コラム Vol.3

天野 拓氏 熊本県立大学 総合管理学部総合管理学科 准教授

オバマケアの課題から見えてくる
日本の「国民皆保険制度」の重要性

 建国以来「自由と自助の精神」を根幹としてきたアメリカの医療は原則的に自由診療であり、国民の6人に1人は公的な保険や高額な民間保険に加入できない状態となっていた。この状態を改革すべく、2014年1月からオバマケアの保険適用が始まった。だが、あくまで「国民皆保険制度に近い状態」を目指すものにとどまったことから、従来の問題点をどこまで克服できるかは不透明だ。そうしたオバマケアが抱える課題を考えると、日本の「国民皆保険制度」の重要性が見えてくる。

アメリカの医療制度が抱える問題点

熊本県立大学総合管理学部総合管理学科准教授
天野 拓氏

 2010年3月、アメリカではオバマ政権のもと、大規模な医療改革法(Affordable Care Act:通称オバマケア)が可決成立した。その背景には、アメリカの医療制度が抱える深刻な問題点が存在した。一つは、国民皆保険制度の不在に伴う「無保険者の増加」である。無保険者は医療へのアクセスが大きく制限され、当人の健康状態や家庭生活にも悪影響を及ぼしており、その数は2011年時点で約4861万人、国民の15.7%に達していた。もう一つは、「医療費の高騰」である。オバマ政権の医療改革は、まさにこうした問題に対処しようとするものだった。

オバマケアの概要と意義

 オバマケアの導入以前、アメリカ国民の6割は雇用先が提供する民間医療保険に加入し、公的医療保険はメディケア(65歳以上の高齢者や障害者などが対象)、メディケイド(低所得者が対象)、児童医療保険プログラム(低所得世帯の子どもが対象)などに限られていた。

 オバマケアは、①個人による医療保険加入の義務付け、②メディケイドの対象拡大、③従業員へ医療保険を提供していない企業へのペナルティ——などを盛り込み(表1)、この医療保険改革によって10年間で無保険者を3200万人減らし、65歳以下の保険加入率を83%から94%に引き上げることを目指した。同時に、高騰する医療費を抑制するため、予防医療の重視や医療ITシステムの導入による検査・治療の重複の回避なども課題とした。

 今回の医療改革法で新たに設けられた罰金措置や保険会社への規制強化により、一定程度の無保険者の存在は解消されることになる。その意味で、オバマケアの成立は、米国医療政策史において、1965年のメディケア、メディケイドの成立と並ぶ一大ターニング・ポイントといえる。

オバマケアの課題

 オバマケアは一定の成果をもたらすだろうが、今回の医療改革法は、あくまで「国民皆保険制度に近い状態」を目指すものにとどまっており、また民間保険中心の医療制度を変更するものではない。例えば、オバマ大統領は新たな公的医療保険プランの創設を試みたが、その導入は見送られた。

 そして最大の課題は、議会予算局の試算によれば、改革後も2019年時点で約2200〜2300万人が無保険者のまま取り残されることである。具体的には、「不法移民」「メディケイドの受給資格を持つほど貧しくはないが、加入コストが高いと感じる人々」「保険を購入する経済的余裕があるにもかかわらず、罰金を支払うという安価な選択肢を選ぶ人々」を中心に、なお無保険者は多く残ると見られている。アメリカは先進民主主義国の中で唯一、今後も多くの無保険者を抱え続けることになる。

 また、メディケイドの拡充については州政府の判断に委ねられたが、拡充を拒否する州も多く、試算通りの保険加入率を達成できるかは不透明な状況だ。さらに、州政府は、医療保険取引所(Health Insurance Exchange)を創設する役割も担っているが、これも拒否する州が多く、代わりに連邦政府が創設しなければならなくなるなど、実務上の混乱も起きている。

 財政収支の問題もある。医療保険への加入者が増えることなどに伴い、2019年までに93兆円もの支出が必要になるといわれている。この支出に対し、議会予算局は、メディケア予算の削減や、高所得者や医療業界への課税などにより、結果的には全体で10兆円以上の財政赤字が削減されると試算するが、その実現性については全くの未知数と考えられる。

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