第3章 - ルワンダ ICT立国編 : その1

カガメ大統領のリーダーシップで、
街並みも政治もクリーンに!

—ルワンダの経済について教えてください。

2000年から年平均7%を超える経済成長を続けています。あのジェノサイドからの成長ぶりは「アフリカの奇跡」と呼ばれています。そもそもルワンダは四国より一回り大きな国土に約1200万人が住む小国家。石油のような天然資源に恵まれず、また内陸にあるため貿易では不利です。そのうえ1994年の紛争で国は一度壊滅状態になりました。

2000年に就任したカガメ大統領は、「選択と集中」を行い、社会面、政治面、経済面で、明確な方針を打ち出しました。

社会面では、虐殺の原因となった「2つの民族」という考え方を否定し、国民全体の和解を図ることで、2度と同じような悲劇が起きないことを目指しています。ジェノサイドが起きたときはフツ系政権で、多数派のフツ系が少数派のツチ系を一方的に虐殺しました。カガメ大統領はツチ系で、3歳のときに迫害を受けてウガンダに難民として逃れて育ちました。彼は、国内で復讐の連鎖が起こる構造を断ち切るために「フツ」「ツチ」という区別を否定し、すべての国民が「ルワンダ人」であるというアイデンティティを持つよう導いています。結果、ルワンダ国外には依然として反対勢力はいるものの、ルワンダ国内は、2000年以降、平和であり続けています。

カガメ大統領は、半ば独裁ともとれるほど強烈なリーダーシップを発揮し、国の目標を明確に掲げ、改革を進めてきました。

ジェノサイドと国内紛争で徹底的に傷ついた首都キガリを中心に、街をきれいにする政策をとりました。さきほどお話ししたプラスチックバッグ廃止と掃除の奨励はその一環です。街並みがきれいなので、キガリを訪ねる外国人に対して、新しいルワンダのポジティブなイメージを伝えることができるようになりました。

さらには監視制度を取り入れることで汚職を駆逐し、街並みだけではなく、政治の現場もクリーンにしました。

—アフリカの多くの国では、汚職の蔓延が大きな問題とされながら、なかなかそこにメスを入れられないでいる現状がある中で、それを一気に駆逐するとは、大変なリーダーシップですね。確かに多少独裁的でなければ推進できないことかもしれません。

おっしゃる通りです。そして経済政策です。ルワンダは小国で資源にも恵まれていない。つまり資源バブルの恩恵を受けることができない。さらに、輸送コストがかかる内陸国な上に、人口が小さいため途上国の常套手段である労働集約型産業を引っ張ってきて価格競争力を売りにすることもできない。そこで投資環境を可能な限り改善して、むしろ最初から先進国以上の高付加価値ビジネスを育てることに注力しています。

—シンガポールにちょっと似ていますね。

ええ、よく言われます。ルワンダはアフリカのシンガポールだと。1960年代までマレー半島先端の寂れた漁村だったシンガポールは、65年の独立後、リー・クワンユー首相の強烈なリーダーシップで急速に近代化を果たし、いまやアジア経済の中心地となっています。リー首相は、清潔な都市であることにこだわり、ゴミを街に捨てた人間には厳しい罰金を科す政策をとり、「美しい都市国家」を実現しました。カガメ大統領の強力なリーダーシップをもとに「選択と集中」で成長を目指すルワンダと共通する部分は多いですね。

—ルワンダがビジネス面で「選択と集中」しているカテゴリーは何ですか?

大きく分けると3つ。観光と、高付加価値農業、そしてICTです。

まずは観光です。カガメ大統領が環境に配慮した政策をとり街をきれいにしたのと、治安の向上を図り安心安全な社会づくりに邁進したのは、海外からの観光客や国際会議などのコンベンションビジネスの誘致をするためでもありました。

ここ数年、アフリカの国際会議を多数誘致し、16年7月にはコンベンションビジネスのインフラとなる国際会議場をオープンしました。こちらでもすでにアフリカ連合のカンファレンスを開いています。

昼間の国際会議場はぴかぴか光ってはおりません

観光のほうでは、なんといっても「ゴリラ」です。現在、アフリカでゴリラが生息している地域はたった2カ所で、それぞれ亜種が暮らしています。大西洋側の熱帯雨林に棲むローランドゴリラと、ルワンダとその近隣諸国に棲むマウンテンゴリラです。

そして、一般観光客が安全にそしてほぼ確実に野生のマウンテンゴリラに出会えるのは、実はルワンダだけなのです。このため欧米や日本などの先進国から多くのネイチャーツアーが組まれ、ひと目野生のゴリラを見ようとたくさんの観光客が訪れます。入山料だけで1回750ドルとかなり高額のツアーですが、入山制限があるためなかなか予約がとれない人気ぶりです。私も一度見に行きましたが、とても感動的な体験で、値段を度外視して皆さんにお勧めしてます

ルワンダのマウンテンゴリラツアーは欧米人に人気で、高額にもかかわらず予約困難
Photo:MICHAEL NICHOLS/National Geographic Creative

この観光ともかかわりがあるのが高付加価値の農業です。ルワンダはもともと農業国で、国民の約7割が農業で生計を立てています。キャッサバやトウモロコシ、米、豆、バナナなど国内向けの食料生産が大半ですが、国土が狭い上に山谷が多いため、海外に販路を築けるほど大規模な農業に育てるのは困難です。

そこで、いまJICAが国際協力を行い、専門家を派遣して、ルワンダの農業国ぶりを生かしながら外貨を稼ぐことができる高付加価値農業を後押ししています。

そのひとつがコーヒーです。赤道近くにして、標高1500m以上で年中暖かくかつ暑すぎないルワンダの気候は、コーヒー栽培にうってつけなのです。

ルワンダのコーヒーがいま、日本のプロの力で世界に進出を

それから、マカデミアナッツ。こちらも、ルワンダの気候に向いた作物で、マカデミアナッツの産地であるケニア以上に良質なナッツが生産できます。

日本の起業家が立ち上げた会社が、マカデミアナッツをルワンダの名産品に加工中

さらにはヨーロッパ向けの花卉。冬のないルワンダでは、ヨーロッパの農地のオフシーズンに合わせて、さまざまな花の計画栽培が可能です。

ヒマワリをはじめ、ルワンダで生産した花はヨーロッパで大人気

コーヒーやマカデミアナッツ、花卉、そして紅茶などは、生産が軌道に乗り、クオリティが担保できるようになれば、前述の観光とセットにしてお土産ビジネスを展開できますし、海外への輸出産品としても有望です。高付加価値農業の発展に際して、JICAでは、日本から専門家を送り込み農業指導にあてたり、企業支援制度を利用して、日本の企業や起業家がルワンダで農業ビジネスをスタートできるよう、後押しをしたりしています。こちらに関しては、あらためて現場取材をいたしましょう。

—ICTは?

ルワンダが力を入れているのは、なんといってもICTです。

まず、企業活動がしやすい環境を用意しています。新しく会社を立ち上げるまでの日数はわずか5.5日。ちなみに、サハラ砂漠以南の「サブサハラ」のアフリカすべての国の平均が26.8日、OECDの先進国でも平均8.3日かかるそうです。企業活動の容易さのランキングを世界銀行が出しているのですが、サブサハラのアフリカすべての国の中で、ルワンダはモーリシャスに次ぐ第2位です。

外資系企業の進出も容易です。ルワンダ国内で会社を登記するのに資本金も保証金も必要ありません。会社を始めるにあたっては、オンラインで登録すれば、最短4時間で完了するほど迅速なシステムを構築しています。

—それはすごいですね。エチオピアでは外資企業が起業するのに、資本金は最低20万ドル必要です。日数も、申請から最後のサーティフィケートが取れるまで、弊社の場合で3カ月近くかかりました。

ルワンダでは、基本的なビジネス環境を整えた上で、ICT関係の規制を大幅に緩和し、国内からICTベンチャーが立ち上がる機運をつくり、海外からの投資も呼び込もうとしています。

ひとつの好例がドローンの活用です。ルワンダでは、いま本格的なドローン専用空港の整備と、ドローンによる輸血用血液の輸送サービスが始まろうとしています。

ルワンダで進むドローン実用化プロジェクト。ドローンが国中を結ぶ日が来る?

ルワンダは山谷が多い地形のため、幹線道路を除くと、村に続く道が整備されていない地域が数多い。そのため、医療用の輸血用血液や医薬品などの不足に地方の医療機関が悩まされる事態が続いていました。物流インフラの未整備は、生活物資などの慢性的な不足を地方にもたらしたりもしています。キガリの近未来都市ぶりに比べて地方は大きく遅れています。

ドローンを各種輸送に使うことができるようになれば、道路や橋のようなインフラや、運送会社のような物流業者がいなくても、地方の物流に関する課題の多くが解決できるようになります。そこで、ルワンダ政府は、海外企業に声をかけ、ドローンビジネスの一大実験を始めようとしています。

輸血用血液や医薬品などの地方輸送をドローンで行おうとしているのは、アメリカのベンチャーZipline社。ルワンダ政府と提携してルワンダ各地の地方病院に輸血用血液や医薬品をドローンで配送する計画です。

ドローン専用の空港をルワンダ各地に整備しようと計画しているのは、イギリスの建築会社とアフリカのベンチャー。将来的には100kgの荷物を配送できる巨大ドローンの運行を視野にいれているそうです。

ドローンのような新しいサービスは、先進国ではさまざまな規制に阻まれて、技術的には普及可能でも、制度面からはすぐにビジネスにするのは難しい。逆に、まっさらな状態から市場を創ろうとしているルワンダは、ドローンビジネスのような次世代のICTサービスを展開するのにうってつけ、というわけです。ルワンダ政府の人たちは、「俺たちはリスクを恐れない」と言って、ドローンについては徹底的に普及させるつもりのようです。

—ICTに関する日本の協力は?

大いにあります。

JICAではルワンダのICT産業の成長にずっと協力してきました。

2009年から「ICTアドバイザー」と呼ばれる専門家を派遣して、ICT産業の育成策をルワンダ政府と議論してきました。2012年にはルワンダのICTを使ったイノベーションのハブになる施設、k ラボ(k Lab)をつくり、ルワンダでのICTの専門家や起業家の育成に努めています。

日本の国際協力でできたk ラボの入り口

k ラボの中では、たくさんの若者がノートPCに向かって、
勉強したり、研究したり、事業計画をつくったり、プログラムを書いたり

また、ルワンダのICT人材の育成のためにも協力していて、2007年からトゥンバ高等技術専門学校という短大クラスの学校の設立と運営を支援しているのですが、この学校で一番人気の学科の1つがIT学科です。IT学科の卒業生の一人が立ち上げたオンライン・ニュースサイトUMUSEKEは、今では毎月200万人以上がアクセスするルワンダの人気サイトになっています。さっきお話しした、輸血用血液と医薬品をドローンで運ぶプロジェクトにも、トゥンバの卒業生が参加しているんです。

最近では、ABEイニシアチブで、日本の大学での人材育成も支援しています。ABEイニシアチブは、2013年に開催された前回のTICAD Vで安倍晋三首相が発表したアフリカの若者のための人材育成プログラムです。5年間で1000人のアフリカの若者を日本の大学院に呼び寄せ、専門教育を施すとともに、企業で経験を積んでもらい、生きた学問を身につけて本国で活躍してもらうというもの。この仕組みを使い、すでに26人のルワンダの若者が日本で学んでいるのですが、そのうち23人はICTを使ってビジネスを立ち上げようという若者たちです。特に多いのは神戸情報大学院大学で学んでいる学生で、14人が神戸にいます。日本で東京の次にルワンダ人が多いのは神戸市なんです。

神戸情報大学院大学で学ぶルワンダの留学生たち。彼らが起業予備軍です

ルワンダが、予想を大きく覆す、安全で美しい国になっていたこと。そして、ICTや高付加価値農業、クオリティの高い観光など、安い労働力を売り物にして労働集約型産業を育てる新興国型のビジネスではなく、先進国型のビジネスを成長させようという戦略をとっていること。のっけから目からウロコが落ちる話ばかりでした。