日経ビジネスオンラインスペシャル
松尾豊

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「眼」をもつロボットが、
日本の産業の活路を開く

東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻
消費インテリジェンス寄付講座 共同代表・特任准教授
産業技術総合研究所 人工知能研究センター企画チーム長

松尾豊

TANABE Yukiko

2016. 11 .29 公開

interview : SAKIYA Miho 
photo : KAWAZU Tatsunari

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——機械が「眼」を持てば、さまざまな仕事ができるようになる、というのはよくわかりました。でも、そこでなぜ日本の勝機が見えるのでしょうか?

日本には、「手足」をつくる技術があるからです。
眼があるだけでも認識する仕事はできますが、認識した上で上手に作業するには、手足が必要です。その手足にあたるのが、さまざまな機械だったりロボットだったりするわけです。
機械、ロボットの製造の分野でおしなべて進んでいる国といえば、日本です。産業機械などのシェアを見ればわかります。産業用ロボットや建設用機械、農業用機械は日本のメーカーが世界的に見ても非常に強い。もちろん自動車産業は言うまでもなく、です。

機械やロボットの開発や製造は、ものづくりにおける「長年の経験」と「技術の蓄積」が重要になります。いくらシリコンバレーの企業といっても、一朝一夕で真似をするのがとても難しい。日本はこの分野に技術的にも人的にも分厚い蓄積があります。「眼を持った機械」は巨大な潜在市場を持ち、この分野であれば日本は世界に勝てるかもしれない、ということです。

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たとえば、農業機械に「眼」がつくとどうなるでしょう。トマトやリンゴなどの収穫作業ができるようになります。どこにトマトやリンゴがなっているか、取っていいものかそうでないか「認識」できるからです。あるいは、「間引き」ができるようになります。摘花・摘果といった作業もできるはずです。選果もできます。防除も、除草もできるはずです。どれも「認識」ができればできるはずの作業ですから。

つまり、農業はほぼ自動化できるはずです。農家の方の熟練の認識能力を埋め込んで、眼を持った機械で判断させ、作業させるわけです。人手不足の解消につながるはずですし、農業というのが労働集約的な産業から、資産を活用する経営型のビジネスに変わります。

あるいは建設作業全般もそうです。建設の自動化ができれば、大きな輸出産業になるでしょう。また、調理もそうです。調理は典型的に認識を必要とする作業ですから、眼のない機械ではとうてい無理でした。しかし、「眼を持った機械」であれば自動化できる可能性が飛躍的に高まっています。外食産業のバックヤードはいずれは機械化されていきます。そうすると、日本の高いレベルの食を、世界各国に機械の形で提供することができる。世界中の食を、日本の機械を使って、日本の高い技術レベルで提供できるわけです。

さらに「片付け」もそうです。片付けは「眼」がないとできない典型的な作業でした。だから、いまだに片付けロボットはないのです。しかし、片付けロボットが家にあれば、朝、出かけて戻ってくると、全てのものがもとの場所に戻っているわけです。僕はこれを「家のホテル化」と呼んでいますが、生活感が大きく向上するはずです。女性が社会で活躍するのにも役立つでしょう。世界中の人が1日に片付けに使っている総時間は果たしてどのくらいでしょうか?家でもオフィスでも商業施設でも、どこにでも片付けという作業はあります。それらが自動化されたとしたとき、その潜在的な市場規模はいくらくらいでしょうか?

グーグルやフェイスブックがすごいといっても、彼らのマネタイズの中心となっているのは広告です。もちろん広告産業も巨大ですので馬鹿にするつもりは全くないのですが、産業の規模でいうと、実体をともなう、自動車や建設、医療や外食、家電といった産業はもっと巨大です。日本の製造業が本気を出して「眼を持った機械」を市場に投入することができれば、そしてそこで利益を生み出すことができれば、僕は、グーグルやフェイスブック以上の規模の「複利のイノベーション」を作り出すことができるのではないかと思うのです。

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——「ものづくり大国」日本の実績が、AI時代に改めて活かされるんですね。

「ものづくりに強い」日本は、ディープラーニングの進展という点から考えると、有利な状況にあると思っています。ものづくりは一朝一夕にはいかない。また、日本語という言語の障壁がなく、物流コストを考えると、日本という狭い範囲に知識を集積させる意義もある。日本人の几帳面さ、ある意味での過剰品質は、部品づくりになると価値を持ちます。そういったことを総合的に考えると、やはりものづくりに強い素養はある。それが、今回のディープラーニングのイノベーションである「眼」の技術によって大きく飛躍ができるのでは、と思うわけです。

さらに言えば、「眼を持つ機械」は、データを学習に使うために、必ずネットワークにつながないといけませんから、自然とクラウド上のサーバに接続され、認識能力が高くなると製品の付加価値が向上するという性質を持ちます。したがって、単独の製品を「もの売り」していたものが、サービス化し、サービスに対して課金するというビジネスモデルに自然に移行することができるのです。このあたりも、「眼を持つ機械」というコンセプトは、日本のものづくりが苦手だった部分を見事に長所に変えることができると思っています。

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Column DRIVE de Cartier

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

DRIVE DE CARTIER

ドライブ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 41mm ¥640,000(税抜)

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

挑戦なくして、成功はない。カルティエの3代目ルイ・カルティエは、良き挑戦者であり、常に業界をリードするパイオニアであった。その最大の功績の一つが、紳士用腕時計を世界で初めて製作したことだろう。1904年、彼はブラジルの飛行家にして、ベルエポック期のパリで注目を一身に集めただて男、アルベルト・サントス=デュモンのためにエレガントな腕時計を製作。これこそが紳士用腕時計の始まりであり、その後のメンズウォッチの方向を決定づけた。名作「サントス」の誕生である。

カルティエは、その後も「タンク」「バロン ブルー」「カリブル ドゥ カルティエ」など、数々のメンズウォッチを生み出し、いまも時計業界のパイオニアであり続けている。そして、それらの傑作時計すべてに当てはまるのが、官能的なデザインと機械的精緻さの両立である。美しいフォルムを持つカルティエの時計は、ひと目見ただけでそれとすぐに分かる。これは、ウォッチメーカーとしての高い技術力なしには成し得ないものだ。

今年、メンズコレクションに新たに加わった「ドライブ ドゥ カルティエ」にも、その伝統は受け継がれている。ローマン数字のインデックスやフランケ模様のギヨシェダイヤル、ソード型の針など、随所に際立つ“カルティエらしさ”。優雅なクッションケースのボリューム感が目を引くが、実際は薄く作られており、腕にすると驚くほどよくなじむ。スケルトンバックからは、自社製ムーブメントCal.1904の美しい仕上げを堪能できる。

腕時計としては揺るぎない正統派。それでいて、7のインデックスに小さくCartierの隠し文字を入れるカルティエの伝統的な遊び心も、現代の粋人を引きつけている。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ