約3年前に「ビッグデータ戦略本部」という専門組織を立ち上げ、昨年は高精度な顔認証技術や機械学習などの独自のAI技術を「NEC the WISE」というブランドの下に体系化したNEC。同社の中村 慎二氏は「AIを使って価値を生み出す根幹は『見える化』『分析』『対処』が三位一体となったプロセスにあります」と言う。
さらにNECは、このプロセスを実際のサービスに落とし込むために「DIVA」というフレームワークを提唱。見える化のためのデータ収集(D:Data)、分析による情報の生成(I:Information)、対処による価値の創造(V:Value)、それを成果に結び付ける(A:Achievement)と、システムを構成する各要素の役割を位置付けている。
「既に、このフレームワーク上で様々な技術を組み合わせて、多くの成果を上げています。例えば、道路管理業務のコスト削減や効率化、短期間・低コストでがん治療用ワクチンの候補となるペプチドを発見する創薬支援、需要予測・最適化による在庫や廃棄コストの削減、人とサービスのマッチング支援などです」(中村氏)
数々の事例や経験を経て、現在、NECが特に意識しているのが「人とAIの共創」である。「単にAIを活用するのではなく、人とAIが共創することでより大きな価値の創造が期待できると考えています。例えば、見える化、分析、対処はAIが中心となって進めていくのが効率的ですが、人間の能力が必要になるセンシング(知覚)、イマジネーション、ホスピタリティ(おもてなし)、デシジョンは人が中心となって進めることが重要です。成果を最大化するためには、これらを最適な形で組み合わせることが大切です」と中村氏は強調する。
例えば、コールセンターの場合、よくある質問にはAIによる自動化を促進する一方で、複雑な質問、新たな質問には人が対応する、といった組み合わせが考えられる。システム面では、エスカレーションをどう行うかが設計の肝になる。
営業支援では、顧客情報のヒアリングを人が担当し、収集したデータをAIで分析。結果を再び人にフィードバックして、戦略立案や顧客への提案を行えばよい。「誰に」「いつ」「何を」売るべきなのかという標準的な推薦はAIが行い、人はコミュニケーションと「どう売るか」に集中するのだ。
需要予測では、必要情報の収集から、需要予測や発注数算出、自動発注に至るまでの一連の流れをAIが担当。並行して、分析の段階では状況判断や事業方針との擦り合わせ、対処の段階では発注数の修正を人が行う。これによりAIだけで業務を行うよりも、さらにきめ細かい意思決定が可能になる。
一方、AIの活用において気を付けなければならないのが「簡単に諦めないこと」だと中村氏は指摘する。「価値の源泉となるのはデータであり、目的に合致したデータが蓄積されるほどAIの生む価値は増していきます。ですから、チャレンジ当初からすぐに成果が出ると考えてしまうと、せっかくの価値を放棄してしまうことになります」。
ユーザー企業が、このような落とし穴にはまらないよう、NECはプロジェクトのライフサイクルに合わせた多様なサービスも提供している。技術からサービスまで、顧客のAI活用を支援することで、NECは、人の強みを最大限に発揮できる世界を実現していく考えだ。