アスリートに聞く Vol.6

伊藤 正樹 選手 トランポリン

宙を舞う楽しさを、美しい演技で魅せる

アマチュア選手の競技生活を守るためにも不可欠な健康保険制度

——先頃、韓国・仁川で開かれたアジア大会の直前にはケガをされたと聞きました。

 2013年から東栄住宅に所属することになり、気持ちも新たに競技に専念できる環境を整えてもらいました。オリンピックで金メダルを獲るために何が必要かを考え、まずはこれまでよりも高く跳ぶことを目指して練習を始めました。僕の場合、跳躍の最高到達点は8mを超すため、着地の瞬間に体にかかる衝撃は約2トンといわれています。さらに高さを上げれば、それだけ体への衝撃も大きくなりますから、それに腰が耐え切れなくなって、腰を痛めてしまいました。結局、2013年のシーズンは腰痛で半年近くも満足のいく練習ができず、精神的にも苦しい時期を過ごしました。2014年のシーズンは調子もよかったのですが、アジア大会の1カ月ほど前にまた腰を痛めてしまい、大会1〜2週間前になってようやく本格的に練習できるといった状態でした。アジア大会では結果を残すことはできませんでしたが、現状の自分に出せるものは出し切れたので、今回はいい経験になったと前向きに捉えています。

——ケガや病気などで健康保険を使ったことはありますか。

 コンタクトレンズを使用しているので、眼科には定期的に通っていますし、インフルエンザの予防接種で健康保険のお世話になることもあります。トランポリンはほとんどの選手がどこからもサポートを受けていないアマチュアですから、実はケガの治療費負担が重いために競技生活を断念する人も少なくないのが現実です。そのような中、東栄住宅が加入する東京不動産業健康保険組合に支えられ、治療費の心配もなく競技に集中できる自分は恵まれていると思います。これまで病院に行けば当たり前のように保険証を出していたので、健康保険を意識することはありませんでしたが、病気やケガをしたときに安心して治療が受けられるこの制度は、トランポリンのようなスポーツ環境が整っていないアマチュアスポーツの選手にとっても欠かせないものですし、今後も大切にしていくべきだと思います。

——ケガや病気の予防、体調管理などで気をつけていることはありますか。

 体が硬いとケガをしやすいので、腰を痛めてからは、体の柔軟性をより大切に考えるようになりました。練習の前後や就寝前には必ず入念なストレッチで体をほぐしています。また、体重が増えると跳びづらくなったり、演技の見栄えにも影響しますので、体重管理には気を遣っています。食事については、なるべく野菜を多く摂るように心がけています。どちらかというと肉が好きなものですから。甘いものも大好きで、つい食べ過ぎてしまって困るんですよね(笑)。そんなときは、その分練習することで調整しています。

転機での決断は、全て金メダル獲得のため

——東京で生まれ育った伊藤選手ですが、高校は石川県の金沢学院東高校に進学されましたね。

 石川県はトランポリンが盛んで、なかでも金沢学院大学クラブ(旧金沢学院北國クラブ)には、シドニーオリンピックで日本代表のコーチを務めた福井卓也先生がいらっしゃいました。オリンピックに出場するために、トップレベルを知るコーチに指導を受けたいという思いが強くありました。また、金沢学院大学クラブには社会人も含めて日本のトップ選手がたくさん所属されていて、当時の日本一の選手もいましたから、レベルの高い環境の中に入れば、学ぶことも多いはずだと考えたのです。両親には「ぜひ行かせてほしい」と頼み、応援してもらいました。

 福井先生は、美しい姿勢で演技することを重視していて、高校3年間はひたすら技の美しさを鍛えられました。実は難しい演技に挑戦したくてウズウズしていたので、当時は不満だったのですが、今になってみれば本当にありがたいことだったと感謝しています。世界で戦うには、美しい演技であることも非常に重要なのです。

——大学院まで金沢学院大学クラブで過ごされましたが、再び東京に戻る決断をされました。それはなぜですか。

 2011年に世界選手権で3位、同シーズン世界ランキング1位となり、翌年のロンドンオリンピックには金メダルを獲る意気込みで臨んだのですが、結果は4位でした。なぜ金メダルが獲れなかったのかを考えたとき、一度、環境を変えようと思いました。金沢は食べ物も美味しく友人も多いので、第二の故郷だと思っていますが、競技者としてもうワンランク成長するという観点から決断しました。今は週3回、シドニーオリンピックに出場された中田大輔コーチの指導を受けています。

——今後の抱負を聞かせてください。

 リオデジャネイロオリンピックでの金メダル獲得が目標です。幼いころ、乳がんと闘いながら支えてくれた母に金メダルをブレゼントしたいという思いもあります。その後のことは、まだ分かりません。東京オリンピックまで競技生活を続けるかどうか、もし引退するとしたら、その後何をするのか。そこはリオの後に考えることになると思います。

伊藤 正樹 選手

1988年11月2日生まれ。東京都練馬区出身。小学3年で日本トランポリン協会(2012年から日本体操協会に統合)の第一期オリンピック強化指定選手に最年少で選ばれる。金沢学院東高校、同大学、同大学院時代は金沢学院大学クラブ(旧金沢学院北國クラブ)に所属、現在は東栄住宅の社員として選手活動を行っている。 08年以降、全日本トランポリン競技選手権で5度の優勝を果たし、12年のロンドンオリンピックでは4位入賞。

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