大原孝治×西川りゅうじん<特別対談>「ドン・キホーテ」の強さの秘密に迫る

何でもインターネットで買える時代が到来しても、ドン・キホーテの成長の勢いは止まらない。リーマンショック後、低価格でもてはやされた“デフレの覇者”の多くが逆風にさらされ、大手GMSやチェーンストアの中にも変調をきたす企業が少なくない中、同社は拡大を続けている。また、流通業にとって頼みの綱だった訪日外国人観光客の“爆買い”も百貨店などでは既に一巡しているが、同社では増加の一途をたどっている。売上1兆円も視野に入ったドン・キホーテを率いる大原孝治社長を西川りゅうじん氏が直撃。知ってるつもりで知らないドンキの強さの秘密に迫る。

「電子商取引」全盛時代に成長を続けるドン・キホーテの「真・原始商取引」
株式会社ドンキホーテホールディングス 代表取締役社長兼CEO 大原孝治氏

1963年生まれ。東京都出身。1993年ドン・キホーテ(現・ドンキホーテホールディングス)入社。2005年関連会社のリアリット社長、2009年関連会社の日本商業施設社長、ドン・キホーテ取締役兼CIO、2013年ドン・キホーテ代表取締役社長を経て、2014年ドンキホーテホールディングス社長兼COO就任。2015年7月より創業者の安田隆夫氏よりCEOを承継。現場を知り尽くした生え抜き社長。

西川 今や何でもインターネットを通じて購入し、決済でき、自宅まで送り届けてもらえる世の中です。これに対して、消費者がわざわざ足を運んで買い物をし、対面で支払い、買った商品を持ち帰るリアルな店舗の存在意義が問われています。しかし、ドン・キホーテの全国各地の店舗には客足が途絶えず、成長を続けていますね。その秘訣はどこにあるのですか?

大原 ドン・キホーテでは、お客様を最優先に考え、ネット上では表現できない、リアルな店舗ならではの魅力と価値を体感していただくことに注力しています。消費者がネットで商品を購入する際にはキーワードを入力して検索し、主に視覚だけで選択して購入します。一方、ドン・キホーテにいらしたお客様は、お祭りの縁日のように五感すべてが働くのです。そこには偶然の出会いがあります。必要な商品を地域で一番安価に購入できるだけでなく、「何、これっ?!」と思わず声を上げる驚き、楽しさ、意外性があふれています。他の老若男女のお客様のファッションや会話も1つのエンターテインメントでしょう。

西川 たしかに、ドン・キホーテには予定調和ではない、何度行っても飽きないライブ感、バイブレーションがあります。それは、音楽業界において、楽曲をネットでダウンロードしたり、動画サイトで無料で視聴できるようになり、CDの売上が減少する一方で、ライブイベントでは動員数も売り上げも右肩上がりの状況とシンクロします。また、旅行の市場が世界的に拡大を続けていますが、ネット社会が進めば進むほど、その真逆にある究極のリアルの人気が高まっています。

大原 日本に来る多くのインバウンド観光客もドン・キホーテの店舗に来ていただいていますが、元気なアジアのマーケットや一昔前の商店街にあった、ワクワク・ドキドキする高揚感はネットでは味わえません。

西川 言わば、ドン・キホーテとは、ネットを通じた「電子商取引」ならぬ、本物のショッピング・エンターテインメントを提供する「真・原始商取引」ですね。

ドン・キホーテ外観

何でもインターネットで買える時代になっても、ドン・キホーテの店舗には客足が途絶えない。ネットでは味わえないワクワク・ドキドキする高揚感がリアル店舗の強さだ。
店内で流れるおなじみの「〽ドン・ドン・ドン・ドンキー」の『ミラクルショッピング』の曲や、ドンペンくんのキャラクターデザインも、外注せず社員自らが創ることによって、仲間意識を醸成し、お祭りのようにみんなで楽しみながら盛り上げている

お題目だけのお客様第一主義を廃した「顧客最優先主義」を愚直に実践する
マーケティングコンサルタント 西川りゅうじん氏

1960年生まれ。兵庫県出身。一橋大学卒業。在学中に起業し、マーケティング戦略のエキスパートとして産業と地域の元気化に手腕を発揮。愛・地球博のモリゾーとキッコロや平城遷都1300年祭のせんとくんの選定・広報、六本木ヒルズ・京都駅ビルの商業開発、焼酎の全国的な人気づくりなどに携わる。信用金庫協会商店街コンテスト審査委員長、観光庁委員、拓殖大学客員教授などを歴任。1日3店をハシゴするドンキファン。

大原 しかし、ネット対リアルのドン・キホーテの戦いということではありません。当社のオンラインショッピングモールの売上も伸びていますし、電子マネーmajicaやネットを通じた仕入れ先との商談の導入、社内SNSによる迅速な情報共有をはじめ、最新のICTはツールとしてますます積極的に活用していこうと考えています。

西川 ドン・キホーテは、リアル&バーチャルの双方で、四半世紀以上、さまざまな厳しい時期も成長を続けてきました。リーマンショックの後は“デフレの覇者”が低価格でもてはやされましたが、昨今は、その多くが逆風にさらされています。また、大手GMSやチェーンストアの中にも変調をきたしている企業は少なくありません。店舗数が少ないときは五感で感じられる雰囲気があっても、数が増えるにしたがって魅力が失われてしまう場合が多い。どうやって、ドン・キホーテは規模が拡大するにつれて、さらにパワーアップしているのですか?

大原 その答えは明快です。お客様を最優先に考える。これに尽きます。どんな時代になろうと、本当の意味で、お客様を最優先に考えれば、おのずと答えは見えてきます。リーマンショックが起きようが、震災が起きようが、お客様の変化をとらえて私たちが変わり続けていくのです。それは、「顧客最優先主義」というドン・キホーテの企業原理を、私たちがいかにして継続し守っていくかにかかっています。

西川 よく耳にする「お客様第一主義」「カスタマー・ファースト」と、「顧客最優先主義」とは、どう違うのでしょうか?

大原 「お客様第一主義」という言葉は、もはや、使い古されて形骸化しています。多くの場合、企業の不祥事や凋落は、お客様が第一と言いながら、自社の都合ばかりの「会社第一主義」だったり、目標数字を作ることばかりを追い求める「数字第一主義」に堕することから始まります。ドン・キホーテでは、常に原点を忘れず、真摯に受け止め、愚直に実践し続けるために、「顧客最優先主義」という表現にしています。顧客を最優先に考えることで、日々、新たなイノベーションを起こしていくのだという決意表明です。