コラム Vol.4

日本総研・西沢和彦氏が語る 「社会保障・税の一体改革」の深層①

サラリーマンを圧迫する
国保の脆弱な財政基盤

 日本の社会保障制度を抜本的に見直すための議論の場、社会保障制度改革推進会議が2014年7月に初会合を開催した。同会議は社会保障4分野(医療、介護、年金、少子化対策)について制度横断的な視点で議論するとともに、改革の進捗状況を確認する役割を担う。一方、個々の具体的なテーマに関しては、厚生労働省社会保障審議会の各部会で検討されており、健康保険制度については医療保険部会が議論の場となっている。

 注視すべきは、こうした制度改革が現行制度の抱える課題に応えているか、持続可能な健康保険制度を構築することができるかどうか、という点だ。そこで、日本総合研究所調査部上席主任研究員の西沢和彦氏に、これまでの論議や法案を踏まえ、健康保険制度改革のあるべき方向性について解説してもらった。第1回のテーマは、一般サラリーマンの負担に直結する「国民健康保険(国保)の財政問題」を取り上げる。

国保が抱える財政問題は
被用者保険側の負担問題に直結

日本総合研究所調査部上席主任研究員
西沢和彦氏

 昨年8月にまとまった社会保障制度改革国民会議(国民会議)報告書や12月に成立した社会保障改革プログラム法の柱の一つが、健康保険制度改革である。その特に注目すべき検討項目として、①国民健康保険(国保)運営の都道府県化、②後期高齢者支援金の負担方法の全面総報酬割への変更、③それによって浮いた公費の国保への充当——が挙げられる。これらによって目指そうとしているのは、「国保財政の立て直し・基盤強化」である。

 現在、市町村が運営する国保は、自営業者や農林水産業者だけでなく、被用者保険(健保組合、協会けんぽなど)からあふれた被用者、65歳から74歳までの前期高齢者、失業者などその他大勢の受け皿となっており、いわば日本の健康保険のラストリゾート(最終避難場所)としての役割が期待されている。

 しかし、こうした国保の特性により、加入者の年齢構成や医療費水準が高く、所得水準は低い。そのため、国のみならず都道府県と市町村から公費が投じられ、健保組合などの被用者保険から前期高齢者納付金などの財政支援が行われている。そうした支援にもかかわらず、国保の財政状況は悪化の一途をたどっており、その最大の要因の一つは高齢加入者の増加である。

 国保の財政問題は、被用者保険側の負担問題に直結するため、一般サラリーマンも見過ごしにできない。では、国民会議報告書やプログラム法に沿った道筋で、国保財政の立て直しは可能だろうか——。今回は、国保の運営面での問題点を指摘したい。

国保運営を都道府県化しても
その効果は未知数

 まず、国保の運営を市町村から都道府県に移行させるという方策について考えてみよう。確かに、市町村は保険者としての役割を発揮するには規模が小さすぎたり、市町村間で保険料に顕著な格差があるため、広域化自体は妥当な方向性といえる。しかし、国民会議報告書では都道府県化の具体像が曖昧で、現状との差が見えにくい。

 例えば、同一都道府県内における市町村間では、保険財政共同安定化事業などの負担平準化の仕組みが導入されており、既に広域化が進んでいる。保険財政共同安定化事業とは、1件当たり30万円を超える医療費を対象とし、同一都道府県内の市町村が拠出した財源によって費用負担を調整するというもの。この仕組みは2006年10月に導入され、2015年度からは全医療費を対象とすることになっている。国民会議報告書では国保の財源構成について言及していないが、当面、現状のまま維持されるとすれば、都道府県が負担する額はそれほど大きくはなく、引き続き国庫負担や被用者保険からの財政支援に大きく依存する構造は変わらない。

 また、国民会議報告書では、保険者が担う中核的機能である保険料の賦課徴収、加入者向け保健事業(特定健康診査、特定保健指導など)は、引き続き市町村が行うのが適当とされている。こうしてみると、国保運営の都道府県化はどこまで実効性があるのか、疑問が生じてくる。むしろ、財政責任が軽減した市町村の保険料徴収や保健事業推進のインセンティブを低下させる懸念があり、それは医療費の増大を招くことにもなりかねない。

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