大原孝治×西川りゅうじん<特別対談>「ドン・キホーテ」の強さの秘密に迫る

大企業? チェーン店? ディスカウンター?ドン・キホーテ「3つのパラドックス」
大原孝治氏

西川 売上約7500億円、店舗数約340店、社員・スタッフ合わせて約3万2000人を有する東証一部上場企業になっても、「顧客最優先主義」を徹底するのは至難の技に違いありません。どこの会社でも現場への権限委譲と言いますが、本当に権限委譲されている会社は多くありません。役所みたいに稟議書にいくつもハンコをもらわないと何もできない場合がほとんどです。

大原 ドン・キホーテでは、権限とはもともと現場の担当者にあると考えており、逆にそれを上司に委譲しないよう努めています。その地域のその店舗のその買い場にいらっしゃるお客様のことは現場の担当者が一番よく分かっています。ですから、彼らが上司や本部を見るのではなく、お客様を最優先に考え、仕入から販売までの業務をすべて行うのが当然です。

西川 つまり、各店舗は商店主ごとのお店が軒を連ねる地域ドンキ商店街で、大原社長は全国ドンキ商店街連合会の会長ですね。本部で一括で仕入れるのではなく、各店舗の担当者に仕入も販売も任せているから、同じドン・キホーテでも、地域ごと各店舗ごとに置いてある商品の品ぞろえが違ったり、同じ商品でも店舗によって価格が異なることさえあるわけですね。店長会議もないというのは本当ですか?

大原 お客様にとってメリットのないものは必要ありません。ともすれば、短期的な利益を追い求めると、本部に権限を集中しそうになります。20世紀のチェーンストアのロジックでは、本部で一括して商品を大量に仕入れればスケールメリットで原価が安くなるという魔法にかかりそうになります。しかし、それが各々の買い場にスモールデメリットを生み出すのです。これでは、会社最優先主義、売り手最優先主義です。そうではなく、各店舗がスモールメリットを追求し、本部がスケールデメリットを背負うのです。

西川 ドン・キホーテは、大企業であって大企業ではない。チェーン店であってチェーン店ではない。それに、ディスカウンターであってディスカウンターではない。単に安さだけを求めて、ドン・キホーテに行くわけではありません。経済環境に左右されない躍進の秘密は、このドン・キホーテ独自の「3つのパラドックス」に隠されていますね。

店内

人気を呼ぶ「MEGAドン・キホーテ」の生鮮食品コーナー。今や、朝食・ランチ・夕食の買い物、夜は外食産業の料理人やテレビの料理番組スタッフが食材を買いに走るなど、食品の売上も大きな柱になっている

お客様の「安い」三段活用に即応し東京五輪後も新たな価値を提供し続ける
西川りゅうじん氏

大原 お客様にとって「安い」には三段活用があります。「安っぽい・安い・安く感じる」の三段階です。一番陥ってはならないのは「安っぽい」です。お客様がバカにされているように感じる商品をご提供するわけにはいきません。

西川 それでは、まさに安物買いの銭失いになってしまいますからね。

大原 次に「安い」です。家計の財布のヒモを握っているお買い物のプロである主婦のお客様は、10円安い卵を買うために自転車を片道10分こぐことをいといません。市場経済においては、やはり、絶対的な安さが競争力の源泉です。近隣の電気店が、ある日、採算度外視でものすごい安売りを仕掛けてきたとしても、そこに負けるようなプライスを付けてしまうと、ウチでお買い物なさったお客様に損をさせてしまいます。ドン・キホーテにいらしたお客様には絶対に損をさせない。他店に行ったお客様は絶対に損をする。この状況が100%できていないのが悔しいですが、日々各地域で100%に近付けられるよう、全社一丸となって地道に努力を続けています。

西川 “驚安”を掲げるトップディスカウンターとしての面目躍如ですね。

大原 月曜から金曜まで、奥様に私どものお店に来ていただくと、土日祝日は、お子様とご主人といっしょに来てくださいます。ウィークデーは少しでも節約するよう努力したのだから、「お父さん、今日はごほうびに私のスカーフ買っていい?」となるわけです。そのときは、プライスはあまり気になさいません。さらに重要なのが、「安く感じる」ことです。

西川 お祭りやテーマパークと同じように、カップルや家族で、食事の後、ドン・キホーテに行くと、気持ちも盛り上がって高揚感から安く感じます。大都市だけでなく、地方都市は夜遅くまで遊べる場所が少ないのでデートコースになっています。気分的に安く感じると衝動買いも増えますね。

西川氏/大原氏

1996年の店頭公開の頃から親交がある大原社長と西川氏。流通業の未来を活性化するブレインストーミングのように具体的アイデアが次々と飛び出した

大原 地域や時間帯によっても客層は異なります。開業当初のドン・キホーテ世代のお客様が今では50代になり、2世代、3世代でのご来店も増えています。また、爆買いが一巡したと言われる海外からのインバウンド観光客もドン・キホーテへの来店数は増加し続けています。そういった様々なライフスタイルの多様な価値観のお客様に、2020年の東京オリンピック後も、非日常的なエンターテインメント性と時間消費の新たな価値をご提供し続けられるのはドン・キホーテだけだと自負しています。

西川 ドン・キホーテの名の通り、21世紀を担う流通業界の騎士として、「顧客最優先主義」を旨としつつ、勇猛果敢に挑戦し続けてください!