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~転職ありきは失敗のもと!?~ ヘッドハンターと二人三脚で歩むキャリアの切り拓き方

転職市場が活況だ。企業の業績改善に伴い、求人コストを掛けられるようになったことが大きな要因の一つである。以前は「35歳の壁」などと言われていたが、最近では、若年層はもちろん、マネジメントができるミドル層リーダークラスの需要も多いという。また、異業種間での転職が増えているのも特徴だ。例えば、大手企業であれば、成長領域として新たに参入する新規事業の経験者。ベンチャー企業や中小企業では、会社の経営を担うエグゼクティブ層の人材が求められている。グローバル展開が活発な企業では、現地で活躍できる人材のニーズも高いという。そんな状況で存在感を増してきているのが「ヘッドハンター」の存在。といっても、いきなり職場に電話がかかってきて、ホテルのバーで秘密裏に話が進むといった、一般的に想像される前時代的な「ヘッドハンター」ではない。今は、将来有望な若手やエグゼクティブ層が「ヘッドハンター」を活用した転職でキャリアアップをしているのだ。その実態を現役のヘッドハンターに語ってもらった。

転職前に相談を受けて、キャリアの棚卸しを手伝う

「ヘッドハンター自体、まだ日本では定着していないかもしれません。有り体に言えば、いいイメージを持っていない方もいるでしょう」と教えてくれたのは、ハイクラス・エグゼクティブ限定の転職支援サイト「CAREER CARVER(キャリアカーバー)」でヘッドハンターを務める織田直子氏だ。織田氏曰く「これまでのヘッドハンティングは、エグゼクティブクラスの人材を一本釣りで引き抜く手法が多かった」という。

「企業側が採用したい個人を指定し、その方をヘッドハンティングするやり方です。しかしこれでは、転職する瞬間だけのお付き合いとなります。一方、私たちが目指すヘッドハンティングは、企業から依頼を受けるだけではありませんし、転職ありきでもありません。転職希望者から依頼があれば、その方のキャリアの強みや志向性を整理して、フィットする企業やポジションを打診することで見つけてくることもあります。つまり、“転職前”に、転職が必要かどうかも含めて相談を受けるのが最も大事な仕事なのです。もし、今現在、所属している会社がベストだと判断すれば、転職はすすめません」

スキルの棚卸しといっても、職務経歴書をもとに、通り一遍の話を聞くだけではない。重要なのはその先にあるという。

「これまでに経験した業務に関するヒアリングはもちろんですが、それ以上に大切にしているのが仕事にまつわる具体的なエピソードを深掘りすること。プロジェクトに携わったときにどう感じたのか、どういった理由で判断を下したのかなどを言語化することで、その方のパーソナリティをあぶり出します。転職して活躍するには、経歴としてのスキルだけでなく、いわゆる人間力の部分も重要だからです」

この棚卸しは、一度ではなく何度も機会を設けて行うという。

「世の中の動きが早いので、現状ではどのようなスキルを積めば社会的にニーズの高い人材になれるのかを定期的にアドバイスさせてもらっています。また、頻繁に情報交換しておけば、依頼者にとってさらなるキャリアアップができそうな会社やプロジェクトが見つかったときに、速やかにご紹介できるメリットもあります」と織田氏は語る。

株式会社リクルートキャリア

織田 直子

大学卒業後、大手独立系SIerに入社。ERPコンサルタントとして製造業向けSAP R/3導入の大規模プロジェクトで会計領域を担当した後、リクルートキャリアに転職。監査法人、生損保などの法人営業を経験後、ハイキャリア層のサーチ部門に異動してからは、IT、コンサルティング業界を担当。転職支援に従事し、幅広い業界、職種、ポジションで、多数の実績がある。

IoTやAIの普及で異業種間の転職も増加

織田氏のような新しい形のヘッドハンターが生まれている背景の一つに、転職市場の活性化がある。その活性化を支えているトピックスとして挙げられるのが、異業種間転職とハイクラス・エグゼクティブ層求人の増加だ。

「既存のメインビジネスとは別に新たな成長領域を事業開発している大手企業は少なくありません。そこで増えているのが、異業種間の転職です。例えば、最近話題になっているIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を本格的に投資領域として検討している製造業では、コンサルティングやIT業界からの転職も増えているという印象です。また、AI等の新技術を活用して自動運転や高度運転技術を研究している自動車業界には、家電ハイテクメーカーやIT業界からの転職事例などが目立ちます」

エグゼクティブ層の求人では、業務拡大や新規事業開発を進めているベンチャー企業、後継者を求めている中小企業が、経営を任せられる人材を求めているという。

「企業側はさまざまな人材を求めているのですが、その要望に気がついていらっしゃらない方は多いですね。IT関連の会社に勤めているから転職先もIT業界で探しているという相談もありますが、そういった方に異業種の提案をするとそんな選択肢があるのかと驚かれますが、一気に視野が広がります。かつ異業種に転職することで、スキルや経験は掛け算されていきます。多様性のあるキャリアを持っていれば、それが強みとなって、より多くの会社から必要とされる人材になれるのです」

転職求人倍率の推移
〈一般職業紹介状況 有効求人倍率〉

転職求人倍率推移 2014年から緩やかに増加している

※出典:厚生労働省『一般職業紹介状況 有効求人倍率(新規学卒者およびパートタイムを除く)』をもとに作成

自分がやりたい“仕事”に明確な動機を持つ

スキルの掛け算ができると、いい会社に転職ができる。そう理解をしたところ、織田氏から「漠然といい会社に転職をしたいと思っている方は、失敗する可能性が高い」と釘を刺された。

「しっかりとキャリアを重ねていける方は、知名度がある、給料がいいなどの理由で会社を選ぶのではなく、自分がやりたい仕事に明確な“動機”を持って会社を選んでいます。私はこれまで、会社の指示を受けて義務感だけで働き、自分が働く動機がついてこなくて、結果として行き詰まってしまった方をたくさん見てきました。真面目な方ほど、追い詰められてから初めて転職を視野に入れて相談に訪れる。しかし本来は、自分が積み重ねているキャリアと仕事をする動機を常に意識するべきです」

そこで重要になるのが、“第三者の目”だ。

「キャリアを重ねていける方は、自分が所属している会社だけではなく、プライベートや異業種交流なども含めて、複数のコミュニティーに活動の場を置いています。そこで自分がどういった人間で、どのようなことをやりたいかをアウトプットすれば、おのずと必要な情報が集まり、自分を必要とする人と関係がつながっていく可能性も高くなります」

会社外のコミュニティーでさまざまな人と触れ合うことは、自分の市場価値を客観的な目で捉えることにもつながるという。

しっかりキャリアを積み上げていける人の特徴

仕事に対する動機が明確。複数のコミュニティーに参加し、自然に情報収集ができる。自分の市場価値や立ち位置を客観視できる

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