[シリーズ] 一億総活躍社会の雇用 戦力として育てる障害者雇用 誰もが活躍できる社会を目指そうと掲げられた「一億総活躍社会」。
障害者雇用促進法も改正が進み、障害者雇用の重要性は益々高まる。
厚生労働省が発表する「障害者雇用状況の集計結果」によれば、昨年の雇用障害者数は過去最高を更新した。それでもなお、法定雇用率を達成していない企業の割合は52.8%と、実に半数以上の企業が法定雇用率を達成できていない。
企業はいかにして障害者を雇用し、定着させていくべきか。障害者雇用率を高く維持し続ける企業事例を学ぶ。

Special Interview

障害者が働きやすい企業は、誰もが働きやすい企業

 障害者の実雇用率は、企業規模が大きくなるほど高い傾向にある。九州産業大学の倉知教授は、「大手企業が障害者雇用を促進できているのは、特例子会社の影響が大きい」と分析する。特例子会社とは、障害者の雇用に特別な配慮をするために設立される子会社であり、雇用する障害者を親会社の実雇用率に算入することができる。こうした特例子会社が率先して障害者を雇用し、その上で戦力へと育てあげている。「近年では、知的障害者の事務職、精神障害者の接客業など、職域が拡大しつつあります。特例子会社などの企業側が、これまでの認識にとらわれずに、障害者の戦力化に果敢にチャレンジした成果だと言えます」。

企業規模が大きいほど実雇用率は高い 雇用障害者数および実雇用率は増加傾向にあり昨年も過去最高を更新。
一方で法定雇用率未達成企業の多くが中小企業という実情がある。 出典:厚生労働省 「平成27年 障害者雇用状況の集計結果」
雇用障害者数および実雇用率は増加傾向にあり昨年も過去最高を更新。
一方で法定雇用率未達成企業の多くが中小企業という実情がある。
出典:厚生労働省 「平成27年 障害者雇用状況の集計結果」
高齢・障害者雇用支援機構(現高齢・障害・求職者雇用支援機構)にて障害者職業カウンセラー 職に従事。平成20年より現職。日本職業リハビリテーション 学会運営理事・事務局長など、多くの団体の役職を兼任。

 一方、中小企業では、雇用した障害者を育てあげるだけの体力不足が指摘される。これを補うためにも「採用時だけでなく、その後の育成についても、企業はもっと支援機関を活用すると良い」と倉知教授は語る。支援機関との切れ目のない連携は、採用した障害者の定着にもつながる。

 さらに、倉知教授は「精神障害者の定着が課題である。」と解説する。
「平成27年度障害者の職業紹介状況等」によれば、ハローワークを通じた障害者の就職件数は7年連続で増加している。中でも精神障害者の就職件数については、平成25年度以降、身体障害者の就職件数をも上回って大きく増加しており、全体の42.6%を占めている。一方、「平成27年度障害者雇用状況の集計結果」に基づいて算出すると、50人以上規模の民間企業に雇用されている精神障害者の割合は11.1%(※注)であり、障害者雇用の拡大とともに年々増加しているとは言え、全体に占める割合はまだまだ低い。

 また、「精神障害者の職場定着及び支援の状況に関する研究」によると、110所のハローワークへの調査では、障害を開示して就職した精神障害者のうち、3カ月未満で離職している者が3割近くを占めている。職場定着には、支援機関の継続的なフォローアップ、企業側の受け入れ体制整備などが関連していることが示唆されている。雇用の拡大にとどまらず、定着に向けた取り組みが重要と言えるだろう。

 精神障害者が離職する原因のひとつとして、倉知教授は「自分に自信が持てないのではないか」と推測する。「成功体験が少なく自信が持てなければ本来の力を発揮できないのは、健常者も同じこと。こうした障害のある人材を定着させるためには、失敗してもただ叱るのではなく、そこで何を学んだのかを伝えるようなサポートが必要なのではないでしょうか」。

 現在、法定雇用率は2%と定められているが、平成30年には算定基礎に精神障害者が加わるため、さらに上昇することが見込まれている。障害者雇用を取り巻く制度も近年動きを見せている。

(※注)障害者雇用状況における「民間企業における雇用状況」については、50人以上規模の企業(法定雇用率2.0%)を対象にしており、また「障害者の数」については短時間労働者以外の重度身体障害者及び重度知的障害者を、法律上、1人を2人に相当するものとし、重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者を、法律上、1人を0.5人に相当するものとしている。そのため、同集計結果における「障害種別雇用状況」の身体障害者、知的障害者、精神障害者の実人員により割合を算出したものである。
出典:厚生労働省「平成27年度障害者の職業紹介状況等」、「平成27年度障害者雇用状況の集計結果」、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター「精神障害者の職場定着及び支援の状況に関する研究」(2014年3月)
改正される障害者雇用制度
1.平成28年4月より 雇用の分野における障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供の義務化
雇用の分野における障害者に対する「差別の禁止」

募集・採用、賃金、配置、昇進、教育訓練などあらゆる局面で、障害者であることを理由に差別してはならない。

◉ 障害者が職場で働く際に生じる支障を改善するための「合理的配慮の提供義務」

障害者と障害者でない人の均等な待遇の確保、または障害者の能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善する配慮をしなければならない。
(例:車いす利用者に合わせて机や作業台の高さを調整、知的障害者に口頭だけでなく分かりやすい文書や絵図を用いて説明)

2.平成28年4月より 新たに納付金制度対象となった事業主の申告・申請が開始

平成27年4月から、障害者雇用納付金制度の適用対象範囲が、常時雇用する労働者が100人を超える中小企業にも拡大され、今年から申告・申請が始まった。

これまで 常用労働者200人超 平成27年4月から 常用労働者100人超 雇用率未達成事業主障害者雇用納付金を徴収 雇用率達成事業主障害者雇用納付金を支給
※新たに対象となった常時雇用する労働者数が100人を超え200人以下の事業主は、平成27年4月1日から平成32年3月31日まで、月額4万円に減額。
3.平成30年4月より 法定雇用率の算定基礎に精神障害者が加わる

現在、民間企業における法定雇用率は2.0%に定められている。これまでは身体・知的障害者が算定基礎の対象だったが、平成30年からは精神障害者が加わる。それに伴い、法定雇用率の引き上げが想定されるが、施行後5年間は猶予期間とし、本来の計算式で算定した率よりも低くすることを可能としている。

「障害者雇用が当たり前になっていく中で、企業はこれをいかにしてメリットに転換していくかが重要となります」と倉知教授。「障害のある方の力を最大限に引き出すためには、その人と真剣に向き合うことが必要です。必要な戦力とされることで障害者のモチベーションも上がり、離職を防ぐことにもなります。これは健常者も同様です。障害者が働きやすい職場は、全ての従業員が働きやすい職場でもあるのです。結果、全社的に従業員が定着する強い企業となり、エンドユーザーからの信頼も高まるでしょう。障害者雇用が、いかに従業員を大事にする企業なのかを判断するものさしとなるのです」。

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Archive
2014年
障害者の戦力化と、企業の成長
2015年
障害者雇用が高める企業価値
障害者雇用の理解を深める「働く広場」

障害者雇用事業所の職場ルポなど最新の雇用事例を中心に、身近な障害者雇用問題を取り上げた事業主向けの啓発誌(毎月25日発行)。ホームページではデジタルブックを公開中。

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障害者雇用の好事例に学ぶ「職場改善好事例集」

雇用管理や職場環境の整備など様々な改善・工夫を行った好事例を紹介。平成27年度のテーマは、「就職困難性の高い障害者のための職場改善好事例集-精神障害者、発達障害者、高次脳機能障害者-」

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