日経ビジネスオンラインスペシャル
福田淳

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ライブラリーからライブの時代
だからこそコンテンツが王様なんです。

ソニー・デジタルエンタテインメント 社長

福田淳

FUKUDA Atsushi

2016. 12 .13 公開

interview : YANASE Hiroichi 
photo : KIM Yongduck

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マーケッターよ、未来学者になるな、考古学者になれ。

── 音楽以外も「ライブ」の波は来ているんですか?

ええ。映像でも来ています。映画ビジネスは、DVDというパッケージが世界的に一度重要なプラットフォームになりました。それがインターネットの普及でネットでの視聴が可能となり、CDが没落した音楽同様、パッケージビジネスとしてのDVDモデルは傾きました。
では今、みんな映画をスマホで見ているかというと、周りをご覧ください。
今年は、スマホ普及率97%の若者の間で日本映画が大ブレイクです。興行収入200億円を突破した『君の名は。』、世代を超えてブレイクした『シン・ゴジラ』、そして、ほぼ自主製作のような状況から口コミで大ヒット作品になった。『この世界の片隅に』。
どの映画も、わざわざ映画館に足を運び、立ち見客までが出る盛況ぶりで、しかも同じ人が何度も見に行くという現象が起きている。映画館で映画を見る、という一見原始的な「ライブ」な鑑賞法が、最先端になったんですね。その後押しをしたのが、スマホ片手にみんながSNSを介して口コミで広がったこと。音楽以上に「ライブ」の時代を迎えています。

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僕が仕掛けたライブイベントに、プラントハンターで園芸家の西畠清順さんの「ウルトラ植物博覧会」があります。化粧品のポーラが運営する銀座のポーラミュージアムで2015年、2016年と2回にわたって開催しました。清順さん、昨年のチェンジメーカーですね。先輩だ(笑)。
/atclh/NBO/15/changemakers/interview05_1/index.html
きっかけはポーラの鈴木郷史会長から、「ポーラのブランディングになるような、まったく新しい企画をこのミュージアムでできないだろうか」と依頼されたことです。
最初は、デジタルコンテンツを扱っている当社に声をかけてくださったということは、やはりハイエンドのデジタルコンテンツを美術館で展開しよう、と考えていたんです。ところが、以前から友人の清順さんに、世界中から集めてきた不思議な植物を見せてもらったとき、ぽんと思いついた。人間にはとても思いつかない、とってもへんてこな植物たちは太古の昔から現代まで生き延びてきている。清順さんに聞いたら「ホモサピエンスは20万年の歴史しかないけれど、植物は数十億年の進化のたまものですからね」と。自分が数十億年生きたわけでもないのに胸を張ってそういうわけです。
これは面白い。

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©西畠清順 2015年、2016年とポーラミュージアムで開かれた西畠清順の「ウルトラ植物博覧会」ビジュアル

今までの発想だと、生きた植物を美術館に展示することはあり得ないわけです。美術館で展示するのは、アート。アートってアーティフィシャル、人工的なもの。人のつくったもの。それがアートの定義なんですね。
美術館関係者に問い合わせたら、「植物を展示したことは、美術館では聞いたことがない」「なぜ?」「生きものだから。生きものは、アートじゃないです」
ますます面白い。ポーラの鈴木会長にプレゼンしたわけです。あえて、美術館のおきてを破って、人間のつくったアートではなく、自然が数十億年かけてつくったアート、世界の不思議な植物を展示したらいかがでしょう、と。
よもや通ると思わなかったんですが、ビジョナリーな経営者というのは、こういうとき決断が速い。「ぜひお願いします」。
かくして、「ウルトラ植物博覧会」が実現しました。蓋を開けたら、ポーラミュージアム史上最大の人の入り。結果、2年連続の開催と相成ったわけです。展覧会という「ライブ」に、植物=生きものという「ライブ」を展示する。誰も思いつかなかったけれど、やってみたら、みんなの心をつかんでしまった。

── 福田さんの会社は、今、そして未来に向けてどんな仕事を展開していくんですか?

僕たちはソニー・デジタルエンタテインメントをソーシャルデザインカンパニーと自称しています。お客さんは消費者と、企業。BtoCとBtoBの両方を手がけます。
消費者に向けては、豊富に揃えたクリエイターたちのコンテンツを最良のかたちで消費者に届ける仕事がメインになりますね。LINEのスタンプやアニメステッカーはその典型ですが、僕たちの強みはコンテンツそのものを持っていること。だから、プラットフォームの今後の進化や変化にも対応しながら、コンテンツを提供できます。

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企業に向けては、クライアントのソーシャルマーケティングのお手伝い、コンサルタント事業ですね。すでにたくさんの大手企業の依頼を受け、企業がインターネットやSNSを介して、つまりソーシャルの力を介して、自らのブランドや商品認知度を上げるお手伝いをしています。従来は「広告」でやっていたような仕事です、今後は消費者の口コミの力を利用して、つまりソーシャルの力を利用して、自然なかたちで知名度を上げていったり、ファンを増やしていく。
たとえばどんなことが考えられるか。
今、百貨店など大手流通業が転機を迎えています。有り体にいって人が入ってない。景気の問題やインターネットでの流通ビジネスの台頭などはもちろん背景にありますが、ソーシャルマーケティングの時代にまったく対応していないというのも大きな問題ではないか、と思うんですね。
若い人たちは、友達がどこで何をしているのかLINEやインスタグラムやスナップチャットなどを介して知るわけです。そのとき、特に女性たちはセルフィー=自撮り写真をアップする。それを見て、「わ、そこに行ってみたい!」という声が上がれば、人が集まり始める。
ところが、百貨店というのは、たいがいセルフィーを禁止していたり、写真を撮るのを断ったりしているんですね。あれ、自らお客さんを減らしているわけです。一流の建築家に建物を改装させて、最高のデザイナーに店舗デザインをさせているのに、その素晴らしさを消費者が共有することを禁じている。
だったら、お店をソーシャル化して、セルフィーオッケー、むしろ、積極的に自撮りポイントを設ける。それだけで、お客さんの数、増えるはずです。

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── 未来に向けてどんな仕事をすればいいのでしょう?

当社のモットーは「3カ年計画は立てない」です。理由は、3年先のことはわからないし、予測してもまず当たらないからです。iPhoneが登場するまで、スマートフォンが世界をこれだけ変えることを予測した人はいませんでした。出た後だって、すぐに廃れると言う専門家は少なくなかった。

たった1年前、米国大統領選の泡沫(ほうまつ)候補にすぎなかったドナルド・トランプは、共和党内の候補の中であっという間に頭角を現しました。それでも、ベテラン政治家にしてまっとうな民主党のヒラリー・クリントンに誰も勝つとは思っていなかった。結果はご覧の通りです。
トランプの勝利は、マスメディアを味方に付けたヒラリーの逆で、フェイスブックなどのSNSを駆使し、個別の小集団の人気を獲得していくソーシャルスターの戦略をとったおかげで、その意味では彼の発言の是非とは別に実にメディアのプラットフォームの大変化を象徴しています。ただ、それを事前に予測できたか。できませんでしたよね。誰も。

僕たちは未来学者になっちゃいけない。むしろ、人間とは何か、過去にどんなことをしてきたかを見極める考古学者になったほうがいい。
僕は未来を考える代わりに、いま、自分が何を楽しいと思うのか、気持ちいいと思うのか、面白いと思うのか、感覚を研ぎ澄ませています。そこに答えがある、と考えているからです。未来は、人間の本性とテクノロジーの掛け算です。そして、僕たちマーケッターの仕事はいつだって、人間って何を面白がるのか、をかたちにしていくことなんだと思います。

福田淳
ソニー・デジタルエンタテインメント 社長
1965年 大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業後、㈱ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントでバイスプレジデントを経て現職。衛星放送「アニマックス」「AXN」などの立ち上げに関わったのちソニー・デジタルエンタテインメント社を創業。NPO法人「タイガーマスク基金」の発起人をはじめ、多数のNPOのコンサルティング、文化庁、経済産業省、総務省などの委員を歴任。
「日経ウェブカンパニー」で“21世紀をよむITキーパーソン51人の1人”に選出。『これでいいのだ14歳。』(講談社)などの著書、講演多数。

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CHANGEMAKERS 10

Column DRIVE de Cartier

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

DRIVE DE CARTIER

ドライブ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 41mm ¥640,000(税抜)

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

挑戦なくして、成功はない。カルティエの3代目ルイ・カルティエは、良き挑戦者であり、常に業界をリードするパイオニアであった。その最大の功績の一つが、紳士用腕時計を世界で初めて製作したことだろう。1904年、彼はブラジルの飛行家にして、ベルエポック期のパリで注目を一身に集めただて男、アルベルト・サントス=デュモンのためにエレガントな腕時計を製作。これこそが紳士用腕時計の始まりであり、その後のメンズウォッチの方向を決定づけた。名作「サントス」の誕生である。

カルティエは、その後も「タンク」「バロン ブルー」「カリブル ドゥ カルティエ」など、数々のメンズウォッチを生み出し、いまも時計業界のパイオニアであり続けている。そして、それらの傑作時計すべてに当てはまるのが、官能的なデザインと機械的精緻さの両立である。美しいフォルムを持つカルティエの時計は、ひと目見ただけでそれとすぐに分かる。これは、ウォッチメーカーとしての高い技術力なしには成し得ないものだ。

今年、メンズコレクションに新たに加わった「ドライブ ドゥ カルティエ」にも、その伝統は受け継がれている。ローマン数字のインデックスやフランケ模様のギヨシェダイヤル、ソード型の針など、随所に際立つ“カルティエらしさ”。優雅なクッションケースのボリューム感が目を引くが、実際は薄く作られており、腕にすると驚くほどよくなじむ。スケルトンバックからは、自社製ムーブメントCal.1904の美しい仕上げを堪能できる。

腕時計としては揺るぎない正統派。それでいて、7のインデックスに小さくCartierの隠し文字を入れるカルティエの伝統的な遊び心も、現代の粋人を引きつけている。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ