日経ビジネスオンラインスペシャル
新海誠

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観た人が、「ちょっと違う自分になった」
そう思ってくれる映画を、撮りたい。

アニメーション監督

新海誠

SHINKAI Makoto

2016. 12 .20 公開

interview : SAKIYA Miho 
photo : KIM Yongduck

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2002年、たった1人で制作したSFアニメーション『ほしのこえ』で、衝撃のデビューを果たした新海誠監督。その後も『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』『言の葉の庭』を発表。圧倒的に美しい背景を舞台に、お互い求め合うのにすれ違う人たちを描写し続け、高い評価を獲得してきた。
2016年夏公開した『君の名は。』は、東京と山奥の遠く離れた場所に暮らす、出会ったことのない高校生の男女が夢の中で入れ替わるところから始まる壮大な物語。新海作品の集大成であり、誰もが楽しめる大型エンタテインメントとして、幅広い世代の共感を得て大ヒット。興行収入は200億円を突破、観客動員数は1500万人を超え、何度も劇場に足を運ぶ人々が続出した。
新海監督は、映画を通して何を伝えようとしてきたのか。その思いが『君の名は。』として結実したとき、なぜ歴史的な大ヒット作品となったのか。

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観る前と観た後で、少し違う自分になれるような作品をつくりたい

── 『君の名は。』は、青春、ラブストーリー、コメディー、SF、ファンタジーと、映画の要素をすべて詰め込んだ内容になっています。意識してそうつくられたのですか?

とにかく退屈させない映画にしよう、と思ったんです。新海誠の映画をはじめて見たというひとにこそ楽しんでもらいたかった。エンタテインメントど真ん中を目指して企画書をつくり、東宝に提出しました。その時点で、映画の基本的なコンセプトやストーリーはほぼ固めていました。
ご指摘いただいたように、1本の作品のなかにさまざまな映画の要素を盛り込もうと考えました。しかも映画の空気が、物語が進むうちにどんどん変わっていくようにしよう、と。前半はコメディーとして軽快に物語を展開し、後半はがらりと雰囲気を変えて、主人公たちと謎を追い求めるミステリーの要素を加えました。 また要所要所に、音楽だけで表現するシーンを差し込むことにしました。音楽を担当したロックバンドRADWIMPSには、映画の制作当初から参加してもらい、脚本をつくる過程で、「ここにボーカル曲を入れて、音楽だけで展開するパートにしたい」といったお願いをしました。彼らの曲が映画の主役になるミュージカルのような側面も持たせたかったんですね。

そんな具合に、映画的な要素を盛り込めるだけ盛り込みつつ、一方で1分でも短い映画にしようと決めていました。最終的に107分に収めました。それは疾走感をもたせたまま、観客を最後のシーンまで連れていきたかったからです。

── 映画の要素をすべて盛り込んで、でも1分でも短い映画にする。すごく難しい挑戦ですね。

大変でした(笑)。アニメーションの場合、絵を描き始める前の段階でカットを精査します。実写と違ってとりあえず撮っておいて編集で削るというやりかたは基本的にできないんです。1枚1枚絵を描くのにコストも時間もかかりますから。脚本を練っていた時点で116分。これだとすこし長すぎると思いました。脚本を削り、さらに映画の設計図となる絵コンテに落とし込む中で、なんとか107分まで縮めました。
ただ、映画のつくり込みは、ここからが本番でした。
前作の『言の葉の庭』でも、絵コンテをつなげて映像にしたビデオコンテはつくっていたのですが、今回は、そのビデオコンテの段階で徹底的に詰める作業を行いました。仮の音楽や声も入れて制作チームに見せ、その意見をもとにストーリーやタイミングをさらに細かく詰めていったんです。

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©2017「君の名は。」製作委員会 『君の名は。』より

── 映画を実際につくる前に、絵コンテを映像にして見せる。絵コンテ段階で1本の映画を本番の前に一度つくるようなものですね。そこまでやるんですか?

手間はかかりますが、ハリウッドのメジャーアニメスタジオ、ピクサーなどでは完成映像に近いビデオコンテをつくって、実際に想定できるさまざまな展開を用意し、監督や脚本家やプロデューサーがそれを見ながら、どんなストーリーにするかを固めていきます。
『君の名は。』では、僕たちもそれに近いやり方をとったわけです。
ビデオコンテをつくると、脚本が映像化されたときの実際の時間の流れが、きっちり把握できるようになります。絵コンテ会議は、ビデオコンテを見ながらやる。
すると、「このあたりでちょっと退屈するよね」とか「ここは音楽が必要なんじゃないか」「いまのところ、ちょっと飛ばしすぎて、物語についていけなくなる」といった具合に、制作チームのみんなが観客の気持ちになって具体的な感想を言えるようになる。その意見を反映して、よし、これで間違いない、と確信できるまでビデオコンテを詰めていく。その繰り返しで、映画の完成度を上げていきました。

── 『君の名は。』の男女の主人公は高校生です。主な観客は10代から20代かと思いきや、いまや下は小学生から上は60代70代の老夫婦までが映画館に足を運んでいますね。

僕もびっくりしています。誰もが楽しめる映画にしよう、と決めてはいましたが、観客の年代イメージについては、主人公に近い世代、10代20代、せいぜい30代だろうな、と割り切っていました。僕自身が40代前半なので、自分より年上の方々の心情は想像が及ばない部分がありますし、小学生となると自分と重ね合わせられる登場人物が主人公の三葉の妹の四葉くらいしかいない(笑)。物語の構成もけっこう複雑ですし。
観客の世代はある程度若い人たちに絞り、107分の中にぎっしり情報量を詰め込み、テンポの速い疾走感のある映画にしたわけです。上の世代の人が観たら、詰め込みすぎのうえに展開が速すぎて意味がわからない、と思うかもしれない。それでもいいんだ、と考えていました。
にもかかわらず、うれしいことに広い世代の方々に観てもらえるようになりました。今でも不思議です。
でも、幼稚園児のうちの娘に言われたんですよ。「同じクラスの男の子から言われたの! 『君の名は。』をママと見にいった! 面白かったよ、って」。ふむ、そうなんだ、6歳児でもわかるのか、と(笑)。たしかに物語の中心にある、男女の中身が入れ替わる、という感覚、どうもあのくらいの年齢からなんとなくわかるみたいなんです。性の目覚めとかがちょっぴりあったりして、ちょっと興味も出てくる。男の主人公の瀧が、女の主人公の三葉の体にはじめて入って起き上がったとき、びっくりして思わず胸を揉んでしまうシーンも、なんとなく伝わっているのかも、しれない(笑)。

── 『君の名は。』では、公開直後からツイッターをはじめSNSでたくさんのひとたちが映画の感想をつぶやき、それに感化されて映画館に足を運ぶひとがどんどん増えていったように見えました。

普通に映画を公開しただけだったら、ここまで観客層は広がらなかったかもしれません。『君の名は。』の場合、映画を見たひとが次のひとを呼ぶ、という口コミの力が背中を押してくれました。この口コミのベースは、映画の公開前から醸成されていたんです。
まず、映画公開の2カ月半近く前に、僕が執筆した『君の名は。』の小説が出たんです。うれしいことに、公開までに50万部以上売れてくれたんです(2016年11月時点で100万部を突破)。わざわざこの本を買って読んでくれた読者の方々が公開と同時に映画に足を運んでくれ、口コミの流れのスタートを切ってくれたんだと思っています。
じゃあ、なぜ、公開前の映画の原作小説がそんなに売れたかというと、まず、2015年12月の製作発表の内容を見て、「まだメディアでは話題になっていないけど、これは僕たち私たちが観たかった映画になるかもしれない」と思ってくれたコアのファンたちがいらっしゃった。次に、今年4月『名探偵コナン 純黒の悪夢』が公開されたとき、RADWIMPSの曲の『君の名は。』の予告がはじめて流れました。このとき10代の学生さんを中心により広い層が「僕たち私たちのための映画がやってくる!」と期待を持ってもらえた。そのひとたちの一部が、先に完成した小説を手に取ってくれて、映画を心待ちにしてくれた。結果、公開時の爆発的な初動につながったんじゃないか、と。
そのうえ、東宝では、公開前に4万人規模の試写会をやったんですね。「僕のお客さんってたぶん10万人くらいだから、そんなたくさんの人たちにタダで見せちゃっていいの?」と不安を口にしたりもしたんですが、結果としては、この大型試写会も、公開後の口コミのベースになったはずです。

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── 小説を買って読んでくれたり、試写会に応募して足を運んでくれたりしたお客さんたちが、公開後の口コミの火種となってくれたんですね。ただ、『君の名は。』がこれだけのヒットになったのは、やはり作品そのものの力がとても強いからだと思います。この映画のどの部分がみんなの心をわしづかみにしたのでしょう?

とにかく、1本見終わったら、何かを体験したような実感を持ってもらえるような作品にしよう。そう思ってつくったんです。体験する、といっても、いま流行りの4DX、映画館の椅子が動くとか風が吹くということではなくて、映画に没入して「これはもしかしたら自分の体験じゃないか」と心と体を持っていかれるような映画にしたいな、と。
RADWIMPSがつくった劇中で流れる「スパークル」という曲を初めて聴いたとき、曲が終わったと同時に、僕は何か大きな体験をしたかのような気持ちになりました。8分弱の曲の中で、大事なことを教わったような、自分にとって大事なことをなくし最後にそれを取り戻したような、そんな感覚があったんです。もっと言えば、「スパークル」を聴く前の自分と聴いた後の自分は、少し別の人間になった。そう思わせる力があの曲にはあります。
優れた作品は、音楽にしろ、映画にしろ、小説にしろ、そんな力が宿っている、と僕は思っています。
高校時代に観たスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』、宮崎駿さんの『天空の城ラピュタ』。映画館に入る前の自分と映画館を出た後の自分が、別の人間になったような体験をもたらしてくれました。小説でいえば、村上春樹さんの『ノルウェイの森』を読んだときがそうです。映画を観たり、音楽を聴いたり、小説を読んだりするのは、その作品を通して自分を変えるような体験をしたいからではないか。少なくとも僕はそうなんです。
恋愛もそうじゃないですか? この人は自分を変えてくれるかもしれない、という人との出会いが恋につながる。
でも、そういう出会いがそんなにたくさんあるわけがない。
作品もそうですよね。自分を変えてくれる作品に、そうそう出会うことはない。だからこそ、僕はずっと目指してきました。そんな作品を。

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Column DRIVE de Cartier

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

DRIVE DE CARTIER

ドライブ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 41mm ¥640,000(税抜)

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

挑戦なくして、成功はない。カルティエの3代目ルイ・カルティエは、良き挑戦者であり、常に業界をリードするパイオニアであった。その最大の功績の一つが、紳士用腕時計を世界で初めて製作したことだろう。1904年、彼はブラジルの飛行家にして、ベルエポック期のパリで注目を一身に集めただて男、アルベルト・サントス=デュモンのためにエレガントな腕時計を製作。これこそが紳士用腕時計の始まりであり、その後のメンズウォッチの方向を決定づけた。名作「サントス」の誕生である。

カルティエは、その後も「タンク」「バロン ブルー」「カリブル ドゥ カルティエ」など、数々のメンズウォッチを生み出し、いまも時計業界のパイオニアであり続けている。そして、それらの傑作時計すべてに当てはまるのが、官能的なデザインと機械的精緻さの両立である。美しいフォルムを持つカルティエの時計は、ひと目見ただけでそれとすぐに分かる。これは、ウォッチメーカーとしての高い技術力なしには成し得ないものだ。

今年、メンズコレクションに新たに加わった「ドライブ ドゥ カルティエ」にも、その伝統は受け継がれている。ローマン数字のインデックスやフランケ模様のギヨシェダイヤル、ソード型の針など、随所に際立つ“カルティエらしさ”。優雅なクッションケースのボリューム感が目を引くが、実際は薄く作られており、腕にすると驚くほどよくなじむ。スケルトンバックからは、自社製ムーブメントCal.1904の美しい仕上げを堪能できる。

腕時計としては揺るぎない正統派。それでいて、7のインデックスに小さくCartierの隠し文字を入れるカルティエの伝統的な遊び心も、現代の粋人を引きつけている。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ