その1:日本のビジネスパーソンと
ルワンダの農家がタッグを組めば
マカデミアナッツがビジネスになる!

ケーススタディ ルワンダナッツカンパニー

マカデミアナッツ。おいしいですよね。私も大好きです。

そのマカデミアナッツがどんな風に育つのか、ご存じですか。

首都キガリから2時間ほど車に揺られていくと、赤茶けた山に木々が茂り、農村らしいハットの屋根が点々と見えてきました。車を降りて急な斜面を歩いていくと、すらりとしたルワンダ人の女性が出迎えてくれました。スザンナさん。こちらの急な斜面にマカデミアの木々を植えてナッツを栽培しています。

「このくらいの斜面は、この国では平地の内です。ほとんど崖みたいなところを農地にしている農家もけっこうあるんですよ」

そう話すのは、原田桃子さん。ルワンダでマカデミアナッツの商品化を進める事業を行う現地法人、ルワンダナッツカンパニーの社長です。

「さあ、じゃあ農場に行きましょうか」

スザンナさんは集荷担当のフォースティンさんとともにでこぼこの斜面をずんずんと上っていきます。しまった。今日はヒールの靴だ。ひるんでいると置いていかれます。私も慌ててあとをついていきました。

起伏の激しいルワンダの地形を生かしたマカデミアナッツ畑。
すごい急斜面で上り下りもけっこうな運動に!

数十メートル歩いたでしょうか。点々とマカデミアの木が植わっています。

枝には、まんまるのマカデミアの実が房状になっています。

「あちらの木の枝の実はまだ小さいですよね。こちらの木の枝は花が咲いていて、これから実がなります。ルワンダは年2回の雨期に加え、1年中ずっと穏やかな気候なので、通年マカデミアの実がなります。その点もナッツ事業に適している、と感じます」とフォースティンさん。

畑の所有者であるスザンナさんは語ります。

「1本の木からは毎年40kg分のマカデミアナッツが採れます。このナッツを集めて、ルワンダナッツカンパニーに卸しているの。マカデミアの木の間には大豆を植えて、土壌を改良し、ほかにもアボカドやバナナ、マンゴーやパパイヤなんかも育てているわ。マカデミアの木の上にある木製の筒は、ミツバチを呼び寄せる人工巣。あそこにミツバチが巣をつくるとそれはたくさんの蜂蜜が採れるようになります。もちろんマカデミアの花の受粉もしてくれるんですよ」 

スザンナさんは、この農地を含めて3カ所に計200本のマカデミアの木を所有しています。10年前に政府が配布した苗木をここまで育て、数年前から収穫ができるようになりました。今では、それぞれの木が時期をずらして実をつけるので、ナッツの収穫は「毎朝あります」とスザンナさんは語ります。

「毎朝、学校が始まる前に畑を回って実をかき集めるの。そうしないと、夜の間に木から落ちた実を朝、学校に通う子供たちが拾っていっちゃうのよ!」

畑を一通り回って、熟したマカデミアの実を集めたのち、畑の麓にあるスザンナさんの自宅にお邪魔しました。シンプルですが、実に洒落た佇まいです。

「ここで集めた実を並べて乾燥させて、あとから麓の村にあるルワンダナッツカンパニーの工場に卸すわけ」

網の上に並べたナッツを指差しながら、スザンナさんは冷たいジュースをふるまってくれました。ふと部屋の片隅の本棚を見ると、英語版の大江健三郎に三島由紀夫の小説が並んでいます。(えっ、そんな農家の方にアフリカで会ったことない!この方は一体何者!?)驚く私にスザンナさんは笑って答えてくれました。

「オオエもミシマもずっとファンなの。そうそう、昔は国連機関に勤めていたのよ。家族はアメリカで働いているけれど、私はルワンダに残りました。そこで、10年前から政府が推進するマカデミアナッツ栽培にトライしてみることにしたの」

この国に来て、首都キガリの美しさとICT先進国ぶりにも驚かされましたが、農業の現場でもまたまた驚かされました。スザンナさんは少々特別なケースかもしれませんが、それにしてもルワンダは本当に至るところに優れた人材がいる国のようです。

「ルワンダには、スザンナさんのようにここ10年でマカデミアナッツを育てている農家が増えました」

ルワンダナッツカンパニーは、ケニア在住の日本人実業家佐藤芳之さんを中心として日本人有志数名が2012年に創業しました。隣国ケニアでのマカデミアナッツ産業の成功を元に、ルワンダ政府が2004年から苗木生産を開始し自国での産業振興を始めましたが、当初は輸出レベルで加工できる会社がありませんでした。そこへ、ケニアでの佐藤さんの経験を活かしてルワンダで生産加工を始めたのがルワンダナッツカンパニーです。その後、原田さんをはじめとし元商社マンや会計士の経歴を持つ日本の若き精鋭たちが参画し会社運営に挑んでいます。自社農園でナッツを育てているほか、スザンナさんのような現地の人が生産したナッツを適正な価格で買い取り、加工して輸出しています。従業員数は有期・無期雇用合わせて300名程度。

ケニアと気候が似ているルワンダでも、マカデミアナッツは良く育つのでしょうか。

「まだまだ調査段階なので、正確なことは言えませんが、肌感覚では」と断りを入れた上で、集荷担当の男性は語ります。

「ルワンダはケニアに負けず劣らず、マカデミアナッツの生産に向いていると思います。まず、ルワンダではマカデミアナッツの通年生産が可能です。それからそもそも、ルワンダで育つナッツの質がとてもいい。定評のあるケニア産以上に大きな実が育つのです」

では、マカデミアナッツはどうやって製品化されるのでしょうか。今度は加工の現場を取材してみましょう。

契約農家から仕入れたマカデミアナッツは、まずは重量を計測します

つるつるのマカデミアナッツ。
堅い外皮を割れば、中にあのクリーム色のナッツが

仕入れたマカデミアナッツは抜き取り検品をして品質をチェックします

私たちはスザンナさんの農場から、ルワンダナッツカンパニーのオフィスと工場がある町へと車で向かいました。オフィスの軒先では、ナッツの買い取りが行われています。

農家で収穫・乾燥してから袋に入れて届けられたナッツを、社員の男性がいくつか取り出して品質をチェックします。まずは外皮を見て十分に乾燥しているかどうかを確認します。続いて、ナッツ割り器を使って外皮を割る。見慣れたあのクリーム色のマカデミアナッツが出てきました。このナッツを念入りに調べて、熟し具合や虫食い、カビの有無をチェックする。

「今日入荷したナッツは8割方、いい品質だったね」と担当者の男性は語ります。農家に対して、量と品質を上げていくための農業指導も、ルワンダナッツカンパニーでは行っており、検品時の良品率で価値を決めることで、農家と会社がWinWinの関係になることを目指しているそうです。

サンプルチェックを終えたナッツは、このあとルワンダナッツの倉庫でさらに数︎日乾燥させ、そのあと工場に運び込まれます。

工場では、見学者もふくめ、皆白衣に着替え、手を洗い、消毒します。

運び込まれたナッツは機械で外皮にひびを入れ、あとは手作業で剝いていきます。ヘッドフォンをしている人がいるのは、外皮がついたままのナッツを機械に入れるときに、かなり大きな音がするからです。

外皮を剝いたら、次は選別・選定。サイズや色、形でグレード分けをしていきます。買い取りの場でチェックしていたのと同様に、虫食いやカビのあるものを除外していきます。カビたものは家畜の餌にし、虫食いのものはその部分だけをナイフで取り除きます。ちなみに外皮は乾燥機の燃料にし、その燃えかすは農場の土壌の改良に使っているそうです。まったく無駄がありません。

工場ではルワンダ人の従業員がナッツをひとつひとつ検品してグレード別に仕分ける

検品後のナッツは真空パックされた状態で輸出されます。そのうちごく一部は、この工場で加工製品に変身します。ナッツをパウダーにして、砕いたナッツを混ぜてクッキーを焼いたり、煎ってジンジャー風味の蜂蜜と絡めてお菓子にしたり。

輸出先は、主にアメリカ、ヨーロッパ、日本などのアジア諸国。もちろんルワンダ国内でも、蜂蜜菓子と並べて、スーパー、空港の店舗で販売されています。また、ルワンダのナショナルフラッグ・キャリアであるルワンダ航空の機内でもナッツやクッキーが機内食として提供されています。

マカデミアナッツは、世界的に見ても需要が大きいのですが、生産地が限られているため、市場では供給不足です。だから、質のいいナッツを大量に安定供給できれば、マーケットを獲得するチャンスが生まれます。ルワンダの既存の商業作物の代表は、コーヒーと紅茶ですが、こちらはライバルが多く、国際価格の変動も大きい。ルワンダの農業を支える新しい主役の1つとして、マカデミアナッツは大いに期待できると感じました。

それでは、ルワンダのマカデミアナッツ産業のチャレンジは何でしょうか?

「しっかりした栽培技術の浸透による生産量の拡大と国際市場で選ばれるための有機栽培の導入です」と原田さんは続けます。

ルワンダナッツカンパニーは株式会社オーガニック・ソリューションズ・ジャパン(東京、千代田区)と共にここルワンダで2016年から、JICAの民間連携制度を活用して、菌根菌をはじめとする現地の有用微生物とパートナー植物を使用した安心・安全で持続可能なマカデミアナッツの有機農法を商業規模で実証する事業に取り組んでいます。

「マカデミアナッツはまだ新しい作物のため、ルワンダの農家も栽培方法は手探り。適切なタイミングで枝の剪定をしたり、状況に応じて正しい施肥をおこなったりすることで収量がぐっと上がるポテンシャルがあります。また、経済的に合理性があって循環型の持続可能な有機農法を習得すれば、有機認証を取得し商品価値を高めることも可能なのです。内陸国で輸送費が高くつき、小さな国土のため、大きな園地が得られず量で勝負できないルワンダのマカデミアナッツが戦えるのは高品質な有機農産物だと考えています」

そこで日本の果樹園芸の専門家たちが技術的側面からこのプロジェクトをがっちりと支えます。プロジェクトのチーフ・アドバイザーである石井孝昭専門家(元京都府立大学大学院教授)にお話を伺いました。

石井孝昭専門家の農業指導で
ルワンダの畑にマカデミアの木が植えられた

「昔から日本人は人間と共生する有用な菌を活用してきました。発酵技術がまさにそれです。植物と共生する有用な菌を活用し、植物自体の力を利用すれば、安心・安全で持続的な有機栽培が可能です。今指導しているルワンダの農業大学卒の若い人たちは真剣に学んでいます。彼らがこの栽培技術を習熟していけば、ルワンダのマカデミアナッツ産業は大きく育つと信じています。

一方で、ルワンダでの菌根菌等の有益微生物を活用した有機マカデミアナッツ栽培を通して、化学合成農薬や化学肥料に過度に依存するわが国の農業に対して大きなインパクトを与えることができればと考えています」

ルワンダの人々と日本のビジネスパーソンがタッグを組んで
マカデミアナッツ産業を育てる

10年先、15年先に、有機栽培でさらに付加価値が高まったナッツがルワンダの農家さんたちの生活を支えているでしょう。