「ポスト2020年」も進化を遂げる東京とそれを支える首都近郊エリアの可能性

インフラ整備は、ハードとソフトを組み合わせて考える

 そうした機能的な都市計画において、東京の一歩先を行くのがシンガポールだ。多数のグローバル企業がアジアのリージョナル・ヘッドクォーター(地域統括会社)を置くシンガポールは、海外のビジネスパーソンやその家族が暮らしやすく、ビジネスもしやすい環境を整えている。より多くのヒト・モノ・カネを世界から引き寄せることによって、アジアの国際都市としての地位を確固たるものにした。高橋氏は「東京がアジアの国際都市としての競争力を高めるには、ライバルであるシンガポールをいかにしのぐかが大きなカギを握りそうです」と語る。

 シンガポールでは、例えば道路交通管制におけるAIとIoTの活用がかなり進んでいる。「道路ごとに設置されたカメラやセンサーによって渋滞状況を把握し、混雑している有料道路はすぐさま料金を引き上げて通行量を減らすなど、非常に先端的な方法で道路交通をコントロールしています」(高橋氏)。

 インフラの開発や更新は、ハードの面が注目されやすいが、ソフトも巧みに組み合わせたマネジメントが求められていると言えそうだ。

「その点、新たに更新していく必要があるとはいえ、ハードとしての東京の交通インフラは世界でも類を見ないほど整備されており、特に地下鉄など鉄道路線の充実ぶりはアジアでも群を抜いています。それだけでなく、日本が得意の最先端のソフトをうまく組み合わせれば、それだけでも効率的な街づくりはかなり進むはずです」と高橋氏は語る。

ヒト・モノ・プロセスがこれまでになく、広範囲・高密度でつながり新たな価値を生み出す

IoTで収集された道路状況などのデータを、AIによってビッグデータ解析。その結果に基づいて渋滞緩和などをコントロールする。シンガポールではすでに、そうした先進的な交通制御が当たり前に行われている。

バリアフリーの発想で「万人にやさしい街づくり」を
高橋氏

 ソフトの整備を考慮すべきことは、訪日客が利用するインフラについても同様である。例えば駅の案内表示。どんなに便利な鉄道網が整備された都市であると言っても、行き先や利用案内などの外国語表示が不十分では、訪日客には使いにくい。

 近年は、鉄道各社の努力によって案内表示の多言語化は一定程度進んでいるが、それでもアジアの他の都市と比べると、追い付いていないのが東京の実情だ。

「多言語対応だけでなく、よく言われるように東京では外国人が使える無料Wi-Fiスポットの整備もまだまだ不十分ですし、訪日客向けの医療体制もあまり整っていません。政府は2020年の訪日客数を昨年の約2倍の4000万人にする目標を掲げていますが、客数が増えれば、おのずと風邪をひいたりケガをしたりする人の数も増えるわけです。快適な旅を楽しんで、『また日本に来たい』と思ってもらえるようにするためには、そうした訪日客にとってのハードルを一つひとつ取り除いていく努力が求められるのです」(高橋氏)

 快適で便利な都市生活を実現するうえで、バリアフリー化の取り組みは不可欠だが、日本では、高齢者や身障者を意識しがちで、「訪日客のため」という視点は欠けているようだ。

「インバウンドを積極的に受け入れている先進的な都市の中には、飛行機を降りて荷物を受け取り、電車やバスに乗って街中に入るまで、重いトランクを持ち上げて階段を上り下りする、といった上下運動がほとんどない街も数多くあります。残念ながら日本の空港や駅には、階段や段差を越えなければ進めない場所が少なくありません」(高橋氏)

 階段や段差の解消は、高齢者や身障者にとってももちろんありがたいこと。ダイバーシティ(多様性)の受容は国際都市に求められる絶対条件だと言えるが、「あらゆる人に優しい街づくり」を目指せば、おのずと東京に対する評価も高まるに違いない。

高齢化対応の一つとして東京と首都近郊の役割分担が重要となる

 もう一つ、多様性への対応が求められている東京に欠けているのは、「増加する高齢者にどうやって十分な公共サービスを提供していくかという視点です」と高橋氏は語る。

「東京が抱える高齢化問題は、地方の高齢化問題とは性質が異なります。地方では人口に占める高齢者の割合が拡大しているのに対し、東京では今後、高齢者の人数自体が急速に増えていくのです。現在でも都内の医療・介護施設などの受け皿は十分とは言えませんが、高齢人口の増加によって税収が伸び悩み、社会保障負担が増えれば、国や都の財政ではとても賄いきれなくなり、高齢世代向けばかりでなく、現役世代向けの公共サービスの質がさらに低下していくことが懸念されます」(高橋氏)

 東京が国際都市としての競争力を高めることは、進出してくるグローバル企業や海外人材からの税収を増やし、公共サービスの質を維持していくことにも結び付く。

 だが、外向けの対応だけでなく、“高齢者の増加”という差し迫った課題を抜本的に解決していかなければ、「東京がアジア屈指の経済力や活力を保持し続けていくことは難しい」と高橋氏は指摘する。

 そこで高橋氏が提唱するのは、東京だけでなく、その近郊エリアも含めた広範囲の受け皿づくりだ。

「都心での受け皿の余地は少ない中、首都近郊エリアの新たな街では、例えば千葉ニュータウンやつくばエクスプレス沿線など、都心で働く人々や働いていた人々の新たなコミュニティーが数多く形成されつつあります。高齢者だけでなく、その子どもや孫など、家族ぐるみで都内から移り住む人も増えているようです。そうした首都近郊の新たな街と上手に役割分担をしながら、東京の魅力を支えていくことも一つの解決策だと言えます」(高橋氏)

一般会計歳出の主要経費の推移

高齢化を背景として、年々増加する社会保障給付費は社会保険料だけでは賄えず、次世代の負担である借金によって賄われてきている。高橋氏が言うようにさらに負担が増えると、公共サービスの質がさらに低下していくことが懸念されるのだ。