日経ビジネスオンラインスペシャル
新海誠

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観た人が、「ちょっと違う自分になった」
そう思ってくれる映画を、撮りたい。

アニメーション監督

新海誠

SHINKAI Makoto

2016. 12 .20 公開

interview : SAKIYA Miho 
photo : KIM Yongduck

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全員がズルせずにつくった作品です

2011年に公開した『星を追う子ども』は、田舎に住む主人公の少女が、ひょんなことから地下の異世界を旅するファンタジーです。彼女は冒険を通して、何かを失い、何かを得て、帰ってきます。観客にも、映画を観ることで主人公の少女と同じ体験をしてほしい。そう思ってつくりました。
ただ、この作品では、僕の想いを「ちゃんと届かせきれなかった」という気持ちが残りました。「すごく好き」と言ってくれる人もいたけれど、「これはあなたに期待しているものではない」とも言われました。
じゃあ、今度は少し慎重に、描く世界をあえて狭めてみよう。そのほうが「届く」かもしれない。新宿の公園の東屋(あずまや)で、雨の中、男子高校生と27歳の謎めいた女性が出会う『言の葉の庭』は、そういう思いからつくりました。46分の短いこの作品では、観客をどこか遠くの違う場所に連れていくことはひとまず置いて、観客が喜んで受け入れてくれる世界を描こうとしました。
この作品である種の手応えを感じたので、今度はもっと大きな目標を掲げました。冒頭にお話ししたように、たくさんの観客に喜んでもらえる映画にまずはしようと。そのうえで観た人が観る前と少し違う自分になれる、僕が理想とする映画にしよう、と。それが今回の『君の名は。』です。
ストーリーのたたき台になったのは、2014年2月に発表したZ会の受験生応援コマーシャル『クロスロード』。東京の男子高校生と田舎の島に住む女子高校生が、Z会の通信教育で同じ問題を解き続け、東京の同じ大学の受験に挑み、合格発表の掲示板で横に並ぶ。このプロットが、東京の男子高校生と、田舎の山奥の女子高校生の心がある日入れ替わる、という設定につながりました。

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© Makoto Shinkai / CoMix Wave Films Z会の受験生応援コマーシャル『クロスロード』より

── 『君の名は。』は、映画ファンが見ると、すごいチームがつくっていますね。ベストセラー作家でもある売れっ子プロデューサーの川村元気さん、作画監督は『千と千尋の神隠し』などジブリ作品を多数手がけた安藤雅司さん、キャラクターデザインは『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』などの人気作品を担当した田中将賀さん、そして気鋭のロックバンドRADWIMPSが音楽を担当する。このスターたちをどう指揮したんですか?

指揮なんてとんでもないです(笑)。ただ、たしかにこれだけの「スター」たちと映画づくりをするのは初めてでした。もちろん、スターがずらりと揃ったからといっていい作品がつくれるわけではありません。『君の名は。』の場合、このスターたちみんなが、ひとつのチームとして全力を出してくれた。だから、後悔のない映画に仕上がった。

これまでの作品では、脚本も絵コンテも、ほとんど自分ひとりでつくり込んできたんですけど、今回は作品が目指すところと同じく、僕自身の映画の型みたいなものを少し変えてくれるような誰かと一緒につくりたい、と思ったんです。そうすることで、作品自体もたくさんの観客をどこかに連れていく力を持つものになるんじゃないか、と。うん、いま考えてみると、僕のどこかに仲間を求めるような気持ちがあったのかもしれません。

そして、東宝に行ったときに紹介されたのが、東宝の川村元気プロデューサーでした。
企画書を渡して、川村さんを含めた制作チームとプロット会議を始めたとき、この人は自分と自分の作品をいい意味で変えてくれるのではないかと思いました。

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©2017「君の名は。」製作委員会 『君の名は。』より

主人公の女子高生・三葉が住む糸守町って、僕の最初のイメージではもっと過疎の進んだ雰囲気だったんです。自分が生まれ育った長野の田舎が念頭にありました。
すると川村さんはこう言うんです。
「せっかくなんだから、田舎でも、見た人が住みたくなる、行ってみたくなるような町にしましょうよ」。うん、それもそうだな。三葉の住んでいる家はリアルな田舎の日本家屋ではなく、ちょっと高級感のある旅館風のものになりました。神社のおうちであんなデザインの家は現実にはまあないでしょう。でも、あんな家が田舎にあったら、ちょっと泊まってみたいと思いませんか? 観客が「行ってみたくなるような田舎」にしようと、川村さんのアドバイスを参考に脚本を練り直し、絵コンテを切り直しました。
こうした具体的なシーンに対するアイデアに加えて、物語の時間の流れ、構造的な部分の示唆も、川村さんからはもらいましたね。
物語の前半と後半の継ぎ目の部分で、ストーリーの核となる謎解きが行われるところがあります。僕のつくった最初の脚本では、もっとじわじわ謎が解けていくイメージで書いていました。でも、脚本を読んだ川村さんの意見は、「いきなりどーんと種明かしをして、観る人の感情を揺さぶってから、理解が追いつくほうにしたらどうでしょう」。じゃあそうしてみようと思って、脚本を組み直しました。その結果、疾走感と緊張感が持続する映画になった。僕ひとりでつくっていたら、こうした構成にはならなかったかもしれません。

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公開から3日くらいたって、お客さんがたくさん入ってくれているのを知ったあとに、川村さんとお酒を飲んでそのあとタクシーの中でこんな話をしたんです。
「今回は、誰もズルしなかったよね」
たとえば、RADWIMPSに主題歌を歌ってもらえるのは本当にすごいことです。僕が大ファンだったのでお願いした。おそらく主題歌を歌うだけで楽しみにして来てくれるお客さんがいたはずです。でも、僕たちはもっと大変な思いをしたかったんだと思います。だからRADWIMPSには、制作初期から並走してもらい、劇中曲をすべてつくってもらった。彼らのつくった曲に合わせてシナリオやカットを練り直したり、逆に映像イメージに合わせるように作曲をし直してもらったり。何度も何度もリテイクを繰り返しました。衝突することもありましたが、あれだけの完成度の映画音楽をつくってもらえたのは、RADWIMPSが「ズル」をしなかったから。誰も妥協をしなかったから。
映画の主役である作画が最後までひとつの妥協もしなかったのは、論をまちません。安藤さんや田中さん、背景美術、現場の制作スタッフみんなの中に「楽しよう」という気持ちがまったくなかった。ぎりぎりまで粘って完成度を上げました。あの映像はその賜物です。
声優陣もそうです。立花瀧役の神木(隆之介)くん、宮水三葉役の(上白石)萌音ちゃん、奥寺先輩役の長澤(まさみ)さん……。萌音ちゃんは、本番までにビデオコンテを何度も見直して台詞を完全に暗記していた。みんなプロ中のプロだから、通常運行でちゃんとした演技はもちろんできる。でも、そんな気分の人はひとりもいなかった。宣伝や配給してくれる人たちもそう。全員が全力で作品に向き合っていた。

チーム全員が全力を出してくれた。これって、すごく幸運なことだと思います。だからこの映画に関わった人たちとは今でもしょっちゅう連絡をとったりお酒を飲んだり、とっても仲良しになりました。神木くんが他の映画のロケで海外に行っちゃったときは「神木ロス」になっちゃいましたね。毎日ツイッターで連絡し合ったりして(笑)。

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Column DRIVE de Cartier

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

DRIVE DE CARTIER

ドライブ ドゥ カルティエ ウォッチ SS 41mm ¥640,000(税抜)

What drives You?

変革へのパッションこそ、すべての源だ

挑戦なくして、成功はない。カルティエの3代目ルイ・カルティエは、良き挑戦者であり、常に業界をリードするパイオニアであった。その最大の功績の一つが、紳士用腕時計を世界で初めて製作したことだろう。1904年、彼はブラジルの飛行家にして、ベルエポック期のパリで注目を一身に集めただて男、アルベルト・サントス=デュモンのためにエレガントな腕時計を製作。これこそが紳士用腕時計の始まりであり、その後のメンズウォッチの方向を決定づけた。名作「サントス」の誕生である。

カルティエは、その後も「タンク」「バロン ブルー」「カリブル ドゥ カルティエ」など、数々のメンズウォッチを生み出し、いまも時計業界のパイオニアであり続けている。そして、それらの傑作時計すべてに当てはまるのが、官能的なデザインと機械的精緻さの両立である。美しいフォルムを持つカルティエの時計は、ひと目見ただけでそれとすぐに分かる。これは、ウォッチメーカーとしての高い技術力なしには成し得ないものだ。

今年、メンズコレクションに新たに加わった「ドライブ ドゥ カルティエ」にも、その伝統は受け継がれている。ローマン数字のインデックスやフランケ模様のギヨシェダイヤル、ソード型の針など、随所に際立つ“カルティエらしさ”。優雅なクッションケースのボリューム感が目を引くが、実際は薄く作られており、腕にすると驚くほどよくなじむ。スケルトンバックからは、自社製ムーブメントCal.1904の美しい仕上げを堪能できる。

腕時計としては揺るぎない正統派。それでいて、7のインデックスに小さくCartierの隠し文字を入れるカルティエの伝統的な遊び心も、現代の粋人を引きつけている。

Text by SHINODA Tetsuo

主催:日経ビジネスオンライン
 特別協賛:リシュモン ジャパン カルティエ