vol.3

自信を持って故郷を愛する心と、尊厳と誇りを持って働ける環境づくりが鍵

イタリア中部ウンブリア州の州都ペルージャに近い小村ソロメオに本社を置いて世界を相手にビジネスを展開し、多数の雇用を生み出すとともに、職人技術の継承、地域の文化や景観の再生に取り組むブルネロ クチネリ社の取り組みに、「地方創生」のヒントを学ぶ「東北発!未来創生プロジェクト」。
その締めくくりとして一般社団法人東北経済連合会は、8月30日に仙台で開催した創立50周年記念「未来創生シンポジウム in 仙台 Pride & Happiness ~イタリアの地方創生から探る東北の未来」の基調講演のスピーカーに、ブルネロ クチネリ社の会長兼CEO、ブルネロ・クチネリ氏を招いた。
気象庁の観測史上初めて台風が東北地方を直撃するという最悪の天候の中での開催だったにもかかわらず、会場となった仙台市青葉区の電力ホールは、クチネリ氏の講演を聴くために集まった約600人の聴衆の熱気に包まれた。

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当日は台風に見舞われたにもかかわらず、シンポジウム会場となった電力ホールはクチネリ氏の講演を聴くために集まった多くの聴衆の熱気に包まれた

 シンポジウムはまず、8月24日にイタリア中部を襲った直下型地震の犠牲者の方々に1分間の黙とうをささげることから始まった。

 次に挨拶に立った東北経済連合会の海輪誠会長は、「もともと東北地域は人口減少、少子高齢化など様々な課題を抱えていたが、先の震災によりそうした課題が一段と深刻さを増した。課題先進地域とも言える東北において、今後の復興に当たっては、単に震災前に戻すということではなく、様々な課題を克服した新しい東北の姿を示すことが何よりも重要だ。地域の未来を創造していく主役の若者たちが魅力を感じ、ぜひここで働きたいと思ってくれる地域や職場を東北が一丸となって今から作っていかなければならない」と強調した。そして、「イタリアの地方の小村ソロメオに本社を置きながらイタリアのラグジュアリーブランドとして世界的な成功を収め、同時に村の再生や職人技術の継承に取り組み、地域の発展に大きく貢献しているクチネリ会長の取り組みが、東北が震災から復興を成し遂げ、輝かしい未来を創造していくうえで、多くの示唆を与えてくれるものと考えている」と期待感を示した。

人間は目的実現のための手段にされてはならない

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クチネリ氏は基調講演の中で、郷土への愛情を持ち、人間の尊厳を大事にする姿勢が重要だと繰り返し強調した

 「ブルネロ・クチネリ氏の理念と実践~人間の尊厳とより善き社会の実現」というテーマで基調講演の壇上に立ったブルネロ・クチネリ氏は、「日本という素晴らしい国にお招きいただき、本当にありがとうございます」という言葉を皮切りに講演をスタートさせた。なぜ「素晴らしい」という言葉を使ったのか。クチネリ氏は「5年半前に東北地域を襲った大震災の時、日本の皆さんが示した規律ある態度、犠牲者とその家族への敬意、長時間不眠不休で仕事をした後で多くの人を救助することができず、国民の皆さんに申し訳ないと言って深々と頭を下げた消防士の立派な姿が頭から離れない。日本は特別な国なのだ」と説明した。

 次にクチネリ氏は自身の半生について振り返った。人生の最初の15年間は電気も水道も無い田舎で農家の息子として暮らし、その時期に節度を持って生活することを学んだ。クチネリ氏が15歳になったとき、一家は田舎を離れて町に出た。父親が工場で働き始めたからだ。工場で働き始めた父親は決して幸福そうではなかった。クチネリ少年は、工場での重労働を終えて毎晩疲れた顔をして帰ってくる父親の姿に、農夫として仕事をしていたときとは明らかに違う、人間性がおとしめられた者の苦悩を見いだした。人が人をおとしめることは決してあってはならないと感じたという。
 15歳から22歳まではバール(イタリアの居酒屋)に入り浸った。バールでは哲学や宗教、経済など様々なことを毎晩語り合ったという。父親の姿を見て労働の在り方に疑問を抱き、内省を深めたことが哲学に興味を持つきっかけとなった。クチネリ氏の人生観や経営姿勢には古代からの哲学や倫理学が色濃く反映されているが、この時期にその下地が養われ、後にクチネリ氏の経営哲学「人間主義的資本主義」に結実したと言える。
 クチネリ氏は続いて、ソロメオの村の入り口にも掲げているドイツの近代哲学者カントの言葉を引用し、「人生の最終目標は、人間を、人格を尊重することにある」と強調した。
 「人間性というものについて考えて行動してください。自分自身に対してもそうだし、周りの人々に対しても同じです。人間には尊厳があります。人間をただの手段として扱ってはいけません」
 さらにクチネリ氏は、フランスの啓蒙思想家ジャン・ジャック・ルソーの言葉を引用しながら地方の生活の豊かさについて語った。「田舎の生活においては元来、精神の貧しさというものはありません。人々がお互いに尊重し合い、孤独になることもありません」。そして、こう問いかけた。「人間が創造性を発揮するのはどういうときでしょう。宇宙が生み出したすべてのものがきちんとした状態にあるときに人間は創造性を発揮することができるのです」。そして、そのような状態が自然豊かな田舎の空間の中にはいたるところにあり、もし「私たちの商品が大都市の近くの大きな工場で製造されていたとしたら、今のような魅力は醸せなかったはずです」と言葉を続けた。
 クチネリ氏が多くの哲学者や思想家の言葉を引用しながら講演の中で繰り返し強調したのは、人間の尊厳を守ることの重要性、自分が生まれ育った故郷に誇りを持ち、祖先が培ってきた歴史や文化を保存・継承し、再生させることの重要性だ。
 クチネリ社の製品の魅力の源泉はイタリア・ウンブリア州の自然と文化であり、地域に伝承されてきた職人の手仕事が製品の競争力の源となっていることを誰よりも強く意識しているからだ。
 最後にクチネリ氏は、故郷に対する愛情を持ち、地域の歴史や文化に誇りを持つ若者が増えることで、東北の地から世界に向けて展開する企業が数多く生まれることを期待していると話を結んだ。

お問い合わせ先 一般社団法人東北経済連合会 TEL 022-799-2104
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