第3章 - ルワンダ ICT立国編 : その2

ルワンダは、世界の未来を先取りする国になる?

ルワンダにはいま、才能あふれる若者が集まるビルがあります。

首都キガリの丘に建つそのビルは、もともとルワンダ政府の開発局が入居していましたが、いまはルワンダの未来を背負って立つ「小さなシリコンバレー」。

居を構えるのは、k ラボ(kLab)。若きICT起業家たちや技術者、ビジネスパーソン、そしてルワンダの大学生たちが自由に出入りし、ここから新しいベンチャー企業が次々と生まれています。そして同じフロアに新たに登場したのがファブラボ(FabLab)。

3DプリンターやNCマシン(数値制御工作機械)を完備し、利用者は気軽にリアルな機器を「発明」し、新時代の製造業=メイカーズになることが可能です。ビルの別フロアには米カーネギーメロン大学のルワンダ校も入居しています。

実は、このビルに入居しているkラボは、日本の国際協力でスタートしました。そしてkラボやファブラボの設立・運営、こちらで起業したルワンダのベンチャーなどを応援しているのは、JICAをはじめとする日本の政府機関、地方自治体や高等教育機関、神戸市と神戸情報大学院大学。そう、ルワンダのICTセクターの発展には日本が全面協力しているのです。

このビルからどんなベンチャーが生まれているのか。日本はどんな応援をしているのか。ルワンダの明日を担うICTベンチャーの最先端を取材してみましょう。

k ラボとファブラボが入ったビル。
カーネギーメロン大学ルワンダ校も同じビルに

ビルのワンフロアを占めるkラボを訪れると、出迎えてくれたのは若きルワンダの起業家や技術者、そして大学生たちでした。彼らを指導しているのが山中敦之さん。JICAの専門家で、ルワンダのICT戦略の知恵袋的な存在です。ポール・カガメ大統領をはじめ青年ICT省の大臣やルワンダのICT民間企業からの全幅の信頼を置かれているという山中さんに、まずはルワンダのICT戦略のあらましについて、レクチャーしていただきましょう。

—ルワンダがICTを国の未来を担う経済の中心に据えたきっかけは?

実はものすごく古いんです。1994年の内戦と虐殺で国のシステムがハードもソフトも破壊され、働き盛りの人々が亡くなった。そこで98年から早くも、国の復興の中心にICTを活用しよう、という話が出てきたのです。

ルワンダ政府は、水道や電気といったインフラを完備する前から、インターネット環境の充実を図ろうと考えました。ルワンダはもともと内陸国で資源にも恵まれておらず、人口も少ないため、高付加価値のビジネスをつくっていかねば、先行きは暗かった。そこで、ICTに光が当たったんですね。

カガメ大統領が2000年に就任してからは、2020年までにルワンダを中所得国にするという大きな目標を達成するために「ビジョン2020」を策定しました。そしてその達成を助けるためにICTの国家戦略を5カ年ごとに制定することが決定されました。

その大きな趣旨として、2020年までに知的経済、いわゆるICT立国を目指すことにしました。すでに総延長5000km以上の光ファイバー基幹網を国内に敷き、キガリはもちろん地方でも自由にインターネットが使える環境の構築を進めています。現在ではインターネット網の人口カバー率が90%近くに届く環境になっており、それらのすべてを2017年までに4G LTE網にアップグレードする計画が進んでいます。

ただし、インフラの整備は進んだものの、当初はルワンダ国内からICTのベンチャーはなかなか立ち上がりませんでした。国民や社会のニーズをくみ上げ、リーダーシップを発揮し、リスクをとってまで起業する人がすぐには出てこなかったからです。

—山中さんがルワンダにかかわるようになったのは?

私は2009年からルワンダのICT戦略にかかわるようになりました。もともと途上国のICTをベースにした開発支援を国連開発計画(UNDP)などに所属しながらやってきました。ルワンダでICTと開発を進めるにあたり直面した課題の一つは、「ICTを使いこなす人材が少ない」ということ。もともとの私のミッションはICT人材育成計画の策定でした。しかし私の赴任時期がちょうど次期国家ICT戦略改定の年だったことや国連開発計画で多くのICT戦略の立案にかかわってきたこともあり、人材育成だけでなく、国の包括的なICT戦略策定のお手伝いをすることができました。

ルワンダのICTの発展に尽くしてきたJICAの専門家、山中敦之さん。
情熱的で献身的で、ルワンダの若者の尊敬を一身に集めていました

ルワンダの人たちは真面目なんですが、なかなか本音を言わない。じっくり付き合うと、日本人にけっこう似ているんです。農業が中心の農耕民族ということもあるのかもしれません。そういった中で自分たちのオーナーシップを持った戦略や政策を作成するのには難しい点がありました。

そこで私がとった方法は、ルワンダ人自らが誇りを持ち、自分たちの戦略であることを常に意識して達成するために必要なプロセスを重視することでした。起業できるようなリーダーシップを持ってもらうために、国家ICT戦略の策定にあたって、政府機関の職員、企業のビジネスパーソン、教育関係者、NGOの代表などを集めて、何をすべきか、何をやりたいのかを彼ら自身に決めてもらいました。

私は皆が自由に発言できる環境を整備し、必要な点には助言する係。始めてから1年近くかかりましたが、このプロセスを経たからこそ、ルワンダ人のオーナーシップがある戦略と活動計画ができました。そして、この戦略と実施計画のもと、若いICT起業家が羽ばたく準備ができました。

—kラボはどんな経緯でつくられたんでしょう?

kラボができたのは2012年です。それに先立ち、ICT戦略の制定に力を尽くしたICT民間企業が中心になってICT商工会議所が2011年につくられました。この設立に関してもJICAの協力がありました。 

現在私は青年ICT省のアドバイザーと共にこのICT商工会議所のエグゼクティブアドバイザーも務めています。このICT商工会議所とJICAがタッグを組み、起業家やその予備軍、技術者や学生たちが集まって、自由闊達な空気の中でアイデアを形にして、失敗から学びながら、ベンチャーが生まれる場所を、という意図でスタートしたのがkラボです。ルワンダのさまざまな課題をイノベーティブな手法で解決する「イノベーションセンター」を目指しています。

あえて会社のような組織ではなく「ラボ」=実験室としたのは、より多くの人にこの施設を利用してもらうとともに、失敗を恐れる(失敗が許されない)ルワンダ人の気性や意識を改革してもらう意図があってのことです。結果、このkラボから新しい起業家が多数生まれるようになりました。

—ファブラボはどんな経緯で設立されたのですか?

ファブラボは2016年5月12日にオープンしました。日本やアメリカなどではすっかりメジャーになった3DプリンターやNC工作機器、レーザーカッターなどのデジタル化された工作機械を使って、プロトタイプをつくったり、デジタルなものと融合させた製造業を起業する人たちを育てるための「ものづくりラボ」です。こちらはファブラボコンセプトの提唱者であるマサチューセッツ工科大学(MIT)や、3D CADソフト大手のソリッドワークスなどと共に、JICAもバックアップしています。

そもそも、ルワンダは内陸国なので、外国製の機械が壊れたからといって簡単に部品を取り寄せることができません。たった一つのプラスチックのギアが壊れただけで、コピー機など使えなくなってしまいます。だったら、部品1つからでも自分たちで製造できるようになったほうがいいし、自ら設計から製造までの工程を3Dプリンターなどで経験することで、ルワンダ発の製造業なども立ち上げていってほしいと願っています。

ファブラボの3Dプリンターで、
さっそくルワンダ名物マウンテンゴリラを「プリント」してもらいました

山中専門家と談笑するルワンダの若き起業家。
たくさんの起業志望者がこのビルに集まります

それでは、山中さんが指導しているkラボとファブラボで、明日のルワンダを創ろうという若き起業家たちを取材してみましょう。