秋田智司さんのデジタルグリッドはキオスクを拠点に「電力」をアフリカに供給する

その2:電気は小口で小さく売れ!

ケーススタディ デジタルグリッド

アフリカでキオスクを起点としたビジネスは、アフリカスキャンだけではありません。タンザニアでビジネスを展開しているベンチャー、デジタルグリッド(DG)がキオスクで販売しているのは、なんと「電力」です。

DGを率いるのは秋田智司さん(35歳)。秋田さんは、この事業を「WASSHA=ワッシャ」と名付けました。スワヒリ語の「火を付ける」が語源の造語だそうです。

デジタルグリッドの社長秋田智司さん

「アフリカでどこに行っても必ず求められるもので、たいがいどこでも足りないもの、それが電力なんです」と秋田さん。

「ワッシャ」は東京大学で開発された電力を遠隔制御する「デジタルグリッド技術」と、アフリカで広く普及している「モバイルマネー」を組み合わせたサービスです。DGがキオスクのオーナーに電力をプリペイド販売し、キオスクがこの電力を使って、周辺住民に充電サービスや電化製品のレンタルサービスを提供しています。まず秋田さんにビジネスモデルについてうかがってみましょう。

キオスクにレンタルLEDライトを貸し出す

ービジネスモデルについて教えてください。

まずDGが、キオスクにソーラーパネル・バッテリーなどを含む自社開発の発電設備とレンタル用の電化製品(LEDライトやラジオ)を無償で貸与します。キオスクでは太陽光で発電しますが、ここで発電した電力はデジタルグリッド技術で遠隔管理され、自由に使えないようになっています。キオスクのオーナーは村の電力需要に応じて、モバイルマネーを使ってDGにプリペイドの電力料金を支払い、一定量の電力を仕入れます。そしてこの仕入れた電力を使って、それぞれのキオスクは、周辺住民に携帯電話の充電サービスや、電子機器のレンタルサービスを提供します。電力需要が予想より多ければ、再度モバイルマネーで料金を払って電力を追加し、買い過ぎて余った電力は次の日に使うことができます。

アフリカでは、人口9億人中6億人が未電化地域で暮らしています。タンザニアを例にとると携帯電話の普及率は2015年時点で8割を超えています。当然、電灯のニーズも高い。つまり、未電化地域のキオスクでの電力サービスには巨大な潜在需要があるわけです。

アフリカの至る所にある小売店業態キオスク

ーソーラーパネルを使った充電サービスは秋田さんたちが発明したんですか?

いいえ。ソーラーパネルを活用した充電サービスは、アフリカでは珍しくありません。ケニアの未電力地域などでも、村ごとにキオスクや個人が屋根にソーラーパネルを設置し、携帯電話を充電しています。

ー市場は大きいけれど、ライバルもたくさんいそうなソーラーパネルを活用した電力サービス。決して先発とはいえないDGはなぜあえてビジネスにしようと考えたのでしょうか。

メンテナンスと課金を遠隔からできるようにして、これをフランチャイズで広く早く普及させられるビジネスモデルをつくった、という点がDGの一番の特徴だと思います。これまでも多くの国際機関、民間企業、NGOが、キオスクにソーラーパネルを設置するサービスに挑戦してうまくいかなかったんです。理由を調べると単純で、ただ設置するだけでその後のメンテナンスをしっかり行わなかった。また、サービスを継続・拡大していくために必要な維持費や追加投資を賄うだけのお金を集める課金の仕組みをうまく構築できなかった。だから、事業を大きくさせることができず、失敗していたんです。

村で比較的お金を持っているキオスクオーナーなどが、コツコツためたお金でソーラーパネルを自ら購入し、小規模な充電サービスを行っている。こうしたお店が地方に無数に点在しているのが現状です。

ただし、こうしたキオスクが購入したソーラーパネルの大半が中国製。品質が悪い製品が混ざっていたり、時には購入したときにすでに故障しているものもある。キオスクからすると、ソーラー充電ビジネスは、粗悪品をつかまされるリスキーなビジネスになってしまっていたんですね。

「ワッシャ」のサービスでは、機器の状態はすべて遠隔管理されていて、もしトラブルがあればすぐに現地スタッフが駆け付けられるようになっています。また、電力の使用料金はモバイルマネーを使って前払いしてもらうため取りっぱぐれがありません。これで普及可能なビジネスの仕組みをしっかり構築し、村々のキオスクと連携しながら未電化地域に電力サービスを普及させているんです。村のキオスクにとっても、必要な初期投資はDGがすべて負担するため、多大なリスクを負わずにソーラー充電サービスが始められます。

キオスクの店頭にソーラーパネルを置き、充電開始

ーこのビジネスモデルは、どうやって思いついたんですか?

東京大学総括プロジェクト機構特任教授の阿部力也先生に出会ったのがきっかけでした。私はもともと日本IBMに勤めていました。その後退職して、バングラデシュで幼稚園をつくるプロジェクトを立ち上げたんです。ですが、これがうまくいかなかった。開発途上国のための仕事をしたい。高校時代からそんな夢を抱いていた僕は、次に何をしようかと悩んでいました。そんなときに阿部先生が発明したデジタルグリッド技術について知ったんです。

私が学生時代に研究していたBOPビジネス(=途上国の貧困層を対象にして、貧困解消に貢献しながら利益を生み出そうとするビジネス)では、シャンプーや石鹸などを小分けにして貧困層でも手が届く価格にしたうえで、それを貧困層に代理店になってもらって販売することで商品を広く流通させる、その過程で貧困層の所得向上にもつなげる、というビジネスモデルが一般的でした。電力を遠隔で自由に制御できるデジタルグリッド技術と、アフリカで普及しているモバイルマネーを利用すれば、石鹸みたいな消費財だけじゃなく電力でもBOPビジネスができるんじゃないかと考えたんです。

また、デジタルグリッドのような新しいテクノロジーは、規制がガチガチで既存インフラがすでに整備された先進国よりも、規制が追い付いておらず、インフラが未整備な途上国で実用化させるほうが簡単なはず。阿部先生を説得して、一緒にケニア・タンザニアに視察に行くことにしました。2013年の2月ごろです。

実際に行ってみると、私たちのアイディアに共感してくれる現地の方も見つかり、とんとん拍子に話が進み、2013年6月に会社を設立、同年9月からケニアでビジネスを試験的にスタートしました。2014年にはケニアに移住し支店設立、次いで、タンザニアでも2015年1月からビジネスをスタートしました。

ーなぜ最初はケニアだったんですか?

ケニアは、「Mペサ」がいち早く普及した国です。Mペサとは、アフリカで急速に普及している、携帯電話を利用して簡単にお金のやりとりを実現するモバイルマネーサービスの一種で、Vodafoneグループの携帯キャリア、Safaricomが提供しています。ケニアでMペサが試験導入されたのは2007年。銀行口座やクレジットカードも必要なく、携帯電話の番号さえ分かればお金のやりとりが簡単にできるこのサービスは、いまやケニアの人たちの主な決済手段になっています。

銀行がないような田舎に行けばいくほど、電化が進んでおらず、私たちのサービスのニーズが高い。モバイルマネーの決済システムが普及していることは、ワッシャを普及させるための必須条件、と考えたわけです。
ところが……。結局ケニアではうまくいかなかったんですよ。

ーどうしてでしょう?

理由は3つあります。

まず、ケニアでは発電・送電・配電の事業者が分離されていて、半官半民の企業がしのぎを削っているため、市場競争が激しい。

それから、ケニアにはすでにケロシン(安価な石油系燃料)の流通網ができていて、それを使って発電機で発電する文化がありました。

さらに、ケニア人の資質の問題もありました。電気を売ってもらうキオスクには、1日約20円でLEDランタンをレンタルしたんですが、利用者の多くは、これがレンタルで自分のモノにならないことに不満を持っていた。ケニアの人たちは、レンタルサービスが好きじゃないんです。となると、ソーラーパネルや電化製品のレンタルサービスは普及しにくい。

ソーラーパネル、充電器、LEDライト
これがキオスクに貸し出すセットだ

ーそこで、タンザニアに場所を変えた。なぜタンザニアはうまくいったんですか?

タンザニアは、国営の電力会社1社が国全体の電化を担っているのですが、赤字で、投資対効果の低い地方電化に手が回っておらず、ケロシンの流通網もまだ整備されていない状況でした。一方でレンタルを受け入れる文化がある。しかも、携帯電話の普及率が高く、Mペサなどのモバイルマネーサービスも普及している。すでにモバイルマネーの利用者数はケニアのそれを上回っているというデータもありました。これが決め手になりました。

私たちは、タンザニアでのサービス拡充に注力することにしました。結果、「ワッシャ」の契約キオスクの数は2015年1月の開始から1年で150店舗にもなりました。同年10月からはセネガルでもサービスを開始、2016年8月時点ではタンザニア・セネガル合計で650店となり、毎日、約100万人がキオスクで電力サービスを利用しています。

キオスクオーナーも利用者数に応じて手数料収入を得ることができ、1日で2,000~5,000円の収入があります。タンザニアの小売業者の月収が10,000円程度ですから、彼らにとってもインパクトが大きく、契約キオスク数・利用者数ともに伸びており、大きなサービスに育ちつつあります。

ー秋田さんたちはゼロからキオスクにサービスを広めていったわけですよね。どうやって営業をかけたんですか?

各地を揃いのワッシャTシャツを着て営業に回る

最初の100店にこのサービスを導入するまでは、本当に大変でした。各地のキオスクを回り、オーナーにビジネスモデルを説明していきました。みんなでオレンジ色の「ワッシャ」のTシャツを着て。最初はツテも勘も経験もないので、無駄打ちばかり。1カ月走り回っても連携できそうな良いキオスクに出会えるのはほんの数軒といった状況でした。投資コストも馬鹿になりません。初期投資は1店舗当たり20万円程度。順調にお客さんがついて月額2万円程度の売り上げがあれば10ヵ月程度で回収できますが、需要の高い地域を選定しようにも、どこでどのくらいの需要があるのか、よくわからない。

ほとんど休みなくタンザニア全土を回り、キオスクに営業をかけました。大変だったけれど、どこに行っても人々は電気を求めている。どの村に行ってもそのニーズを実感しました。だから村の人たちが、子供たちが応援してくれました。みんなの顔を見ると、よし頑張るぞ、と気合が入りました。いまも、50人近いタンザニアメンバーの大半は、常に地方を回って導入先の営業を行っています。オレンジ色のTシャツを着て。

そして、数カ月休まず営業していくうちに、ネットワークができ、経験が蓄積され、どこに行けばいいのか、どんなキオスクと契約すればいいのか、勘所がだんだんとつかめてきました。

ービジネスパートナーとして提携するキオスクのオーナーはどう選ぶんですか?

タンザニアのタンガ地区で売り上げトップのキオスクのオーナー

キオスクのオーナーはワッシャのサービスを利用者に直接提供する重要な役割を担っています。つまり、DGとしては、「ワッシャ」の代理人であり、ビジネスパートナーです。どこでビジネスをするにしても、「誰」をパートナーに選ぶかが重要なポイントになります。特にアフリカでビジネスをする場合には、「人」の問題は、絶対に軽視できない部分です。

試行錯誤しながら、僕たちがパートナーにふさわしい相手と決めたキオスクの条件は、まずモバイルマネーが使えること。それからもうひとつは「地域」と周辺の「業種」です。漁業や小売りで生計を立てている地域がこのサービスを普及するのには向いている。

ー漁業と小売りで生計を立てている地域が?なぜでしょう?

タンザニアでも地方の主力産業は農業です。農業はお金になる機会が年に1、2回。収穫の時期に集中しています。そして1年ぶんの収入を得た農家の人は、まとめてどんとお金を使う。一方、タンザニアにあるビクトリア湖で漁業をしている人やマーケットで商売をしている人は、毎日小口の収入がある。このため、地元のキオスクに毎日お客さんとして訪れる。また、漁師や商売人は、仕事でしょっちゅう携帯電話を使いますから随時充電する必要があります。つまり充電サービスの潜在顧客も多い。だから、あえて農業地域よりも、漁業地域、商業地域を優先して営業をかけました。

ーエリアを絞ったあとは、どうやってその地域のキオスクの善しあしを評価するのですか?

気を付けたのは、そのキオスクで営業管理ができているかどうか。「先月はどれくらい儲かった?」「今の売れ筋は何?」といった質問にオーナーがすぐに答えられるかどうかをチェックしています。つまり「ちゃんと経営をしているかどうか」を確認します。

こちらのキオスクでは大量のLEDライトがレンタルできる

さらに、そのオーナーが地域で信頼されている人であるかどうかを確かめる必要があります。私たちは、地域のリーダーやキオスクの客にさりげなくオーナーの評判を確認し、人となりを聞いていきます。周囲から信頼されている「いい人」であれば、ビジネスでトラブルを起こす確率を格段に下げることができます。

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