANGEMAKERS 10

Column DRIVE de Cartier

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

DRIVE DE CARTIER

ドライブ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 41mm ¥640,000(税抜)

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

挑戦なくして、成功はない。カルティエの3代目ルイ・カルティエは、良き挑戦者であり、常に業界をリードするパイオニアであった。その最大の功績の一つが、紳士用腕時計を世界で初めて製作したことだろう。1904年、彼はブラジルの飛行家にして、ベルエポック期のパリで注目を一身に集めただて男、アルベルト・サントス=デュモンのためにエレガントな腕時計を製作。これこそが紳士用腕時計の始まりであり、その後のメンズウォッチの方向を決定づけた。名作「サントス」の誕生である。

カルティエは、その後も「タンク」「バロン ブルー」「カリブル ドゥ カルティエ」など、数々のメンズウォッチを生み出し、いまも時計業界のパイオニアであり続けている。そして、それらの傑作時計すべてに当てはまるのが、官能的なデザインと機械的精緻さの両立である。美しいフォルムを持つカルティエの時計は、ひと目見ただけでそれとすぐに分かる。これは、ウォッチメーカーとしての高い技術力なしには成し得ないものだ。

今年、メンズコレクションに新たに加わった「ドライブ ドゥ カルティエ」にも、その伝統は受け継がれている。ローマン数字のインデックスやフランケ模様のギヨシェダイヤル、ソード型の針など、随所に際立つ“カルティエらしさ”。優雅なクッションケースのボリューム感が目を引くが、実際は薄く作られており、腕にすると驚くほどよくなじむ。スケルトンバックからは、自社製ムーブメントCal.1904の美しい仕上げを堪能できる。

腕時計としては揺るぎない正統派。それでいて、7のインデックスに小さくCartierの隠し文字を入れるカルティエの伝統的な遊び心も、現代の粋人を引きつけている。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ