「ポスト2020年」も進化を遂げる東京とそれを支える首都近郊エリアの可能性

新たなコミュニティーづくりに動き出す首都近郊の街
高橋氏

 首都近郊にはさまざまな街があるが、その中には、「ポスト2020年」にますます深刻化するであろう東京の高齢化問題を見据えて、新たなコミュティーの場づくりに動き出している街も少なくない。

 高橋氏が一例として挙げるのは、千葉県柏市の「豊四季台」地域における長寿社会の街づくりだ。

 これは、古いもので築50年以上経過した「豊四季台団地」を再生し、地域包括ケアシステムの整備や、高齢者に生きがいをもたらす就労の創成などを通じて「いつまでも在宅で安心して生活ができるまち」「いつまでも元気で活躍できるまち」の形成を目指すプロジェクト。柏市、東京大学高齢社会総合研究機構、UR都市機構の三者が取り組んでいる。

「まだ実験段階ですが、豊四季台団地には高齢者が働ける野菜工場を造る計画もあります。お年寄りの中には、野菜づくりなどで生活収入の補填や社会参加をしたいという方も大勢いらっしゃいますが、腰を曲げたり、かがんだりする作業は難しい。でも野菜工場なら、立ったままや座ったままでも作業ができる。そういうことまで考えて街づくりを進めている市区町村も首都近郊には存在するのです」(高橋氏)

 高齢者が住みやすい街になれば、多様化への対応が進むので、おのずと現役世代も集まりやすくなる。子どもや孫たちも寄り添って、活力と温もりのあるコミュニティーが形成されるはずだ。

 高橋氏は「首都近郊のベッドタウンの中には、階段が多く高齢者の住みにくい街や、交通が不便な街などもあって、新たなコミュニティーを形成する取り組みにも二極化が進行しつつあります。しかし、地の利が悪くても知恵を絞れば打開策が見つかるものです。各地方自治体の本気度や行政手腕が試されているのではないでしょうか」と語る。

豊四季台(千葉県柏市)団地再生プロジェクト概念図

豊四季台(千葉県柏市)団地再生プロジェクトの概念図。「いつまでも在宅で安心した生活が送れるまち」「いつでも元気で活躍できるまち」の形成を目指している。

リーダーシップを発揮し、知恵を絞って強みを生かすことが大切

 首都近郊エリアの街が新たなコミュニティーづくりを実現するためには、「首長などの強いリーダーシップが不可欠です」と高橋氏は指摘する。

「それによって実際に変わり始めた街の典型が千葉県流山市です。市長の強いリーダーシップの下で『都心からいちばん近い森のまち』『母になるなら流山市』というキャッチフレーズを打ち出し、子育て世代を呼び込むことに力を入れています。流山はもともと森が多く、子どもを自然に恵まれた環境の下で育てたいお母さんには願ってもない場所ですし、さらに子育て支援を手厚くすることによって、より多くの子育て世代を迎え入れようとしているわけです。自分たちの街の強みを生かしながら、知恵を絞って新たなコミュニティーづくりを成功させた代表例と言えるでしょう」(高橋氏)

 流山市には、都心まで30分足らずで通勤できるつくばエクスプレスの駅が3つもある。そのうちの一つ、『流山おおたかの森駅』の周辺は、UR都市機構が沿線に7ヵ所ある「つくばエクスプレスタウン」の一つとして街づくりを行っているエリアだ。通勤に便利な立地であることも、流山市にとって子育て世代を迎え入れるための大きな強みだった。

「つくばエクスプレス沿線も含め、千葉県のいくつかの街では新たなコミュニティーづくりに積極的に取り組もうとしている動きが目立ちます。全国的にも住みやすさの評価の高い街があるなど、『千葉はずいぶん変わってきたな』という印象を強く持つようになりました」(高橋氏)

 UR都市機構は、つくばエクスプレス沿線や、同じく都心からのアクセスがよい千葉ニュータウンなどで「住む」「働く」「学ぶ」「憩う」などの機能を集約した街づくりを進めている。良好な住宅用地と業務用地の供給によって、千葉県北部に複数の中核都市を形成することを目指しているという。

 その取り組みの効果が表れているのが、東洋経済が全国813都市を対象に実施している「住みよさランキング2016」。千葉ニュータウンのエリアを域内に持つ印西市が、5年連続1位を獲得しているのだ。調査結果によると、住みやすい街の象徴でもある「利便度」や「快適度」「富裕度」が上位にランクインしているのが理由となっている。

 さらに、千葉ニュータウンは、成田空港とのアクセスもよく、医療ツーリズムやリゾート産業といった訪日客向けサービスの展開が可能といったこともあり、利便性が高い。新たなコミュニティーの受け皿としてだけでなく、ますます国際化する東京のビジネスを役割分担する場としてのニーズも高まりそうだ。

雇用が期待できる世帯の割合

千葉ニュータウンにある印西市は約1万8000世帯、約5万9000人の現役世代が居住。進出する企業が雇用を確保しやすい環境が整っているのも魅力だ。

民間との連携で長期的視野に立った都市づくり、街づくりを
高橋氏

 東京が国際都市としての機能や魅力を高めることも、その支援役として首都近郊エリアが新たな街づくりを推進していく取り組みも、3年や5年といった短いスパンで成就するものではない。2020年のビッグイベントが目の前に迫っていることで、短期的な時間軸のみにとらわれようとしているが、高橋氏は「都市機能の強化や街づくりは長期的な視点で取り組むべきもの。しかも、既存インフラの老朽化や少子高齢化がどんどん進んでいくことを考えれば、それは終わりのない取り組みになるはずです」と語る。

 では、継続的な都市機能の強化や街づくりに欠かせないものとは何か?

 これまでも見てきたように、東京という街や首都近郊都市がそれぞれの強みを生かし、知恵を絞って解決策を導き出すことが何よりも大切。そして、忘れてはならないのは「少子高齢化とともに社会保障に財源を割いていかなければならない下で、プロジェクトをどのように賄っていくのか」という切実な課題だと高橋氏は指摘する。

「PPP(公民連携)やPFI(民間資金による公共サービスの事業化)など、民間の力を積極的に活用して都市づくり、街づくりを推し進めていくことが、答えの一つではないかと思います。幸い、東京やその近郊はいまのところ財政基盤が比較的強固ですが、だからこそ『民間を活用する』という発想があまりなかったことは否めません。民間とのコラボレーションが進めば、新しい運営モデルやテクノロジー、ITなどの活用も広がることでしょう。まさに、発想の転換が求められていると言えそうです」(高橋氏)