第3章 - ルワンダ ICT立国編 : その3

ルワンダと神戸を結ぶ「大学」の役割

アランさん率いるワイヤードインには、日本で学んだことのある青年がいます。彼だけではありません。これまでに26人のルワンダの若者たちが日本の大学や大学院などに留学し、さらに日本企業でインターンシップをこなして、これから祖国に戻り、ビジネスの現場で活躍が期待されています。

彼らが日本へやって来たきっかけは、「ABEイニシアティブ」です。

ABEはAfrican Business Educationの略称。JICAが主導して、日本の大学院などにアフリカからの学生を受け入れ、さらに日本の企業でインターンシップの機会を提供するプログラムです。2013年に開催された前回のTICAD Vで安倍晋三首相が発表しました。5年間で1000人のアフリカ留学生を受け入れるこの「ABEイニシアティブ」によって、すでにアフリカ49カ国から820人余りが、日本の約70の教育機関で学んでいます。

そして、とりわけルワンダからの学生の受け入れに積極的なのが、神戸市であり、神戸情報大学院大学です。

神戸情報大学院大学の福岡賢二副学長は、
ルワンダと神戸の懸け橋役を務めてきました

福岡賢二副学長にお話をうかがってみましょう。

—神戸情報大学院大学がルワンダからの留学生をたくさん受け入れている理由は?

本学は、ICTによる社会課題解決を専門的に学ぶ修士課程のみの大学です。ICTの力を借りながら自分で課題発見から解決までができる「探究型人材」の育成を目指しています。

2013年には途上国の課題をICTによって解決する人材を育成する“ICTイノベータコース”を設けました。同年、ABEイニシアティブがスタートしたのをきっかけに、JICAと連携してたくさんの留学生を受け入れることを決定したのです。現在はアフリカ12カ国から約50人の留学生を受け入れており、うち38人がABEイニシアティブで来日した学生。さらにそのうちの12人がルワンダ人です。

では、なぜルワンダに注力しているのか。それはルワンダの特殊事情と関係があります。ご存知の通り、ルワンダでは1994年に大虐殺がありました。結果、本来ならば国や企業を背負って立つはずの熟達した労働力人口層が少ないのです。となると、国の未来を担うのは、10代20代の若者、ということになります。

しかも、ルワンダはカガメ大統領が2000年以来、ICT立国宣言をしており、ICT人材の育成に熱心で、国内のICTインフラの整備も非常に精力的にやっています。ICTは、少ない投資で大きなイノベーションと大きな成果をもたらし得ます。若者がICTを使って国の未来を切り開く、それを日本の大学として貢献ができればと思ったのです。また、逆に日本の若者は満たされていて、イノベーションの機会が見過ごされがちです。日本の若者とルワンダの若者が交流することで、日本にも大きなメリットがあると確信しています。こうして、タッグを組むのに最適な国だ、と判断したのです。

—最初からルワンダに注目されていたのですか?

そういうわけではないんです。アフリカにおけるICTの可能性に気づかされたのは、2011年、とあるITカンファレンスでマラウイの青年に出会ってからなんです。非常に優秀な青年で、こんな青年がアフリカから次々と輩出するのならば、アフリカからの留学生をぜひうちの大学に迎えたい、と考えたのです。すでにケニアでMペサがローンチされるなど、アフリカではICTで経済が変わる、という実例が出始めた頃でもありました。

ただ、どの国と組めばいいかがわからない。そんなときJICAの方がアドバイスをくださったんですね。ICT分野の成長を目論んでいる国といえばダントツでルワンダです、と。そこで、ルワンダからの留学生を受け入れることになりました。

神戸情報大学院大学では、ルワンダをはじめ海外から
多くの留学生が最先端のICTを学んでいます

—成果は出ていますか?

目覚ましい成果をあげている起業家が誕生しています。

その代表が、クラリス・イリバビギザさん。

彼女は、HeHe (ヘヘ)という会社を2010年に設立しました。同社はソフトウェアの開発会社。クラリスさんは2012年にJICAの支援を受けて、本学で2カ月間の研修を受けました。さらにクラリスさんとHeHeを共同設立したムガルラ・アミリさんは、現在、ABEイニシアティブを利用して当校に留学中で、医療分野のアプリ開発の研究を行っています。

日本で薫陶を受けたクラリスさん率いるHeHeは目覚ましい成長を遂げ、現在はルワンダのみならず、ケニアやタンザニアなど複数の東アフリカ諸国を相手にソフトウェア開発を行っています。さらに、高校生や大学生を支援するなど若手起業家の育成も行い、同社からは新しいベンチャーも生まれています。

その活動が評価され、クラリスさんはForbs誌が選ぶアフリカの若手起業家30人の1人にも挙げられました。

クラリスさんやムガルラさんに続く、次の若手起業家が当校の留学生から誕生することを今は目標に置いています。

—ルワンダの学生を受け入れるようになって、新たな発見はありましたか?

神戸情報大学院大学のグループ内に神戸電子専門学校があります。いま実感しているのは、ルワンダで即戦力の技術者を育成する専門学校のニーズです。ABEイニシアティブによって経営者層が育ちつつありますが、現場の技術者が相対的に不足しています。この層の育成は、ルワンダの発展に不可欠だと思っています。

—エチオピアでもそうです。アフリカは実は、大学卒以上のきわめて優秀で国際レベルの人も少なくないのですが、優秀な「現場の働き手」が不足している感がありますね。

その通りです。経済成長には、現場の働き手が優秀であることが必須条件です。戦後の日本の経済成長も現場の働き手が平均して優秀だったからです。ルワンダの現場にはまだその人材が育っていません。職業訓練校はありますが、教えるのは学者肌の人たちで、現場の仕事が教えられていないと聞きます。日本の専門学校は、アフリカで活躍できるのではないかとも考えています。

神戸情報大学院大学の取り組みに刺激を受けたのがお膝元の神戸市です。2016年5月には久元喜造神戸市長も神戸の財界人とルワンダを訪れ、キガリにあるHeHe Labsのオフィスに集結しました。さらにファブラボの開所式にも参加するなど、ルワンダのICTの要所をくまなく歩いて回り、神戸市とキガリ市はICTを中心に経済交流を進める共同宣言を出したそうです。

この連載の第1章でもすでにお伝えしましたように、TICAD Ⅵのジャパンフェアの会場には、神戸市と神戸情報大学院大学が共同でブースを出しました。そちらでお会いした、神戸市で新産業創造を担当する多名部重則さんはこう語ります。

「神戸市には、ICTを得意とする中小企業が多くあります。そこで、ルワンダをはじめアフリカ各国からたくさんのインターン生を受け入れ、OJTで仕事を覚えてもらう。そして神戸の中小企業の技術でルワンダをはじめとしたアフリカ各国の課題を解決できれば、企業側にとってもビジネスチャンスになります」

神戸市の多名部重則さんは、阪神大震災から立ち直った神戸とジェノサイドから復活した
ルワンダにはお互いシンパシーがある、と

「神戸市では、ルワンダをサポートすることで神戸市内のICT関連企業を活性化できないかと考えています。今後は神戸市を舞台に、ルワンダやアフリカのビジネスセミナーを積極的に行い、神戸とルワンダの絆から新しいビジネスの芽が誕生するためのきっかけづくりを行っていきたいですね」

アフリカでビジネスを続ける上で最も大切なことの1つ、それは現地に信頼できるパートナーを得ることです。私もエチオピアで信頼できる人たちを見つけることができたからこそ、なんとかビジネスを続けられています。

その意味で、アフリカからたくさんの留学生を受け入れ、日本になじんでもらって、本国で活躍してもらうプログラム、ABEイニシアティブは、アフリカ諸国にとってはもちろん、アフリカで仕事をしようという日本企業にとっても、いいパートナーを育てる仕組みとして機能していると思います。

神戸情報大学院大学が率先してルワンダから留学生を受け入れ、ルワンダのICT戦略に寄与する。そのつながりが、地元神戸のICTの中小企業が活路をアフリカに求めようとする際、大事な礎ともなる。これは、新しいタイプの産官学民連携の在り方だと思いました。ルワンダと神戸情報大学院大学と神戸市の築いたつながりをぜひ、他の日本の教育機関や地方自治体にも真似をしてほしいですね。

ルワンダICT立国編 まとめ

ルワンダは、私の想像を超えた国でした。そしてすぐに大好きになりました。

「ここに住みたい!」「ここでビジネスをしてみたい!」

おそらく、アフリカの他国での経験が長い人ほどそう思うのではないでしょうか?

夏の高原のような心地よい気候、勤勉で温厚な人々。治安の良さ、クリーンで安定した政治、そしてICTインフラの発達。

ルワンダがなぜICT戦略に注力するのか。

それは、やはりあの内戦がベースにありました。

多くの人々の命を失い、国のインフラを失い、秩序を失った。そのまま行くと世界の成長から取り残されてしまう。そのとき国のトップに立ったカガメ大統領。時は2000年。そう、ちょうどICTが大きく成長しようという時期でした。

このタイミングで、ICTに選択と集中をしよう。まだ内戦の傷跡が残る中、その決断を下したカガメ大統領は、小さいながらも1つの会社を経営する者として思うに、実に優れた国家の経営者です。

そして、その後のルワンダのICTの成長に、日本のABEイニシアティブによる留学生の受け入れ、JICAによる国際協力によるk ラボなどの設立、神戸情報大学院大学など日本の大学の協力、神戸市のような地方自治体の支援という具合に、「オールジャパン」が寄与していたことは、今回はじめて知りました。

あの内戦から22年。いまのルワンダは、1945年の終戦の焼け野原からオリンピックを開催できるまでに成長した1965年の日本と、同じような立ち位置にいるように思えます。

ドローンビジネスをはじめ、新しいICTの活用もますます栄えるでしょう。いったん知ってしまうと、経営者としてもはや無視できない国、それがルワンダです。