5章 - アフリカビジネス まとめ 対談・北岡伸一JICA理事長×鮫島弘子

青年海外協力隊出身者は貴重な戦力

鮫島:それは素晴らしいですね。多くの企業が、規模の大小にかかわらず、アフリカを身近に感じ、アフリカでビジネスに取り組んでくれたらと思います。

今、アフリカでビジネスをしている日本人の多くは、もともとアフリカでの仕事や暮らしに興味を持っていた人が多いように感じています。中でも青年海外協力隊出身者がとても多いんですね。

北岡:なるほど、たしかにそうですね。

鮫島:たとえば、安倍晋三総理の演説の冒頭で紹介されたアフリカスキャンの澤田霞さんは、セネガルで青年海外協力隊経験があります。手前味噌になりますが、私自身も青年海外協力隊員として、エチオピアとガーナに滞在した経験があります。青年海外協力隊での経験は、アフリカをはじめ新興国で起業したり、現地で働いたりするときに何ものにも代え難い価値があります。JICAとして、青年海外協力隊のOBやOGの背中をもっと押したらいいと思うのですが、いかがですか?

北岡:青年海外協力隊のOB、OGには大きな期待を寄せています。

2015年は青年海外協力隊が設立されて50周年という節目の年でした。2016年にはアジアのノーベル平和賞とも呼ばれるマグサイサイ賞を受賞しました。どんなところへも入り込んで、言葉や習慣を理解し、対象国の人々と対等な目線で活動し、草の根で国際協力のネットワークを広げ、成果を出してきたのが日本独自の青年海外協力隊。その長年の仕事ぶりを評価されてのことです。

ちなみにアフリカにも、50年前から派遣されています。青年海外協力隊の取り組みは、最初から世界の途上国の発展に寄与しよう、という高い目標を掲げてきた。素晴らしいことです。

今、人材の多様化ということが言われ、特に海外でビジネスを展開する企業にとって、海外で通用する人材は欠かせません。特に途上国でのビジネスにおいては、近代的な法制度が整っていなかったり、独自の習慣があったり、その土地の人でなければわからないさまざまなリスクがあったりします。そうした国でビジネスをするときにその土地特有の習慣を知っていると知らないとでは大きな違いがあります。

そこで青年海外協力隊にスポットライトが当たります。青年海外協力隊のOB、OGは、滞在していた国はもちろん、世界のあらゆる場所で、そしてもちろん日本国内でも、大きな力になるだけの多様な経験を積んでいます。

日本人が内向きになっていると言われるいまの時代、あえて海外へ出て途上国のために働くという立派な志を持っている若者たちには、その行動力だけでも太鼓判を押せます。だから、日本企業には、もっと青年海外協力隊OB、OGという人材に目を向けてほしいですね。

鮫島:私も、青年海外協力隊出身者は、これまで以上に日本の企業で活躍できると思っていますし、さらに、現地や日本で起業するという選択をする人が増えてくることを期待しています。私も関って、2016年3月に取りまとめられた提言「これからのJICAボランティア」にもその話が盛り込まれています。

北岡:JICAでは、「日本AFRICA起業支援イニシアチブ」のような、起業希望者を支援する他団体の先駆的な取り組みを、協力隊出身者に紹介しています。

先ほどもお話ししましたが、途上国の中には社会制度が整っておらず、それが理由で発展していないところもあります。今後は、日本の起業家が海外に進出する際の手助けもJICAのノウハウでできるようにしていきたいですね。

鮫島:私が起業するときにも、あったらよかった(笑)。

北岡:いえいえ、私としては、やはり鮫島さんのような、どんな困難も自分で乗り越えてやってやろうというタフでビジョナリーな起業家にやっぱり期待したいんですね。それはすでにある企業に対しても同じです。「困難もあるけれどここにチャンスがある」と思った人が、やっぱり海外でも花開く。JICAとしてはできる限りお手伝いする。アフリカにおいても同じです。日本企業の進出のお手伝いは最大限にするけれど、ビジネスはやはり公的機関のものではなく、あくまで当事者たる企業のもの。だから民間の皆さんに主体的にやっていただきたい、と思っています。

鮫島:日本からアフリカへ人を送り込む一方で、アフリカから人を受け入れるABEイニシアティブ(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ)でも、日本で学んだ新興国の若者が自国で起業して世界的な経済誌の表紙を飾るなど、成果を出してきていますね。ルワンダでも、たくさんの若者が日本でITの勉強をし、次々とITベンチャーを立ち上げている様を取材しました。

北岡:相互に人が行き来することで、日本とアフリカの間で双方向の理解がよりいっそう進むでしょう。今後は、アフリカからの留学生が日本企業で働く、というケースも増えていくはずです。私は2015年まで国際大学という、海外からの留学生が約8割を占める大学院大学の学長をしていました。修了生の中には、そのまま日本で就職をする留学生もかなり増えてきました。グローバル戦略をとっている企業にとっては、彼らはまさに即戦力になります。

「個性」が、アフリカの未来を変える

鮫島:最初に、理事長はアフリカも労働集約型産業からスタートして発展していくのがいいとおっしゃっていましたが、私も同感です。ただ、現在、AIやロボットが急速に発展しています。こういった技術が、アフリカの人たちから職を奪ってしまわないか、という心配もあります。労働集約型産業は、もしかすると最初にシンギュラリティのあおりを受ける可能性もありますから。

北岡:労働集約型産業から発展するのは鉄則ですが、一方で鮫島さんがおっしゃったように、AIの発展で人々の仕事そのものがなくなってしまう、という未来が盛んに語られるようになっています。また中国という巨大な生産工場の存在で、他の新興国が必ずしも価格競争力を持つことができない、というケースも増えています。

その意味では、教科書通りにいかないことが出てくるでしょうね。では、どうすればいいのか。それは、「個性的である」ということが重要になる、ということだと思うんです。

鮫島:個性的である?

北岡:ええ。個性が重要です。たとえば鮫島さんがつくっているバッグがそうではないですか? バッグ市場は歴史もありますし、無数のブランドがあらゆる価格帯に存在する。でも、鮫島さんは、エチオピアの最上のシープスキンを活用し、地元の職人を育て、「どこのブランドにも似ていない、オリジナルのバッグ」をつくり上げました。

鮫島:わ、最後に褒められました(笑)。

北岡:さらにIT分野でも、制約だらけの日本ではできないことが、まだルールそのものができあがっていないアフリカ諸国では可能、という分野がいくつもあります。今回取材いただいたルワンダは、ドローンを使った物流サービスの誘致を行って、2017年にはドローン専用空港が完成するかもしれません。TICAD Ⅵの開催地となったケニアは、世界的に有名になった携帯電話を利用した電子決済サービス、Mペサが、今や現金以上に利用されており、近隣国も採用するようになっています。規制でがんじがらめの日本では、技術はあっても、なかなかローンチできないビジネスです。

ならばむしろ、日本を飛び越えて、無限の可能性があるアフリカに、日本の若きベンチャー、起業家、技術者が飛び込んだら、先進国内では思いもつかない「個性的」なサービスがアフリカ発で生まれる可能性だって、あるのではないでしょうか?

鮫島:理事長にそこまでおっしゃっていただけると、ビジネスパーソンの皆さんも元気が出てくると思います。

北岡:JICAの仕事である国際協力も、「民間の力」がもはや絶対条件となっています。次回のTICAD Ⅶのときまでに「アフリカに進出しているのは日本企業の常識」になるよう、私たちも、さまざまな支援を行っていきたい、と思います。