日経ビジネスオンラインスペシャル
篠田真貴子

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「ほぼ日」の上場は、
私にとっての「顧客の創造」です。

東京糸井重里事務所 取締役 CFO

篠田真貴子

SHINODA Makiko

2016. 11 .8 公開

interview : SAKIYA Miho 
photo : KIM Yongduck

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「在庫管理」をすると、クリエイティブに集中できる

———「吉本隆明に会う」。それが、篠田さんの一番欲しいものだったんですね。

はい。
このお仕事から「ほぼ日」にかかわるようになったことは、結果的に良かったと思っています。
これまで働いていたグローバルな大企業とはまったく違う論理で働いている世界だという実感がわいたので。
さらに、ミーティングでは損益分岐点の考え方などを説明し、1年で売れる商品ではないので、何年かかけて総体でこれくらいの利益が出たらいいですよね、といったことを糸井に話しました。
そうしたら、すごく喜ばれて、ああ、こういうことが必要とされていたんだなと。
月に1度か2度、顔を出しているうちに、誘われました。
「篠田さん、うちに来てください」
どこかで糸井からのその言葉を待っていたのかもしれません。私は迷うことなく転職を決めました。2008年10月のことです。周囲はけっこうびっくりしたと思いますけど。

ただ、入社して、私は私でびっくりしました。
今までいた外資系の大企業とあまりにいろいろなことが違うので。
たとえば、その頃の「ほぼ日」には、経理担当はいたけれど、事業計画を立てる人がいなかったんです。

いまだによく覚えている当時のエピソードがあります。その吉本隆明プロジェクトでは、いくつかの商品ラインナップがあって、ある商品に対して私は2000個の発注がいいと進言したんです。
2週間後にチームメンバーに会ったら、「糸井さんが『3000個にしよう』と言うから3000個発注しました」と言うんですよ。
えっ! 絶対余りそう……。
そのときは、まだ社員になる前だったのですが、入社して在庫を見るようになったら、やっぱり余りました。何年か後にばっちり償却しました(笑)。私の最初の仕事のひとつです。

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———糸井さんは、当時の「ほぼ日」にはクリエイティブはあるけれど、マネジメントやファイナンスが欠けている、と自覚していたからこそ、CFOとして篠田さんを引き入れたのでしょうか?

「自分がいなくなったあとも残る会社にしたい」とは、当時から言っていました。たとえばウォルト・ディズニー・カンパニーみたいな会社ですね。創業者のウォルト・ディズニーは漫画家でありアニメーター、つまりクリエーターです。その彼がつくったディズニー・カンパニーは、ウォルトの死後も、クリエイティブを生み出し続ける会社であり続けている。
ただし、「ほぼ日」が今のままでは、そして、このままでは、ディズニー・カンパニーのようにはならないだろう、と糸井は真剣に思っていたのでしょう。私がお手伝いしていた時期に、すでに外から見ても、糸井がクリエイティブをちゃんと会社のかたちにしていく、というのをどうすればいいのか悩んでいるのが伝わってきました。
当時、すでに社員は40人ほどいました。でも、実態は糸井重里の「個人商店」。ひとつひとつの仕事は「学園祭の出店」みたいな状態でした。「企業」の体を、まだなしていなかった。
個々の社員は能力も当事者意識もあるんです。でも、1+1+1+と足し算で計40になっているだけ。
それぞれの社員の能力がつながり、掛け算できる仕組みをうまくつくれば、40人の社員の力が50人、60人分、あるいは100人分の仕事になります。組織であるメリットがほとんど生かされてなかったんです。
私がこれまでのキャリアで、管理部門の仕事をずっとやってきたことも関係していたでしょうね。
管理部門がそれぞれの社員の仕事を2割ほど引き受けたら、社員たちはその2割の力をよりクリエイティブなことに向けられるのに、もったいないなあとも思いました。

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———篠田さんが「ほぼ日」でクリエイティブをどうマネジメントするかという課題に挑んだと。

うーん、直接、クリエイティブをマネジメントしているという意識はないんですよ。
むしろ、それぞれの仕事のクリエイティブ以外の部分を効率化し、コンテンツを生み出す仕事に社員がもっと集中できる環境をつくってきた、という感じでしょうか。

たとえば、在庫管理。さきほどもちょっと話しましたが、私が入社するまで「ほぼ日」では、在庫をまったく見ていなかったんです。
つまり一度も棚卸しをしていない。そこで入社から5ヵ月後の2009年の3月、決算前に乗組員たちと、意を決して倉庫を見に行きました。

段ボール箱がずらーっと並んでいる。けれど、外からじゃ何が入っているのか見当もつかない。
そこでおそるおそるひとつの段ボール箱を開けてみた。中にピンクの腹巻きがどっさり入ってる(笑)。いったいいつの商品だろう? 私は「腹巻き」チームのメンバーを呼んで、いつ販売した、どのサイズの商品かを教えてもらって、個数を数えました。すると帳簿の残高と合わない。

これはもう「腹巻き」だけじゃないな。私は居並ぶ段ボール箱を目の前に決心しました。管理できるようにしよう。

そこで、どのアイテムがいつ、いくつ入荷して、「ほぼ日ストア」で受注したらいくつ出荷して……というシステムを構築したのです。倉庫会社も、バーコードでの個品管理を導入し、アイテムごとに何がどこにいくつあるか、いつでも分かるようにしてくださいました。
在庫数は倉庫会社さんに毎月数えてもらい、それを帳簿とつけあわせる。この仕組みをつくるのに2年かかりました。
ただ、この仕組みができたことで商品数が増えても、きっちりさばけるようになったんです。

ある商品がヒットしてどんどん受注したいときも、データベースがあるので混乱しないし、増産や増刷も大ざっぱなあて推量ではなく、数字に基づいて行える。

「ほぼ日」は、取り扱い商品のアイテム数がけっこうあるんです。いまや3000種類くらいある。それでも、ちゃんと商いができて、利益を出せるのはこの仕組みがあるからです。販売機会を失わずに供給量も増やせますから、売り上げも伸びました。ほら、管理って、クリエイティブでしょ(笑)。

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Column CLÉ de Cartier

Simplicity is an Art.

凛とした強さこそ、美しい。

CLÉ DE CARTIER

クレ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 31mm ¥485,000(税抜)

Simplicity is an Art.

凛とした強さこそ、美しい。

自立した現代的な女性のファッションやライフスタイルにマッチし、対等なパートナーとして気持ちを奮い立たせるモノ……。それがカルティエの時計である。

どのコレクションもかれんなフォルムを持っているが、単に美しいだけでなく“凛(りん)とした強さ”を感じるのは、カルティエが時代の変革者であるからに他ならない。
170年を超える歴史と文化、伝統は守りつつ、そこに安住するのではなく、時代の変遷に合わせて明確なビジョンを持ち、常に新しいスタイルを作り出してきたという実績が、時代を切り開いていく女性たちから支持されるのだろう。

「クレ ドゥ カルティエ」はクッション型のたおやかなケースと小ぶりなローマン数字のインデックス、そして華やかに広がるフランケ模様のギヨシェという、カルティエらしいディテールを持っている。

しかし最大の特色は、目に飛び込んでくる角型のリュウズだろう。これはクレ(フランス語で“鍵”の意味)と呼ばれ、ケースのサイドフォルムを際立たせるために考案されたもの。デザインと機構の両面で常に新しいチャレンジを行ってきたカルティエらしい斬新なディテールだが、角型にすることで指先にフィットし、針を操作しやすくなったという実用的なメリットも見逃せない。

バリエーションも豊富で、日常使いに適したステンレススティールモデルもあれば、特別な時間を過ごすためのダイヤモンドが配されたモデルもある。その“鍵”は、幸せの扉を開くアイテムとして、貴女にそっと寄り添ってくれるに違いない。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ