日経ビジネスオンラインSpecial
水素エネルギー討論会 未来の「水素社会」を考える
グローバルなエネルギー水素はどこで製造・調達すべきか

山地将来の水素社会を前提とした場合、その水素は国内で製造されるのか、あるいはグローバルに調達するのか。そのあたりはどうお考えですか?

小林エネルギーは国の根幹を成すものなので、政治的に不安定な国から購入するのは避けた方がいいでしょうね。

山地水素は多様なものから作れるため、政治的に安全なところから選べるという技術上の利点はありますね。

松橋CO2排出制約と水素貯蔵容量の関係を調べた九州のケーススタディーでは、CO2約90%削減(排出9.8%)のケースで2140万Nm3という貯蔵容量に。これがゼロエミッションだと、100倍近い量の貯蔵が必要となることが分かりました。また発電コストは現状1kWh当たり9円のところ、90%削減で約11~12円に上昇、ネットゼロだと約25円に跳ね上がります。水素貯蔵と電気分解に要する固定費が、そのまま発電コストにかかってくるわけです。つまり90%削減なら国内でもいけますが、ネットゼロの実現には大幅なコスト削減のイノベーションが必要になる。

図3 九州における水素貯蔵の可能性

正田エネルギーのセキュリティーを考えれば、国内で製造することが必要ですが、安価な水素という視点ではグローバルで調達することも必要になってくると思います。そのためには、国内に一定規模の需要が必要となります。その際、需要規模の大きい水素発電も大きな可能性の一つですし、燃料電池の技術を発展させて、段階的に水素利用を進めていくというのもあると思います。

2014年に登場したFCVとそれを支える町の水素ステーション。日本の水素社会は、身近なところから既に始まっている

山地水素利用のブームは、1980年代のユーロ・ケベック計画(カナダの水力発電を用いて水素を製造し、欧州への輸送を構想したが、92年に断念)からあるわけです。それに触発されて、日本もWE-NET(World Energy Network:水素利用国際クリーンエネルギーシステム技術研究開発。2002年終了)を立ち上げたりもした。ある程度までは自前でやっても、水素の利用規模が大きくなれば、水素をグローバルに輸送することも視野に入れていくべきでしょう。ただ、それにはステップが必要ということですね。

未来のエネルギー社会における水素の役割と課題

山地水素社会といわれているものの、今のエネルギーミックスの中で水素はまだ明示的には出てきていません。それが2050年にはどう変わるのか。未来のエネルギーシステムにおける水素の役割と課題について、少し想像力を働かせてみましょうか。

山地 憲治氏
山地 憲治氏

東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1977年電力中央研究所に入所、94年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻(現電気系工学専攻)教授。2010年4月より現職。本討論会の座長。

小林先日、今年帯広に開所した水素ファームを見学してきたんです。そこでは牛の糞尿から水素を作っていて、FCVやフォークリフトに水素を充填する設備のほか、燃料電池を使った温水でチョウザメの飼育もしている。聞けば、牛は1頭で年間約23トンもの糞尿を出すらしく、それを原料に水素80kgを製造できるようです。FCVでいうと1万km走行できるほどの量です。しかも、その地区には牛が約1300頭いるので相当な量になる。このように地域の特性を生かした水素社会というのを幅広く考えていくと、様々な解が出てくるのではないでしょうか。

松橋その意見には私も同感です。実際、いろんな地域を回っていると、再エネを増やす中で水素もやってみたいという自治体は非常に多い。純水素で燃料電池を使いたいという声もあります。自動車業界だって水素で工場を動かそうとしているわけですから、地域ごと、業界ごとのケースに応じて様々なシステムを作っていけば、バリューチェーンも広がっていくはず。2050年のCO2削減目標に向けて、水素が重要な役割を果たすことは間違いないでしょう。

浅野マクロで見れば、2050年には火力プラントの一部が水素燃焼タービンに置き換わっているという状況もあり得る。その一方で、地域ではいろいろな使い方があるという話はまさに事実で、今も再エネの経済性が最も高いのは離島です。ディーゼル発電用燃料を運んで発電するよりも、太陽光と風力、あるいは燃料電池なり水素があれば十分賄えるし、安い。本島でもマイクログリッドやスマートコミュニティー的な実証実験はされていて、数十~千kW程度であれば燃料電池もあるし、貯蔵もある程度できるので、トライする価値はあります。ただ都心となると、デリバリーの問題が出てくる。各地域に水素をどう運ぶかの青写真が描かれていないので、需給を含めそのシナリオを検討する必要があると思っています。

正田水素の供給インフラについては、やはり需要とセットで考えるべきであり、現段階では都市部においてくまなく水素パイプラインなどの整備を開始するという地合いにないのではないかと思います。まずはCO2フリー水素にアクセスしやすい湾岸部からスタートし、徐々に広がっていくという形が可能性としては大きいでしょう。要は、水素を輸送するに当たり何にコストを投じるかという話ですので、水素をメタン化して既存の都市ガスパイプラインで輸送するという考え方もあります。現在は、様々な業界で技術的なブレイクスルーを目指し努力している段階ではないかと思います。

小林日本で水素パイプラインを引くというのは、あり得ないんでしょうか。

浅野アメリカには産業用の水素パイプラインはありますね。

正田国内では、限定されたエリアでの配管による供給レベルであれば、いくつか実証事業の事例が存在します。また、将来、発電用に水素をパイプラインで供給する形態が出てくるかもしれませんが、それがネットワークを形成するまでになるには、一定規模の需要が伴う必要があると考えます。

山地水素ステーションへの水素供給はどうしているんですか?

小林82ステーションのうち、圧縮水素で運んでいるのが58カ所、液化水素が10カ所、残りの14カ所はオンサイトで水素を製造しています。圧縮水素が先行しているのは、システムとして検討されたのが早かったからで、今後はコストが一番かからないシステムに落ち着いてくると思います。将来、FCVや水素ステーションの数が増えていけば、それに伴い種々の設備や配管などのインフラも検討されるかもしれませんが、ゴールはまだ見えないですね。

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