その2:ルワンダを変える花、それはヒマワリにリンドウ

ケーススタディ ブルーム・ヒルズ・ルワンダ

ルワンダには、ヒマワリやリンドウなど花の栽培を行うブルーム・ヒルズ・ルワンダという会社があります。同社は、みずほ情報総研とトヨタ自動車の共同支援のもと、2016年に創業しました。

ルワンダでの花卉栽培実証事業を行うみずほ情報総研の大谷智一さん

みずほ情報総研では、ブルーム・ヒルズ・ルワンダに日本の農業の花栽培技術を伝承してもらい、花卉ビジネスを同国の新しい産業にしようと計画しています。

「1年中温暖な気候のルワンダは、とりわけヨーロッパ圏をターゲットとしたフラワービジネス市場を攻略するのにうってつけ、と考えました。そこで私たちがまず選んだのはリンドウです。リンドウ栽培の実証事業の中で、環境等への配慮のための輪作体系を検討し、その中でヒマワリ栽培を行いました。ヒマワリは想定する市場であるヨーロッパ全域で人気があり、かつ冬にはヨーロッパ圏の大半で栽培ができません。つまり大きなビジネスチャンスがある、というわけです」

そう語るのは、同ベンチャーの立ち上げを支援したみずほ情報総研の大谷智一さんです。

みずほ情報総研は、この連載ですでに紹介した、ケニア・ナイロビで開催されたTICAD Ⅵのジャパンフェアにも出展していました。会場を訪れた安倍晋三総理夫人の昭恵さんがヒマワリの花の写真をFacebookにアップしていましたが、あのヒマワリは、みずほ情報総研が展示したもので、ブルーム・ヒルズ・ルワンダが栽培したヒマワリだったのです。

それにしても、なぜルワンダで花、だったのでしょうか。

マカデミアナッツならば真空パック状態で出荷できますし、日持ちもします。すでにルワンダの作物として定着しているコーヒーとお茶もしかり。

でも、花はそうはいきません。ルワンダは内陸国で輸出に不利ですし、巨大市場のヨーロッパからも離れている。寿命の短い花を育てて出荷するビジネスは、リスクが大きいのではないでしょうか?

大谷さんは、私のこの疑問にこう答えます。

「たしかに花はすぐに傷みます。日持ちがしません。しかし、だからこそ、ビジネスチャンスがある。商品がストックできないということは常に市場が動いている、ということでもあるのです。花は高付加価値商品なので、希少性を売りにできれば高い価格設定も見込めます」

なぜ農業ベンチャーの立ち上げに関わったのでしょうか?  大谷さんは明かします。

「ルワンダでの花卉栽培の実証事業は、日本の農林水産業の海外進出を支援する『みずほグローバルアグリイノベーション』の一環として行っているものです。日本企業からの花や農産物の委託生産を行う現地の農業ベンチャーとしてブルーム・ヒルズ・ルワンダの立ち上げを支援しました。農業こそが、アフリカを発展させる。私たちはそう信じています。農業の効率化のきっかけとなるアイデアや技術をどんどん現地に紹介していきたいと思って同社の立ち上げを支援しました」

ルワンダのプロジェクト実験圃場

ブルーム・ヒルズ・ルワンダでは、ルワンダで栽培されたヒマワリを首都キガリの空港から世界随一の花卉市場であるオランダのアムステルダムへと空輸しています。農場からキガリの国際空港までヒマワリを届ける物流網も構築しました。

「リンドウは、ヨーロッパで売れる可能性を秘めているんです」と語るのは、現在ブルーム・ヒルズ・ルワンダの社長を務める原田俊吾さんです。

ブルーム・ヒルズ・ルワンダの会長には、ケニアナッツカンパニーを成功させたアフリカのビジネスの世界では名の知れた佐藤芳之さん(5ページに登場されます)が2016年2月に会長に就任しています。その佐藤さんが社長を務めている別の会社で、微生物資材の開発・販売を行うオーガニック・ソリューションズ・ルワンダのマネジャーだったのが原田俊吾さんでした。

大谷さんの農業ベンチャーの構想に賛同し、原田俊吾さんはブルーム・ヒルズ・ルワンダの経営に参画することになったそうです。

ブルーム・ヒルズ・ルワンダの原田俊吾社長

日本の秋を飾る可憐な青紫のあのリンドウをなぜルワンダで栽培するのでしょう。そして、なぜそのリンドウが、なぜヨーロッパで売れるのでしょう。

原田俊吾さんは、私の疑問にこう答えてくれました。

「日本では、初秋に咲くリンドウは、花の時期のせいでしょうか、お彼岸用の花や仏花の印象が強いかと思います。日本原産のリンドウは、日本の季節のイベントとセットになったイメージを持たれてしまっています。一方、ヨーロッパでは、リンドウは日本から来た珍しい花。日本でのお彼岸用や仏花といった固定イメージにとらわれず、リンドウ本来の美しさを楽しんでもらえるのではないでしょうか。たとえば、ヨーロッパでは結婚式のブーケに青い花を使う習慣があります。となれば、リンドウを結婚式用のブーケの花として使ってもらえるかもしれません」

なるほど。Something blueという言葉があります。花嫁は、何か青いものを身に着けていると幸せになれるというヨーロッパの言い伝えです。

「ヨーロッパでのウエディングブーケ市場を、日本発・ルワンダ経由で開拓できれば、両国にとって真に価値のある取り組みになると思います」

みずほ情報総研が実施しているリンドウ栽培の実証事業では、日本国内で「安代りんどう」などオリジナルブランドを育てている岩手県八幡平市と、リンドウの育種技術に関する研究を行っている岩手大学と共同で調査を繰り返し、ルワンダがリンドウ栽培に適していることを確かめ、栽培体系の確立を目指しています。この実証事業は2015年にスタートし、翌2016年のブルーム・ヒルズ・ルワンダの創業につながったのだそうです。

また、みずほ情報総研では、東京都大田区と連携して、同区内の企業の技術と海外のニーズをマッチングして製品開発支援を行っています。大谷さんは、ルワンダでの花卉栽培に関連した機器の製品化を進めています。

「東京都大田区は小さな工場がたくさんあることで知られていますが、そこでつくられている農業機材、たとえば農作物にダメージを与えるエチレンガスを除去する機械などを、ルワンダなどアフリカで展開していく計画もあります」

大田区の中小企業がつくっているエチレンガス除去の機械がルワンダの農作物輸出にどのように貢献できそうか、これはJICAの中小企業海外展開支援事業として実地での検証が予定されています。

私がエチオピアを初めて訪れた2000年代には、みずほ情報総研のような大手金融機関のシンクタンクが積極的にアフリカでのビジネスにコミットするケースは見たことがありませんでした。時代が大きく動いていることを感じます。大谷さんは続けます。

「たしかに従来のシンクタンクの枠を超えた仕事ですね。海外でのベンチャー支援は総合商社の得意技。そんな総合商社の社員の方にこのプロジェクトについて『農業ベンチャーとは新しいことを始めましたね』と褒めていただきました」

大谷さんによれば、ルワンダはアフリカの他の国に比べてビジネス上で大きな特徴があるそうです。

「ルワンダは、ビジネスを新しく展開するのにとても適した国です。2014年の世界銀行の報告書によれば、ルワンダがアフリカで2番目にビジネスがやりやすい国だそうです。会社を新しく登記するのも簡単で、首都キガリは清潔なうえに低犯罪率、年平均で8%の高い成長率を誇っています。労働力が豊富で、ITの普及も早い。しかも、水資源に恵まれ、農業ビジネスにもうってつけの環境です」

ブルーム・ヒルズ・ルワンダの会長に就任された佐藤芳之さんは、アフリカでのビジネスに長年携わってこられた、ミスター・アフリカビジネスという方です。ルワンダでの実証事業の立ち上げ当初から協力していただいているそうです。

「佐藤さんのネームバリューには助けられています。ルワンダの要人たちから『ミスター・サトウが言うなら信用できる』と言っていただける」

大谷さんは、ルワンダで日本のODAを展開するJICAから、佐藤さんを紹介してもらいました。そして原田俊吾さんが参画。かくしてブルーム・ヒルズ・ルワンダの経営チームは出来上がったというわけです。

さまざまな企業の参画を促すみずほ情報総研

ブルーム・ヒルズ・ルワンダでは、ヒマワリに続き、リンドウの商用生産を一刻も早く達成し、ルワンダでさらなる農業ビジネスの展開を目指しています。大谷さんは説明します。

「もともと農業国であるルワンダは、農村共同体的な文化の残る日本といろいろな意味で相性がいい、と感じています。農業ベンチャーであるブルーム・ヒルズ・ルワンダに勝機あり、と思ったのも、ルワンダの人たちの気質に合うビジネスが展開できる、と考えたからです。一方で、農業ビジネスは短期的にすぐに収益が上がるわけではありません。長期的に腰を据えて育てていく必要があります。ルワンダの人たちから、『日本人はこの国に根を下ろして、花卉の事業を開発してくれている』と信頼されなければ先はありません。まずは、岩手自慢のリンドウをこの国で育て、ヨーロッパでブランディングしたいですね」

数年後、ヨーロッパの街角で見かけた結婚式の花嫁が持つブーケに青いリンドウの花を見かけることがあったら、それはルワンダで育ったリンドウかもしれません。