インクジェット印刷が、いま急拡大している。家庭用が主流だったインクジェットプリンターがオフィスでも活用されるようになった、といった話ではない。もちろん、インクジェット印刷の品質が向上し、コストパフォーマンスが高まったことからオフィス需要が急増しているのは事実だが、それだけではない。いまやインクジェット印刷は、紙だけでなく、樹脂や布はもとより、壁紙やタイルなどの建材、さらには食品にまで活用されている。その最前線を紹介する。

従来印刷と言えば、版を作成し大量に刷るものであった。もちろん、大量印刷にはいまでもそれが最も安く効果的だ。しかし、現在の市場が求めるのは、多品種少量生産の製品。特に、こだわりの特注品を求める層は、ありきたりのものでは満足しない。

この高付加価値の多品種少量生産に適した印刷方法が、インクジェットである。たとえば、街頭や駅頭などで見かける巨大なポスターやラッピングバス・電車。これらは数こそ少ないが、印象的に見せたい印刷として産業用インクジェットが採用されている。

レースカーやイベントカー、宣伝車両に活用されるカーラッピング。

路線バスの車体広告や鉄道車両のイベント用ラッピングにも採用されている。

印刷できる素材の多様さは驚くべきもので、布や樹脂はもちろん、タイルや壁紙などの建材、金属、ガラス、さらには食品まで、実に多彩なものへの印刷が可能となっている。なぜそのようなことが可能なのか。従来の印刷は、版と印刷面が版画のように接触している。そのため、印刷面が平坦でなければきれいに印刷できない。しかしインクジェット印刷の場合、インクを吐出するノズルと印刷面が離れている。そのため、従来の印刷のような制限がなく、さまざまなメディアに印刷が可能なのだ。

インクジェット方式の3Dプリントを活用した人工骨の成形は、着実に研究が進んでいる。

色彩の再現性の高さも、インクジェット印刷が活用される理由の1つ。デジタルカメラで撮影した写真の印刷の多くにインクジェットプリンターが利用されているように、微妙な色調のハーフトーンやグラデーションも美しく再現できる品質の高さにも定評がある。

このような特性を活かし応用分野はさらに拡大している。絵画の修復や筆致まで再現する本物そっくりの複製といった美術分野や、導電性インクを活用した電子回路基板などエレクトロニクス分野での応用も進む。さらには人工皮膚や人工骨といった再生医療でも、今後応用が期待され、研究が進んでいる。

インクジェット印刷の最大の魅力は、小ロットへの対応力の高さだろう。たとえば、壁紙。従来工法の壁紙の最小ロットは約5000メートルにもなり、壁紙メーカーが全国の営業網を駆使して販売しなければ、とてもさばけない量である。しかも、大量販売が基本なので、柄も無難なものに傾きがち。グラデーションを美しく表現することが難しく、コストを考えると色数にも制限があるため、単純な模様のリピート柄がほとんどだ。

ところが、インクジェット印刷なら1枚から印刷が可能。壁紙の幅に合わせて1枚ずつ分割して印刷し、施工の際に貼り合わせることによって、大きなポスターを作るように壁全体で1枚の絵や写真を作成することもできる。色の再現性も高いので、出力環境さえ整えば、自分で撮影した美しい風景を自室の壁に再現するといったことも、もはや夢ではない。

壁一面が熱帯魚の泳ぐ海といった夢のような空間も、既に不可能ではない。

また、建築分野では分業体制が確立されているが、インクジェット印刷を利用することで、自社で素材から装飾・加飾まで一貫生産の道が開ける。必要な量を、必要な時に生産できるようになるので、廃棄量を大幅に削減可能。個々の単価は下がらなくても、プロセス全体でのコストダウンが見込める。

テキスタイル分野でも、多品種少量生産は進んでいる。たとえば、最近プロ野球のユニフォームの種類が妙に増えていると感じたことはないだろうか。従来はホーム用とビジター用の2種類だけだったのが、最近は選手たちが幾種類ものデザインの異なるユニフォームを着ている。あれも、選手ごとに異なる背番号が入ったユニフォームを、インクジェット印刷で手軽に作成できるようになったからこそ可能になったのだ。さらに、目まぐるしく流行が変わるファストファッションはもちろん、高級ブランドのスカーフでも採用されているという。

各種ユニフォーム、Tシャツ、スカーフなどのテキスタイル分野にも、インクジェット印刷が活躍している。

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