ADVANCED INDUSTRIES 2017 イスラエルのテクノロジー最前線 セミナーレビュー 中東のシリコンバレー、イスラエル進出への第一歩

パネルディスカッション:日系グローバル企業との連携で相乗効果を生むイスラエルのイノベーション・エコシステム

イスラエルに実際に進出している日本企業にご登壇いただき、イスラエルに進出する魅力や投資の実情、日本とは真逆の国民性を持つイスラエル人との付き合い方など、リアルな実情をお話しいただいた。
モデレーター:日経BP社 日経BPビジョナリー経済研究所 上席研究員 酒井 耕一

大阪
村田製作所 新規事業推進部部長 谷野 能孝氏

村田製作所は新たな事業を創出したい、新たな技術を獲得したいと考え、2014年にイスラエルに事務所を開設しました。ハッカソン(ソフトウエア開発の技術者が集中的に開発作業を行うイベント)を2015年と2016年に1回ずつ開催しました。そして2016年12月に参加したスタートアップ企業との協業を開始しております。

ハッカソンに取り組んでいるのは、イスラエルにおいて知名度の高くない当社が、魅力的な技術を見つけるために有効な手段だと考えたからです。1回目は約30社、2回目は約50社からの応募があり、審査で10社に絞り込んだ上で2日間の日程でハッカソンを行いました。お題は最低1つ村田製作所の製品を使用することとシンプルにしました。2回とも優秀賞を獲得する企業が誕生しましたが、当社が賞品として2社に提供したのは日本への往復航空券と宿泊費、京都観光、当社トップマネジメントへのプレゼンテーションだけです。このプレゼンにより出資の判断がなされます。

よくシリコンバレーとの違いについて聞かれますが、イスラエルのスタートアップは概して事業化にかける意欲がより旺盛だと感じています。当然お金の話もしますが、より高く売って稼ぎたいというよりはイノベーションをなにがなんでも実現したいという熱意の方が強く感じられることが多い。これは投資する日本企業にとって魅力的な点だと思います。

Viber Media社 (楽天子会社) ジェネラルカウンセル 平戸 慎太郎氏

私は長年、楽天で海外企業の買収を担当しており、3年前からイスラエルに入って買収したバイバーの経営に携わっています。バイバーはイスラエル人4人で創業した会社で、旧ソ連の国を中心とした世界8億人のユーザーを抱えるSNSを提供しています。投資を決めたのは、イスラエルの企業だからというわけではなく、マーケティングコスト0で当時ユーザー6億人を獲得しているというプロダクトの良さに引かれたのが理由です。

なぜイスラエルからは、このバイバーのように革命的なプロダクトが出てくるのかを3年間の経験を踏まえて私なりに考察してみました。イスラエルのスタートアップの強みは「発想力」「突破力」「開発力」。既成概念や固定観念を破りたい、発想力で勝負したいという思いをひしひしと感じます。そして、失敗を恐れずリスクを考えずにとにかく先に進みます。壁にぶち当たったら、その時点で解決のアプローチを考えます。結果的に異常に速い開発スピードを実現します。そして、きちんと役割分担した低コストの開発を実現するのも特徴です。バイバーはコア部分の開発はイスラエルで行っていますが、マンパワーの必要なコーディングなどはベラルーシで行っています。ベラルーシは非常に優秀なエンジニアを安価で確保できる国ですが、英語が通じにくいという難点があります。ところが、イスラエルのエンジニアはおよそ3割がロシア語を話すため、ベラルーシのような旧ソ連の国に作業を外注することができ、効率的かつ安価な開発を実現しているのです。

イスラエルに入った当初は、非常に戸惑いました。イスラエルと日本の国民性は真逆といえます。イスラエル人はリスクを恐れずイエス・ノーを即座に言うのに対し、日本人は曖昧な返事をしながらリスクのない方向を模索したいと考えます。この違いは当然衝突やいざこざの原因となります。ところが、このような衝突がありながらも一定期間付き合っていると、日本人同士の付き合い方にも似た、非常に濃く人情的な関係を好む傾向にあることが分かってきました。信頼関係の下で長期に付き合っていく相手としては、互いにとても魅力的な存在ではないかと思います。日本人は日本的な暗黙の了解に甘んじることなく、徹底的にコミュニケーションに力を入れることで、よりよい人間関係を構築できるはずです。

サントリーグローバルイノベーションセンターStrategic Partnerships Officer Alexandre Nicolau(アレクスアンドル・ニコラウ)氏

私はサントリーグローバルイノベーションセンターにおいて、新興技術のインキュベーション、革新的なアイデアの探索、パートナーシップの構築を、30カ国を対象に行っています。私はシンガポールと日本のビジネススクールでMBAを取得しました。その際、イノベーションのプログラムに参加し、非常に感銘を受けました。なかでもイノベーションにおいて類いまれな実力を発揮するイスラエルは興味深い研究テーマとなりました。

イスラエルでは1人当たりの起業家の数が世界で最も多く、テクニオン大学では学生の30%以上が卒業前に起業または会社経営の経験を持っています。教育制度もしっかりしていて、テルアビブ大学、テクニオン大学、エルサレム大学といった名門校のほか、学会的にも魅力的な研究施設が数多くあります。大学は企業とも強いネットワークを構築しており、ベンチャー投資も極めて活発です。様々な産業界の人に容易につながることができ、とても活気のあるコミュニティーが形成されています。また、政府のサポートも手厚く、起業を支援するエコシステムも非常に活発です。

様々なイスラエル企業や研究開発の現場を訪れて感じたのは、世界を変える課題解決に貪欲な若い起業家が非常に多いということです。彼らはとてもクリエーティブで情熱にあふれています。物事を多角的に捉え、多様なアイデアを生み出すことができます。実行の速度が驚くほど速く、方向転換にも臆することはありません。実践から学ぶ能力にも長けています。会いたい人にコンタクトをとってすぐに会うことができます。治安が極めて良いというのも、物事に取り組むのに非常に魅力的な環境だと思います。

イスラエルは革新的なイノベーションを創出するカギとなる地域の一つです。ハイリスク・ハイリターンの文化があり、シーズを発展させる海外パートナーを求めています。イスラエルと日本は真逆のビジネスの文化を持っています。破壊的なイノベーションが持ち味のイスラエルと開発力と品質を誇る日本。この両国がコラボすることで、非常に効果的な相互補完が実現することでしょう。

東京
NTTドコモ・ベンチャーズ 三好 大介氏

NTTドコモ・ベンチャーズは3年前からイスラエルへの投資を積極的に行っています。これまで出資した3社のうち2社をご紹介します。1社目はSundaySkyで、1年半ほどかけてNTTドコモとどのような協業ができるかをPOC(概念実証)を回しながら検討した上で出資を決めた案件です。ユーザーデータを基にしたリアルタイムパーソナライズ動画配信サービスを提供し、顧客獲得前の広告から顧客維持、サポートまで各企業の顧客のライフサイクルに応じた動画配信を実現します。

もう1社はRiskifiedというサイバーセキュリティーの会社です。eコマースでのクレジットカードによる不正取引を分析し、正常と判断した取引が不正だった場合は、その被害額全額を弁済するチャージバック保証サービスを提供します。通常、この手のサービスはクレジットカードの不正利用を点数化してクライアント企業に伝えるという形でリスクを取ることはありませんが、Riskifiedは不正かどうかをイエス・ノーではっきり判断しリスクを取る点がユニークで、非常に勢いのある成長を遂げています。ハイリスク・ハイリターンという面でイスラエルらしい企業といえます。

SundaySkyは当社がLP(有限責任組合員)として参加している米国の大手ベンチャーキャピタルからの紹介です。当社はコーポレート・ベンチャーキャピタルなので、ファイナンス的にもうかるかどうか以上に、技術や事業がNTTグループで使えるかどうかを重視します。SundaySkyの価値を1年間のPOCで見極め、出資に至りました。

Riskifiedはそれとは正反対の事例といえます。年に数回イスラエルに1週間程度滞在し、その間20社ほどに会っていますが、Riskifiedはその探索の中で出合った企業です。2015年11月に会った後、翌年1月に「投資機会があるから1週間で返事ができるか?」という問い合わせを受けました。何の数字ももらっていなかったのでさすがに即答は避けましたが、追って入手した資料を吟味して2週間で出資を決めました。こちらの案件は投資を先に行い、グループを説得する形で進めました。米国で事業が飛躍的に成長しており、よい投資ができたと考えております。

日本企業はベンチャー企業と付き合う際に、技術やサービスを自社用にカスタマイズしてほしがる傾向にあると思います。しかし、イスラエル企業の多くは「これはこういうものだからそのまま使え」と主張します。このギャップを埋めなければ協業は成立しないので、両者が歩み寄るためのつなぎ役の存在が重要だと思います。

SBIホールディングス 海外事業部長 山口 智宏氏

SBIグループはイスラエルにおいてICTとライフサイエンス分野に積極的に投資・事業支援を実施しております。イスラエルの最有力ベンチャーキャピタルの1社であるVertex社と戦略提携を締結しました。ただし、当社がカバーできていないライフサイエンス分野をターゲットとし、同分野はVC(ベンチャーキャピタル)資金が不足しており、バリュエーションが低位に留まる一方で、2017年以降の展望が上向きと見られることから投資機会が存在すると考え、本プロジェクトを切り口として、Vertex社とは長期的により強い協業関係を構築する意向です。GP(無限責任組合員)としてヘルスITやバイオなどのライフサイエンス分野に投資するほか、VertexのICTファンドのLP(有限責任組合員)として優良ICT案件にもアクセスしています。また、イスラエル最大手製薬テバ・ファームに12年間従事したデービット・ベナミ氏をファンド・マネージャーに迎えてライフサイエンス分野のファンドを立ち上げ、主にメディカルデバイス、バイオファーマ、ヘルスIT等のバイオテクノロジーへの投資を行っています。しかしながら、メディカルデバイスについては、過去数年で買収・合併が続いており、将来的なバイヤー候補が限られるものと推測されます。現状はバイオファーマやヘルスITにフォーカスする方針です。メディカルデバイススタートアップにとっての唯一の望みはバリュエーションをやや考慮していない中華系投資家。一方で、バイオファーマ分野は、米トランプ次期大統領の薬価に関するコメントを考慮し、一つの大きな要因として法人税の引き下げが検討されていること、さらに元々非常に好調な業績を上げている製薬産業は、法人税引き下げによって、薬価の動向に関わらず、株価上昇の流れを汲むのではないかと思います。2017年にはIPOマーケットが復調するものと期待されております。

これまで、ファージ(バクテリアを食べるウイルス)技術を基にした独自治療法を開発するバイオ企業のほか、サイバー攻撃から自動車システムや社会インフラを保護するためのセキュリティーソリューションを開発するICT企業に投資・事業支援を行っております。イスラエルは軍事技術からサイバーセキュリティー技術が非常に発展しており、さらに今後はその技術を生かしてIoTへの進出も期待できます。そのような企業に積極投資を行い、共に成長したいと考えています。日本でも、ラグビ-W杯、東京オリンピックなどの国際的なイベントを控え、日本の関連産業でもその成長の可能性が高いでしょう。

ここ数カ月50社以上の会社に対してソーシング・スクリーニングを実施してきましたが、その成功のカギは有望性の高い外部資金募集を公式に行わない、希少な優良案件に現地ネットワークからアクセスできるかだと考えております。約20年前のシリコンバレーのように、現地にいかに入り込んでシーズを見つけられるかが、今、イスラエルでは問われていると思います。

最近はイスラエルのスタートアップの方のコミュニケーション能力が格段に上がっていると感じています。というのも、話す相手の観点にフレキシブルに合わせて話してくれるからです。イノベーションに関心が高く、欧米にビジネスを行う営業支援を行いたいなど様々な観点に合わせて的確なレベルの解説をしてもらえ、必要なパートナーを紹介してもらえるなど話が非常に早い。進出する日本企業は自社と異なる分野についてもイスラエル企業とのネットワーキング構築を意識しながらコミュニティーに入っていくと、現地での良好なネットワークを構築していくことができると考えております。

Viber Media社 (楽天子会社) ジェネラルカウンセル 平戸 慎太郎氏

楽天がバイバーを買収し、私が経営に入り込むことになりました。当時すでにCEOと仲良くなってはいたものの、「来るなら役割と責任を決めてから来い」と忠告を受けました。要は何をしに来るのかをはっきりさせろと言われたのです。これは後になって非常にイスラエルらしいエピソードだと思いました。当時日本側は、経営を見張るという意味でCOOやCSOといった役職での投入を考えていましたが、CEOは「ベンチャー企業でCOOとかCSOといっても具体性がなく存在意義がない」という意見でした。そこで、私が米国で弁護士をやっていたこともあり、ゼネラルカウンシル(法務顧問)という役織で参画することにしました。これが結果として功を奏しました。ゼネラルカウンシルは全ての契約書に目を通し、訴訟にも関わります。知財も労務も全て把握し、規制も理解します。つまり会社を網羅的に把握する立場にあったのです。加えて、末端から上まで法律の相談に来るので会社の隅々までコミュニケーションを取ることができ、あらゆる経営判断において法律的にアウトという理由でストップをかけることも可能なので、経営に入るのに好都合な役職だったのです。とりわけイスラエル企業のように強い意思決定を求められる企業においては、ゼネラルカウンシルやCFOといった役職をうまく利用するのは有効な手立てだといえます。

シリコンバレーと比較した考察を紹介したいと思います。現在、シリコンバレーの企業の相場は非常に高く、我々が買収額をエンジニア数で割るという分析を行ったところ、イスラエル企業の倍程度に推移しています。そう考えると、イスラエル企業はかなり安価に買収できるともいえます。また、現地の弁護士の費用も米国の6割程度に抑えることができ、トランザクションのコストを低く抑えられるのも魅力です。そして、イスラエルの人々は深く付き合うと非常に人情味にあふれ、日本人との相性も実は良好であると感じています。これらはイスラエルならではのメリットです。

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お問い合わせ先:イスラエル大使館 経済部
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