その3:ルワンダコーヒーを世界一のブランドに育てる! 
コーヒーハンター、ホセ川島の挑戦

ケーススタディ ミカフェート

日本のベンチャーが、ルワンダに高付加価値の農業を根付かせる。作物は、マカデミアナッツ、ヒマワリにリンドウ。

ただし、現時点で、ルワンダの農業で最も外貨を稼いでいるのは、コーヒーです。なんとルワンダの総輸出額の25%前後がコーヒーで占められているとのこと。人口約1200万人のルワンダで、約40万世帯の農家がコーヒー栽培に従事しているそうです。ルワンダにとってコーヒーは一大産業なのです。

ルワンダコーヒーは日本でも輸入されています。飲んだことのある方もいらっしゃるでしょう。一方で、コーヒーは、アフリカのみならず、東南アジア、中南米と、世界各地に産地があり、それぞれがしのぎを削っています。つまりとても競争の激しい市場なのです。

そんなコーヒー市場で、ルワンダコーヒーの価値を上げることができるのでしょうか?

コーヒーハンターの異名を持つ川島良ミカフェート社長

「できますよ」と微笑むのは、ホセ川島こと川島良彰さん。コーヒー豆の輸入・焙煎販売会社ミカフェートの社長である川島さんは、JICAの客員専門員として、2013年からルワンダのコーヒー栽培とコーヒー販売の指導を行っています。

川島さんは、日本のコーヒー業界では、希少なコーヒー品種や知られていない凄い生産者を世界中から見つけてくる「コーヒーハンター」として知られています。

実家が静岡市でコーヒー焙煎(ばいせん)卸業を営んでおり、幼少期からコーヒーの仕事に就こうと決意していたそうです。なんと高校卒業後コーヒーの勉強をするために単身エルサルバドルへ渡り、国立コーヒー研究所でコーヒーの栽培から精選までの技術を磨き、UCC上島珈琲に入社して、世界各国でコーヒー農園の開発などを手掛けました。

2008年に独立してミカフェートを創業した川島さんは、世界各国から生豆を仕入れて販売する一方で、これまで培ったコーヒー栽培の技術や焙煎の技術、コーヒーの抽出の技術を、JICAの客員専門員として開発途上国で指導しています。

そんな川島さんに「ルワンダで、現地農家にぜひコーヒー栽培を指導してほしい」とJICAが要請したのは2013︎年のこと。川島さんがルワンダのコーヒーをどう変えようとしているのか、伺いました。

コーヒーの生豆を仕入れて、コーヒーの指導に活用 
ルワンダ産コーヒーもすでに商品化

「2011年に初めてルワンダを訪れたときには、周囲に心配されたんですよ。『大丈夫なのか?』ってね」と笑う川島さん。

「当時は、まだルワンダ=ジェノサイド、のイメージが強かったんですね。でも、実際に訪れてみると、街も自然も実に美しくって、感激しました。道路にはゴミひとつ落ちていない。人々はみんな穏やかで、車で走っていると、子供たちがニコニコしながら手を振ってくれる。本当にこの国で大虐殺があったのだろうか、と不思議に思いました。でも、車越しに、虐殺に荷担した罪を負った受刑者たちが、オレンジやピンクのつなぎを来て労務をしているところを見て、現実に引き戻されました。その後、仲良くなった現地のルワンダ人に『虐殺の恨みは忘れられるものなのか』と聞いたら『忘れてやっていくしかないでしょう』と言われたんです。その言葉で決めました。ならばルワンダのコーヒーのために、何かお手伝いしようと」

実際にルワンダの現地に赴き、コーヒー農家を訪ね、ルワンダのコーヒーを子細に味わった川島さんは、ひとつの結論に達します。

ルワンダの気候はコーヒー栽培に実に適している。ポテンシャルは極めて高い。が、現時点では、ルワンダのコーヒーは、世界水準から見ると「遅れている」と。

いったいどこが「遅れている」のでしょうか?

「そもそもコーヒーは、熱帯地方の作物です。産地は、アフリカ、中南米、東南アジア。つまり、コーヒーの大半は途上国で栽培されている。そして、コーヒー産出国はコーヒー先進国とコーヒー途上国とに分けられます。先進国は、中南米諸国。世界的にコーヒーの商業栽培が始まったのは、18世紀後半からです。つまり中南米諸国の大半は、スペインやポルトガルなどヨーロッパの宗主国から独立したのち、自分たちの手でコーヒー栽培を開始したので、コーヒーに関する各種ノウハウを自分たちで蓄積し、自分たちで磨いてきました。では、ルワンダはどちらかというと、そう、コーヒー途上国です。これはコーヒーをつくっている多くのアフリカ諸国に共通するのですが、1960年代にヨーロッパから独立し、それまでは宗主国の人間がコーヒー園を経営し流通まで担い、地元の人々は労働者として働いてきました。当然、コーヒーに関するノウハウは宗主国たるヨーロッパが持っており、アフリカ諸国には一切蓄積されていませんでした」

総輸出額の25%をコーヒーに頼るルワンダも、コーヒー栽培から焙煎、抽出にいたるノウハウはちゃんと持っていなかったんですね。

「そうです。ルワンダの場合、宗主国はベルギー。1962年に独立しましたが、すでにコーヒー農園がベルギー人によってたくさん運営されていたため、ルワンダの人々には何のノウハウもありませんでした。コーヒー農園は、独立後に自分たちのものになるんですが、見よう見まねだけではうまく行きません。ルワンダの人に『どうしてこうするの?』と聞くと『ベルギー人はこうやっていたから』と答えるんです。そこで『なぜベルギー人はそうしていたの?』と聞くと『わからない』となるんですね。植付方法、肥培管理、収穫後の精選作業にいたるまで、昔ベルギー人がやっていたことを、形だけ継承し自分のやりやすいように変更していました。

ルワンダのコーヒー農園で技術指導を行う
海外青年協力隊員に、アドバイスをする川島さん

そしてさらにもうひとつ、ルワンダのコーヒーが地政学的に発展途上にある理由があります。

「東アフリカは、イギリス領が多かったために、現地ではコーヒー以上に紅茶がポピュラーな飲料です。コーヒー生産者がプライベートではコーヒーを飲まずに紅茶をたしなみますルワンダはベルギー領でしたが、コーヒーと並んで紅茶の産地として知られていて、甘いミルクティーに生姜を入れたチャイが一般的な飲み物として普及しています。同じですね。このため、コーヒー生産者や輸出業社がコーヒーの味をまったく知らなかったりする。これも大きなハンデです」

何度も記したように、ルワンダは四方を他国に囲まれた内陸国です。周囲の国よりよほど優れたものをつくらない限り、価格競争で必ず負けてしまう運命にあります。「コーヒー途上国」のルワンダのコーヒーが変身できる可能性はあるのでしょうか?

「あります」と川島さんは力強く言います。

「まず、ルワンダはもともと農業国で国民の大半が農民ですから、じっくり作物を育てるのには向いているんですね。ちゃんと技術指導をしてあげれば、きっといいコーヒーをつくるはずです」

もちろん、農家が栽培技術を磨き意識を変えていけば、いまより良いコーヒーができるでしょう。一方、コーヒーは世界70カ国以上でつくられています。競争は激しい。すでに栽培技術を磨いている国も多いはずです。そんな「レッドオーシャン」市場で、いまさらルワンダのコーヒーが浮上できる可能性はあるのでしょうか?

「やはり特産品を作ることです。ストレートの飲用に適したアラビカ種の中にも、たくさんの品種があります。そのうちのひとつにブルボン ミビリジという品種があります。このブルボンは今のレユニオン島のことです。この島で最初に確認された種、ということでこの名がつきました。が、ミビリジ、の意味がわからない。調べてみたら、ドイツ人宣教師がミビリジ村の修道院にブルボン種を植えたのが、ルワンダコーヒーの起源で、この地の環境に適合しブルボン ミビジリと呼ばれたことがわかりました。しかし生産性が低かったので、独立後は高収量の病気に耐性をもった品種に取って代われてしまいました。」

川島さんは2016年2月、ブルンジとの国境近くのミビリジ村を訪れたところ、文献にあったように、修道院の裏手にコーヒー畑を見つけました。

ルワンダ・ミビリジ村のコーヒー生産者たちと川島さん

ミビリジ村の修道院入口にある看板

ブルボン ミビリジの樹

ブルボン ミビリジのコーヒーチェリー。
赤く熟してから収穫する

「このルワンダ生まれの栽培種を使って、特産品をつくってみよう。そう考えた私は、2016年春、JICAの人たちと3回にわたって豆を収穫し官能試験を行いました。結果は、これまで飲んだルワンダ産のコーヒーの中で一番おいしいコーヒーだったのです。かくして、JICAも本格的にこのブランドの生産に協力することになり、ルワンダではいま、私たちの指導のもと、ブルボン ミビリジの苗作りから着手し、ルワンダ特産のコーヒーをつくろうとしています」

あと1つ残っているのは、物流の問題です。船による輸出が単独でできない内陸国ルワンダは、どうやって物流コストを抑えればいいのでしょう?

川島さんの答えは、

「旅行者に運んでもらうのです。ルワンダは、野生のマウンテンゴリラの宝庫で、保護と観察に努力しサステイナブルな観光システムを構築し、世界各国からこの高額なツアーに参加が集まります。しかし観光客が利用するルワンダのホテルやレストラン、コーヒーショップで提供されるコーヒーや、お土産物屋で販売されるコーヒーは、とても残念なクオリティーです。このルワンダ国内で出すコーヒーの味を劇的に変えてしまう。おいしいコーヒーを観光客の人々に飲んでもらい、おいしいルワンダコーヒーをお土産に買って帰ってもらえるようにする。そのお土産のコーヒーが、アメリカやヨーロッパや日本で飲まれて、『ルワンダのコーヒーはおいしい!』と評判になれば、今度は自国でコーヒー豆を買うときに『ルワンダのコーヒーはないの?』とお店に聞くようになるでしょう。そうなれば、コーヒー豆を扱う業者も、喫茶店もルワンダのコーヒーを手に入れたくなるはずです」

なんとも壮大な発想ですが、川島さんはすでにこの夢の実現にとりかかっています。

コーヒー樹の成長を確認する川島さん

「JICAのプロジェクトの目標に、ルワンダ国内のコーヒーをおいしくすることを加えたんですよ。2016年1月には神戸で、ルワンダ人のバリスタ=コーヒーを淹れる人を一流に育てるための講演を行い、2月にはキガリでJICA主催のバリスタセミナーを開きました。定員をはるかに越す30数名のルワンダ人が参加してくれました。数年内に、ルワンダで飲むコーヒーを劇的においしくする。実現すれば、すべての歯車がゆっくりですがうまく回り始めるはずです」

2016年10月、ミカフェートの東京本社では、2016年末から青年海外協力隊員としてルワンダへ行く2人の若者が研修を受けていました。高校生の頃から国際協力に興味があり、ハワイのコーヒー農園で農場研修の経験がある弓田淳也さんと、3年間銀行で働いてようやく夢だった国際貢献に一歩踏み出そうとしている西垣くるみさんが、コーヒー焙煎を学んでいるところでした。

「彼ら彼女らに、僕のノウハウを徹底的に伝授して、ルワンダで先生になってもらいます。数年後には、ルワンダ、といえば、ジェノサイドじゃなくって、うまいコーヒーの代名詞になっているよう、がんばりたいですね」

ルワンダ産の最高級コーヒーを使ったミカフェートの製品を手に、コーヒーハンター、ホセ川島はにっこり笑いました。

ミカフェートでコーヒーの研修を受けて
これからコーヒーの専門家として旅立つ、弓田淳也さんと西垣くるみさん