青年海外協力隊からスカウト

アフリカスキャンには日本に親会社があります。
ガン検診の受診率向上などにマーケティングの側面から取り組んでいる日本のベンチャー、キャンサースキャンです。

創業者の福吉潤さんは、P&Gでマーケティングを担当し、ハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、2008年に同社を立ち上げました。社名の通り、日本で最も死亡者の多いがんの検診を多くの人が受けるよう、啓発するキャンペーンやマーケティングを、厚生労働省や地方自治体、医療機関を顧客として実施しています。

アフリカスキャンの親会社キャンサースキャンの創業者、福吉潤さん

福吉さんはあるときアフリカの市場に興味を持ち、アフリカで別にビジネスを立ち上げようと考えました。となると、現地に右腕が必要になります。そんな折、セネガルに赴任していた友人から、青年海外協力隊員向けにマーケティングの勉強会をしてほしい、という依頼を受けます。そこで飛行機で同国に駆け付け、勉強会をする中で、出会った隊員が澤田さんだったのです。

福吉さんに伺ってみましょう。

ー福吉さんご自身がアフリカに興味を抱いたきっかけは何だったのでしょうか。

既存の仕事のクライアントで、アフリカに進出したい企業から問い合わせがありました。もともと僕はマーケティングが専門ですから、調べてみました。すると、アフリカには、マーケティングに必要なデータがほとんどない。

それならば、現地に直接お店を出して、商売をしながら消費者のマーケティングデータを集めることはできないだろうかと考えるようになりました。当然、現地でビジネスをしてくれる人材が必要になります。

セネガルで青年海外協力隊員として活動していた澤田霞さん

そんなとき、私の耳に入ってきたのが、当時セネガルで青年海外協力隊員だった澤田の存在でした。ちょうど、友人からセネガルで勉強会をしないかという誘いを受けていたこともあり、セネガルに飛び、澤田に会いに行きました。

会った瞬間、ぴんときました。彼女だったら任せられる。

アイデア抜群のうえに行動力がある。何よりアフリカが好き。ベンチャーを立ち上げるときは、体と頭が同時に動き、突破力のある人間が絶対に必要です。澤田はまさにそんな人間でした。さらに現地で採用したケニア人のパトリック・ジェトマーク・ミルカが頼りになる男でした。アフリカ現地で仕事をしていて突破力とアイデアのある澤田。現地でネットワークを持ち、顔の利くパトリック。2人が現地にいなければ、地方の村落にゼロからキオスクをつくるのは無理でした。

スタッフのパトリックとケニア各地を回って提携先を探す澤田さん

ー実際にアフリカスキャンでキオスクを始めるに当たって気を付けたことは?

アフリカビジネスで「常識」とされていたことが本当かどうかを個別に確かめようと考えました。たとえば、アフリカではまだみんな貧しいので商品を小分けにしないとちゃんと流通しない、といわれています。

では、現場で本当に小分けして売られているのだろうか?
小分けじゃないと売れないのか?
実際にキオスクを設置し、あるいは既存のキオスクをチェーン化して調査していきました。

びっくりしました。あるキオスクでは、主食のトウモロコシが100キロ単位でのみ売っていたのです。理由は明白でした。このキオスクの近辺にはスーパーマーケットがなく、唯一の小売店だったために大量買いのお客さんが多かったのです。お店を取り巻く商環境によって、商品の売れるロットも変わってくる。小分けで売れる店もあれば、大きなロットで売れる店もある。出店してはじめてわかったことです。

ーブルー・スプーン・キオスクでは、「正価販売」をうたっていますね。

ケニアのキオスクでは、正価でモノを売っていないところもあります。客の顔を見て値段がころころ変わるんです。友達だったら安く売るし、見知らぬ人だったらぼったくることもある。でも、こうした値付けが続いている限り、小売業は発展しません。POSデータで管理できないですし、安心して消費者が買い物ができない。

ブルー・スプーン・キオスクでは、
アフリカでは珍しく「正札」を下げて商品を販売しています

そこで私たちはブルー・スプーン・キオスクで「正価販売」を義務付けることにしました。正札をちゃんと付けて、タブレットでPOS管理をする。お店のオーナーには、全体の売り上げに応じて収入が増えるフランチャイズの方式を導入する。当初、この正価販売策については、現地のキオスクオーナーから「モノは高く売れるときに売るべきだ」と反対がありました。しかし、実際にお店がオープンして正価販売を続けていると、徐々に「あそこは安心して買い物ができる」と評判が立って人気店となっていき、どの店も売り上げが伸びたのです。

さらに、日本のコンビニなどでは当たり前のサービスを導入しました。電子レンジを設置し、買った食品を温められるようにしたり、店先にディスプレイを置いて映画を上映したり、と工夫を重ねました。こうした工夫の1つで、意外だったのは、店先に新聞を読めるコーナーを用意したのがとても好評だったことです。ケニアではいま「新聞を読むこと=カッコいいこと」なのだとか。こうした反応も、現地で実際に試してみないとわからないですね。

2014年にブルー・スプーン・キオスクをオープンしてから、現地の細かな情報が手に入るようになり、レジ代わりのタブレット端末を通じてたくさんの顧客情報が集まりました。その情報は、ケニアのアフリカスキャンのオフィスではもちろんのこと、東京にあるキャンサースキャンのオフィスからでもリアルタイムでチェックできます。このため、アフリカ進出を考えている日本企業のニーズにも素早く的確に応えることができるようになりました。

ー健康診断を行うのもユニークですね。

ブルー・スプーン・キオスクをオープンしたのち、さらなる顧客サービス強化のため、店を訪れるお客さんにアンケート調査をしたところ、ヘルスチェックを希望する人がたくさんいたのです。ケニアでは、自分の健康状態を知る機会に恵まれていない人が多く、自分の体重もよく知らない、という状況でした。

キャンサースキャンは、がん検診の啓発を行う事業からスタートしています。「健康」は私たちの得意分野。そこで、試しにとあるキオスクに体重計や血圧計を持ち込み、村の人たちに「無料で健康診断しますよ」と呼びかけたのです。

結果は大成功。あっという間にキオスクの前には行列ができました。アフリカの人たちは、自分の健康状態を知りたがっている! 隠れたニーズがあぶりだされたのです。翻って見れば、アフリカの人たちの健康診断を無料で行っていけば、今度はアフリカの人々の健康情報という貴重なデータが蓄積され、こちらもアフリカ進出を考える医薬品や健康器具、食品メーカーにとって垂涎(すいぜん)の資料となります。

ブルー・スプーン・キオスクで行う健康診断には長蛇の列ができます

* * *

日本で経営のかじ取りを行う福吉さん、ケニアの現地で率先してビジネスを展開する澤田さん、2人の橋渡しをする戸次さん、アフリカスキャンをアフリカ社会とつなげる役を負うパトリックさん。アフリカスキャンは、少数精鋭ながらも見事なチームワークでユニークなビジネスを行っています。

アンドゥアメットの場合、エチオピアで私が1人でデザインもして、マーケティングもして、資金調達もしてという具合なので、正直ちょっと羨ましくなりました。

さて、私にはどうしても、澤田さんに聞きたいことがありました。
「セネガルでの青年海外協力隊の経験が今の仕事に生きているかどうか」です。

私は、いまの仕事を始める前に青年海外協力隊としてエチオピアとガーナで暮らした経験があります。これが、その後のビジネスの礎になっています。

例えば、コミュニケーション作法。エチオピア人は、アフリカの中で欧米諸国の植民地支配を受けてこなかった数少ない国の1つ。そのためか、エチオピア人は概して保守的でプライドが高いのが特徴です。何かお願い事をするときには、どう言えば理解してもらえるか、どう言ってしまったら真意が伝わらないのか、順序を間違えずに話さないと首を縦に振ってくれません。

そんな微妙な「癖」を見抜くことができるようになったのも、青年海外協力隊の経験があったからです。澤田さんの場合はどうなのでしょうか。

ー青年海外協力隊の経験はいまの仕事に生かされていますか?

協力隊員時代にセネガルで過ごしたときの経験が、アフリカの人々に接する際の土台になっていると思います。肌身で感じたのは、セネガル人の生活は掛け値なしに豊かで素晴らしい。金銭的な差がある、インフラが整っていない、教育を受けていない、などと私たち日本人の思い込みを押し付けてはならない、ということです。

このスタンスが、いまのケニアにおける私の「作法」となっています。まず、ケニアの人の暮らしを尊重する。これに尽きます。あ、でもすぐにぐいぐい接近してくるセネガル流のコミュニケーションに慣れていたので、洗練されているケニア人たちは私のことをずいぶん遠慮のない人だなあと思っていたはずです。そもそも、私、日本での社会人経験ゼロなんです。アフリカでしか仕事をしたことがない。だから名刺の出し方からして間違いだらけ、とよく言われるんですよ(笑)。

ーこれからどんな仕事に挑戦したいですか?

できるだけアフリカでの仕事に関わっていきたいと思っています。私がいま取り組んでいる仕事は、いろいろな意味でアフリカの人たちの人生を変えている側面があると信じています。その意味で、私はアフリカの人たちに責任がある。今後は、まだアフリカでは関心が薄い、肥満や高血圧などの非感染症の予防啓発にも取り組んでいきたい、と思います。

アフリカの経済がもっと発展して、もっと豊かになることはとてもいいことです。ただ、その一方でアフリカの人たちがこれから目指す未来は、すでに欧米や日本が通り過ぎていった「豊かさ」とはちょっと別なのかもしれない、と思っています。

青年海外協力隊員時代に出会ったセネガルの人たちは、物質的には恵まれていませんでしたが、本当に幸せそうに暮らしていました。精神面でも物質面でも、欧米や日本とは違った豊かさ、アフリカ流の「豊かさ」がたぶんある。その点をぜひ日本の読者にお伝えしたいです。

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