日経ビジネスオンラインスペシャル
デービッド・アトキンソン

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日本人より日本の売り方を知る英国人。
「観光」で日本を救う。

小西美術工藝社 社長

デービッド・アトキンソン

David Atkinson

2016. 11 .1 公開

interview : SAKIYA Miho 
photo : KIM Yongduck

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観光立国に「チェンジ」すれば日本の未来は明るい

——どうしてこれほど観光資源に恵まれているのに、海外からの観光客が少ないのでしょう?

アピールが的外れだからです。マーケティングが、戦略が、間違っていたのです。
他の国にはない日本の観光の魅力は何ですか?と日本の観光関係者に聞きます。
すると決まって返ってきたのは、「おもてなし」と「治安のよさ」です。
「電車のダイヤが正確だ」という人も多いですね。
実際、2020年の東京オリンピック招致のときにも「おもてなし」というキーワードが前面に出ました。

観光関係者や政府関係者だけでなく、一般の日本の方も同様の勘違いをしたのかもしれません。とあるインターネットの調査で、日本のどこを世界にアピールしたいか、と一般の方々に聞いたところ、1位が「日本人のマナーや気配りの素晴らしさ」でした。
でも、自分が海外旅行に行くとき、目的地をどうやって決めますか?
マナーのよさですか。サービスのよさですか。電車が遅れずにやって来ることですか。
それを「目的」として、何時間も飛行機に乗り、何十万円もかけて外国旅行をしようと思いますか。
違いますよね。
「おもてなし」や「治安のよさ」や「ダイヤが正確」というのは、実際に訪れた観光客にとってすれば、最高の顧客サービスです。でも、それを求めて訪れるわけではない。観光の「動機」にはなりません。
観光客は、「そこでしか味わえない」気候や自然や文化や食を求めて、異国の地を訪れるのです。
アピールすべきは、まず、日本にしかない気候や自然や文化や食事であり、こうした観光資源を気持ちよく消費できるような商品化をする必要があります。

例えば、日本には素晴らしい自然を有する国立公園が全国各地にあります。あるいは、私が仕事でも関わっているかけがえのない国宝や重要文化財があります。ところが、こうした国立公園も文化財も「手厚く保護する」のが監督官庁の目的となってしまい、観光客に気持ちよく体験してもらいながらちゃんとお金を稼ぐ、という発想での運営がほとんどされていませんでした。

重要文化財の1つである歴史ある茶室なども、ただ部屋がぽつんとあるだけで、茶器も茶釜もなければ、掛け軸や茶花すら置かれていなかったりします。そこで誰がどのように「茶道」を行っていたのか、訪れた観光客にはさっぱり分からないのです。古い建造物を「ハコモノ」として展示しているだけなのです。

いま、ようやく日本政府はこうした姿勢を変えようとしています。

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———どうすれば、文化財や自然を観光商品化できるのでしょう?

3つの仕掛けを用意することです。
それは、座って休めるところ、飲み食いできるところ、説明してくれるガイドなど楽しむところ、です。
逆にいうと、日本の文化財が展示してある場所や、自然を楽しめる場所は、神社仏閣、国立公園はもちろん、博物館や美術館でも、この3つが用意されていないケースがとても多かったのです。

観光客は、特定の観光地を訪れたとき、美術館だろうが、建造物だろうが、国立公園だろうが、まずその場所がどんな特徴があり、どんな歴史があり、どんな文化が営まれていたのか、詳しく説明が聞きたいはずです。
つまり、観光ガイドが必須なのです。生身の人間でも、音声装置でもいい。ガイドブックでも案内板でもいい。とにかくちゃんとしたガイドが欲しいのです。
観光客が、その観光地に長く滞在したい場合は、休憩する場所が必要です。ゆったりくつろげるところが欲しいのです。さらに、もっとその観光地をゆったり味わいたい場合は、その場に、お茶やコーヒーを飲んだり、夕方以降だったらワインを傾けたりして、さらには食事ができる場所も欲しい。

観光客を「もてなす」というのは、「おもてなし」という曖昧な概念ではなく、もっと具体的に、自分の家にお客さんを招いてもてなしをするのと同じである、と考えると分かりやすいはずです。
お客さんを自宅に招いたら、まずはくつろげる場所は欠かせません。ソファにしろ、気持ちのいい畳敷きの和室にしろ。それから好みに応じた飲み物、お茶やコーヒーやアルコール類を用意し、食事も振る舞うことでしょう。そして、「会話」が、「おしゃべり」が、もてなしの中心になるはずです。
海外から観光客を受け入れるというのは、自宅にお客さんを招くのと同じである。そう考えると、日本の観光地には、自慢の一品はあるけれども、訪れたお客さんがくつろげる場所も、飲み物も、食べ物も、そして楽しいおしゃべりや説明も、用意されていないことが多い。
これでは、せっかく訪れた観光客がまた来ようとは思わないはずです。

——アトキンソンさんは、日本には、非常に豊かな観光資源があるのに、それを産業化できていない現状を、『新・観光立国論』で具体的に指摘されました。その後、変化はありましたか?

日本の観光市場はいま好転しつつあります。
幸いにも、東京オリンピックの2020年開催が決定し、また中国やアジアからの観光客が激増し、海外からの観光客はここ数年で年間数百万人規模で増加しました。

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著者としてとてもうれしいことですが、本を出した後に、日本の観光業界はもちろん、日本政府からも意見を求められる機会がとても増えました。私は、率直にものをいう人間なので、まさにいま申し上げたような、いささか辛口な提言を行いました。その結果かどうかわかりませんが、いま各地で、日本の貴重な観光資源に「チェンジ」が起きつつあります。

日本を代表する国宝の城といえば、兵庫の姫路城ですね。改修も終わって白鷺城の名にふさわしい真っ白な美しい天守閣を見物できるようになりました。この姫路城の敷地内にスターバックスが出店する話があるそうです。日本の城址の多くは、建造物をただ眺めて、天守閣に上るだけでおしまい、というところが大半でした。
スターバックスが敷地内にできるだけで、訪れた観光客はそこでくつろぐことができますし、美しい城を見ながらコーヒーをゆっくり味わうこともできます。小さいけれど大きな進歩です。観光客の滞在時間は当然延びます。プラスアルファの商品開発も可能になるはずです。

東京の中心、迎賓館赤坂離宮。美しい建物は多くの人の知るところですが、でも近くでご覧になった方は少なかったはずです。その迎賓館が一般公開されるようになりました。
私はいま、この迎賓館の広場で、音楽大学の人たちに協力してもらってクラシックの演奏を行い、演奏を聴きながらワインなどを飲める企画を提案しています。
夕暮れ時、ライトアップされた美しい洋館を眺めながら、音楽と、お酒と、食事を楽しめる。いままで、ただ横を通り過ぎるだけだった迎賓館が、多くの観光客を集める観光商品に変わるわけですね。

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さらに、日本各地の国立公園も施設を充実させて、公園内の自然が楽しめるようにガイドの説明を聞き、ゆっくり飲食を楽しめるような工夫をする話も出てきました。アメリカの国立公園などは、ガイドつきの有料ツアーが売り物だったりしますし、現地で宿泊もできたりします。日本の国立公園でも同様の整備ができるはずです。

日本にはかけがえのない観光資源がいくつもある。でもその大半はこれまで稼ぐことのできる観光商品になっていなかった。逆に言えば、未開拓のビジネスチャンスがたくさんある。イギリスからやって来た外国人だった私は、もしかしたら第三者だったからこそ、日本の素晴らしさも、日本のピントはずれのところも、両方気づくことができたのかもしれません。
私の気づきが、例えば観光産業の振興、という形で日本の未来を明るくする一助になれたら……、これほどうれしいことはないですね。

撮影協力:ホテルニューオータニ

デービッド・アトキンソン

1965年イギリス生まれ、51歳
1983年オックスフォード大学 日本学専攻。1987年卒業
1987年アンダーセン・コンサルティング、1990年ソロモンブラザーズ証券会社を経て、1992年ゴールドマンサックス証券会社入社。1998年Managing director(取締役)、2006年Partner(共同出資者)となるが、2007年退社。
2009年(株)小西美術工藝社入社、2010年代表取締役会長就任、2011年代表取締役会長兼社長、2014年代表取締役社長就任、現在に至る。

1999年 裏千家入門 現在 茶名「宗真(そうしん)」を拝受
2015年5月 京都国際観光大使就任
2015年9月 山本七平賞受賞(新・観光立国論)
2016年3月 不動産協会賞(新・観光立国論)

著書
銀行不良債権からの脱却( 日本経済新聞社)
イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る 雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言(講談社+α新書)
新・観光立国論(東洋経済新報社)
イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」 (講談社+α新書)
国宝消滅(東洋経済新報社)

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CHANGEMAKERS 10

Column DRIVE de Cartier

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

DRIVE DE CARTIER

ドライブ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 41mm ¥640,000(税抜)

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

挑戦なくして、成功はない。カルティエの3代目ルイ・カルティエは、良き挑戦者であり、常に業界をリードするパイオニアであった。その最大の功績の一つが、紳士用腕時計を世界で初めて製作したことだろう。1904年、彼はブラジルの飛行家にして、ベルエポック期のパリで注目を一身に集めただて男、アルベルト・サントス=デュモンのためにエレガントな腕時計を製作。これこそが紳士用腕時計の始まりであり、その後のメンズウォッチの方向を決定づけた。名作「サントス」の誕生である。

カルティエは、その後も「タンク」「バロン ブルー」「カリブル ドゥ カルティエ」など、数々のメンズウォッチを生み出し、いまも時計業界のパイオニアであり続けている。そして、それらの傑作時計すべてに当てはまるのが、官能的なデザインと機械的精緻さの両立である。美しいフォルムを持つカルティエの時計は、ひと目見ただけでそれとすぐに分かる。これは、ウォッチメーカーとしての高い技術力なしには成し得ないものだ。

今年、メンズコレクションに新たに加わった「ドライブ ドゥ カルティエ」にも、その伝統は受け継がれている。ローマン数字のインデックスやフランケ模様のギヨシェダイヤル、ソード型の針など、随所に際立つ“カルティエらしさ”。優雅なクッションケースのボリューム感が目を引くが、実際は薄く作られており、腕にすると驚くほどよくなじむ。スケルトンバックからは、自社製ムーブメントCal.1904の美しい仕上げを堪能できる。

腕時計としては揺るぎない正統派。それでいて、7のインデックスに小さくCartierの隠し文字を入れるカルティエの伝統的な遊び心も、現代の粋人を引きつけている。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ