地方だからこそ奥の深いストーリーが描ける

 第2部のパネルディスカッションは、グロービス経営大学院学長の堀義人氏をモデレーターに、自著の中でクチネリ氏の特色ある企業経営について取り上げたモバイルクルーズ株式会社代表取締役の安西洋之氏、クチネリ社を記事で取り上げ、ソロメオ職人学校での東北の若手人材研修にも同行した(株)コンシリウム代表取締役の勝尾岳彦氏に加え、東北の若手企業経営者の代表として(株)気仙沼ニッティング代表取締役社長の御手洗瑞子氏、(株)セッショナブル代表取締役の梶屋陽介氏が参加。基調講演に引き続き、ブルネロ・クチネリ氏も加わって、「Pride & Happiness ~イタリアの地方創生から探る東北の未来」というテーマの下に進められた。

03

パネルディスカッションにはクチネリ氏のほか、東北の若手経営者2人など合計5人のパネラーが参加した

 一人5分間のパネラーとモデレーターの自己紹介と、昨年11月に実施した東北の若者のイタリア研修の様子を収めた映像を上映した後、モデレーターの堀氏はまずクチネリ氏がどうして事業に成功し、故郷の再生にも成功したのか、どうしてゼロからスタートしてここまでこられたのか、その成功の秘訣を聞きたいと切り出した。

04

モデレーターを務めたグロービス経営大学院学長の堀義人氏。東北復興のためにはリーダーとなる人材が必要と考え、東京、大阪、名古屋、福岡に加え、仙台にもグロービス経営大学院を開校した

 これに対してクチネリ氏は、成功の秘訣のようなものは「正直に言って何も特別なものはないが、まず人を褒めること、そして自分の仕事に自信を持つこと、それぞれの人が行っている仕事に対して尊敬の念を持つことが重要だ」と答えた。

05

基調講演に続き、パネルディスカッションにも参加したクチネリ氏。「私たちは今、消費が衰退している時代に生きているが、きちんと手づくりされて価値があるものには十分にチャンスがある」と語った

 安西氏は、「イタリアには『アルティジャナーレ』という言葉があり、イタリアルネッサンス期の工房の文化を指す。日本語では職人文化と訳されることが多いが、誰が、どこで、何を作るかが重要で、それを高く評価する文化がある。必ずしも日本の職人仕事から連想されるような限定された小規模生産ということではなくて、プロデューサーがいて手仕事であってもある程度の規模の生産を行う、そういうところからブランドというものが生まれる。そういう文化的な背景にあったので成功できたのではないか」と分析した。

06

イタリア在住のビジネスプランナー、安西洋之氏は、著書『世界の伸びている中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』でブルネロ クチネリ社を取り上げた

 次に発言した勝尾氏は、「イタリアといえどもここ30年くらいは職人の地位が低下し、後継者も育ちにくい環境があった。だが、クチネリ氏は基調講演の中で何度も触れられたように、彼らの仕事に敬意を払い、その仕事の価値に見合う対価を払う構造を作ったことで、周りがサポートしてくれたと思う。さらに、クチネリ社が本社を置いた地域は昔からニット職人が集積していたところであり、ただ今、安西さんがおっしゃったように場所がよかった。そこにクチネリさんという優れたプロデューサーが出てきて、好循環が作れたのではないか」と解説した。

07

元日経デザイン編集長の勝尾氏は日経BP社在職中にブルネロ クチネリ社を記事に取り上げ、昨年11月の東北の若者たちによるソロメオ学校での研修にも同行した

 勝尾氏の発言に対してクチネリ氏は、「過去30年ほど、イタリアのみならずヨーロッパ全土において、ある種の仕事からモラルや尊厳、経済的豊かさなどが奪われてしまったという経緯があります。私がやろうとしているのは、そういう仕事にモラルと尊厳、経済的な豊かさを取り戻すことです。私の会社の場合、手作業をする人には一般の社員よりも20%ほど高い給料を支払っています。それはつまり彼らがより高いレベルの仕事、尊敬される仕事をしていることを意味しているのです」と補足した。

 続いて堀氏は御手洗氏に、「恵まれた環境の中で質の高い製品を素晴らしい材料を使って作るとしても、値段が高ければ売るのは難しいと思う。この点に関して御手洗さんは何かクチネリさんに質問を考えていたと思いますが?」と水を向けた。

 御手洗氏は、「ブルネロ クチネリというブランドは単に働く人を幸せにしているだけではなく、お客様も幸せにしているのではないか。だから買ってくれる人がいて、ビジネスが成り立っている。今、日本では地方創生が課題だが、その取り組みがなかなかうまくいかないのは、自分たちのことだけを考え、お客様のことを考えていない商品を作ってしまうからだと思う。これに対して何かアドバイスをいただけますか?」とクチネリ氏に質問を投げかけた。

 クチネリ氏の答えは次のようなものだ。「私たちが生きている今日は、総じて消費自体が衰退しつつある時代だと私は考えています。ただし、きちんと手づくりされているもの、すぐにそれと分かるもの、手づくりされることにより価値が高まるもの、そういう製品は十分にチャンスがあると思います。今、人類にとって大事なのは、過去に自分たちが行ってきたことをもう一度掘り起こすことなのです」。

08

東北の被災地は沿岸部が多く、もともとフィッシャーマンズセーターや魚網を「編む」伝統があった。御手洗氏はその資産を生かしながら、日々の暮らしを復興するために何ができるかを考え、高級な手編みのニット製品を生産・販売する気仙沼ニッティングを立ち上げた

09

気仙沼ニッティングがバーニーズニューヨークとコラボレーションして生まれた新製品。9月からバーニーズニューヨーク六本木店ほかで展開している。
http://www.knitting.co.jp/s/store/barneys/

お問い合わせ先 一般社団法人東北経済連合会 TEL 022-799-2104