] 序章 安倍首相や約100社の日本企業がケニアに集結 アフリカ開発会議 TICAD Ⅵってなに? | 鮫島弘子のアフリカビジネス入門2016 - 日経ビジネスオンラインSpecial

2016年8月27日、ケニア・ナイロビで開会したTICADⅥの会場でアフリカ各国首脳と並ぶ安倍晋三首相 写真提供:内閣広報室 

安倍首相や約100社の日本企業がケニアに集結
アフリカ開発会議 TICAD Ⅵってなに?

アフリカ開発会議=TICADは、日本がアフリカ諸国と長年にわたって共同開催してきました。2016年6回目のTICADは、いままでと異なるポイントが2つあります。まず、初めて日本ではなくアフリカで現地開催したこと。次に、主要テーマの1つが「経済多様化と産業化を通じた経済構造の転換」、言い換えれば「民間ビジネスをも巻き込んだアフリカの発展」となったこと。従来の「アフリカに対する開発援助」から、「アフリカで日本企業が具体的なビジネスをしてもらおう」という流れに変わったことです。
では、TICAD Ⅵの狙いを探ってみましょう。

* * *

『TICAD VI』は、ケニアの首都ナイロビで、8月27日と28日に開催されました。私は、自分のオフィスのあるエチオピアの首都アディスアベバから直行便でナイロビに降り立ちました。フライトは2時間強。距離にして約1,500キロ。大阪ー札幌間とさして変わらない至近距離です。

ケニア・ジョモ・ケニヤッタ空港に到着!
寒〜いエチオピア・アディスアベバからやって来たサメジマ、
防寒着で武装してます。日本から着いたJICAの吉澤啓さんと合流

私のこの格好を見て、いったいどこの北国からやって来たのか?と思われるかもしれません。熱帯のイメージのあるアフリカですが、実は地域によってはかなり涼しいのです。とりわけ東アフリカでは多くの都市が標高数千mの高地にあります。アディスアベバに至っては大雨季のこの時期は朝晩摂氏10度を切ります。そんなわけで私はダウンを着込んでいるのでした。さすがにナイロビではいささか厚着すぎるので脱いでしまいましたが、それでも標高1600メートルのナイロビは日本の5月くらいの気温。真夏の東京に比べると、別天地です。

ナイロビの空港でお会いしたのが、日本から到着したばかりのJICAアフリカ部参事役の吉澤啓さんです。吉澤さんはJICAにおけるTICADⅥの立役者です。会場に着くまでの間、TICADⅥの狙いについて、吉澤さんにレクチャーしていただきましょう。

JICAアフリカ部参事役の吉澤啓さん。TICAD Ⅵの立役者の1人です。

ーそもそもTICADとはなんでしょうか?

アフリカ開発会議の略称で、TICADは、Tokyo International Conference on African Developmentの頭文字を並べたものです。Tokyoの文字があるように、1993年の初回から3回目までは東京で、その後の4回目と5回目は横浜で開催されているんです。90年代は、アフリカ諸国のかつての宗主国であるヨーロッパがいわゆる「援助疲れ」でアフリカへの国際協力に消極的だった時代です。そこで、日本の国際協力に注目が集まりました。

その後、この日本の動きを追いかけるようにアフリカを対象とした会議を始めたのが中国です。2000年から中国・アフリカ協力フォーラムというイベントを3年に一度開催しています。今回のTICAD VI開催に際して、日本の動きを牽制するような発言も中国政府から聞かれましたね。ご存じの通り、中国はアフリカに多大な援助を行い、多数の中国人を派遣しています。

ーいままで日本国内で開催していたTICADですが、今回初めてアフリカ大陸のケニアで開催しましたね。

共同開催のパートナーであるアフリカ連合からの強い要望があったのです。今度のTICADはぜひアフリカで開催してほしい、と。TICADは、これまで毎回日本でアフリカ諸国の首脳を多数招いて開催し、参加者人数4500人規模の非常に大きな会合です。そんな巨大カンファレンスを海外でやる、というのは日本側にとって大きな決断でした。日本の政府関係者、国際機関などが日本から離れて数日間のイベントに従事するわけですから。そのうえ今回は企業を中心とする民間連携が大きなテーマ。日本の企業のみなさんにも多数参加いただくわけです。調整は困難を極めましたが、開催にこぎつけました。正直、ほっとしています(笑)。

ー今回の「TICAD Ⅵ」ではビジネスも主要テーマの1つになっていますね。
今回が初めてですか?

いいえ。世界中から投資とビジネスを呼び込めるようアフリカを発展させていこう、という目標は第1回から掲げていました。対象国でビジネスが自律的に立ち上がるようになって初めて国際協力は成功したといえますから。ただし、はっきり「ビジネス」を発展させよう、というテーマを大きく打ち出したのは、2013年横浜で開かれた前回のTICAD Vからです。

このときは、JICAでも、ジャーナリストの池上彰さんに日本の国際協力の現場を取材していただき、『池上彰と歩く「アフリカビジネス」』というコンテンツを日経ビジネスオンラインで連載しました。

2013年開設した『池上彰と歩く「アフリカビジネス」』は
今もたくさんの人に読まれる人気コンテンツです。
『池上彰と歩く「アフリカビジネス」』 https://special.nikkeibp.co.jp/as/201207/africa/prologue.html

ただし、こちらの記事をお読みいただければわかるように、TICAD Ⅴでは、「ビジネス」といってもさまざまなインフラの整備が主題でした。

国をまたいだ物流ネットワークを成立させるための道路網や国際港湾の整備、ビジネスに欠かせない電力の需要を満たすための地熱発電の開発、主要作物の生産量を上げるための農業改革といった具合です。アフリカ中のインフラを整備することで、日本を含む世界からのビジネス進出や投資を拡大させていこう。これがTICAD Ⅴの、そしてJICAのメッセージでもありました。

ー今回のTICAD Ⅵには、多くの日本企業がアフリカの会場に集まりました。

アフリカに約100社の日本企業が1イベントのために集まったのは、今回が初めてかもしれません。会場を歩いていただければわかりますが、顔ぶれは実に多彩です。総合商社や大手食品、自動車メーカーのように以前からアフリカに進出している大企業ばかりでなく、地方の中小企業や、先進的なITベンチャー、町場の工場、地方自治体、大学などなど。鮫島さんには、ぜひ直接会場を回ってみていただきたいですね。

ー日本の国際協力の一翼を担ってきたJICAとして、「ビジネス」が主要テーマになったことについて、どう考えていますか?

JICAの主な仕事は、かつては国家レベルでないとできない社会インフラの整備の仲介役でした。ただ、対象国にとっていつまでも国際協力頼りの状況が続く、というのは、皮肉な話ですが、その協力が効果を出していない証拠でもあります。国際協力をある程度続けてきたらその国でビジネスが胎動し、民間レベルで発展する機運が出てこなければ、本当に自立した国にはなれません。

そこでJICAでは、新しい仕事の1つとして、民間企業が開発途上国に進出する際の支援を行っています。

アフリカではいま、国際協力からビジネス導入のフェーズに移りつつある国が増え始めています。そんな国にビジネスの種を植え付け、芽生えさせることができるかどうか。JICAは、国内15カ所、海外約100カ所の拠点があり、現在150以上の国・地域でODA事業を展開しています。これまでの事業で蓄積した知見や豊富なネットワークを、今度は日本の民間企業、大企業、中小企業からベンチャー企業に至るまで、途上国に進出する際にぜひ生かしていただきたい、と思っております。

今回のTICAD Ⅵがアフリカでビジネスの芽が育つ苗床になってくれれば大成功でしょうね。

ー 人材育成も大きなテーマですね。

JICAは、「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ」通称「ABEイニシアティブ」を2014年からスタートしています。2016年までに49ヵ国から821人の研修生を迎え入れ、全国約70の大学の修士課程に送り込むとともに、民間企業にはインターンとして受け入れていただきました。このABEイニシアティブを修了したアフリカの若者たちが、これから各国でビジネスの中枢を担おうとしています。日本の国際協力はこれまで、アフリカでインフラを整備し、教育を施し、日本企業の進出支援を行い、アフリカの若者たちに実学を伝えるなど、さまざまな角度でアフリカの民間レベルでの経済成長の礎を築いてきました。民間企業が日本から集結した今回のTICAD Ⅵは、その成果の1つ、といえますね。

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TICADⅥでいったい日本とアフリカの間でどんな道が開かれたのか。それについては次回の連載でまたお伝えします。では、TICAD Ⅵの会場に乗り込んでみましょう。