コラム Vol4

日本総研・西沢和彦氏が語る 「社会保障・税の一体改革」の深層①

サラリーマンを圧迫する国保の脆弱な財政基盤

国保運営側の努力なくして、
サラリーマンの納得は得られない

 次に問題と考えられるのが、国民会議報告書やプログラム法では国保側で改善すべき点が不問に付されている点だ。国保の財政赤字は市町村ではもはやどうしようもないのか、あるいは改善の余地があるのか——。こうした点が検証されず、必要な施策が講じられないまま、公費の更なる拡充に頼るとすれば、モラルハザードを引き起こすだろう。

 例えば、いわゆる「クロヨン問題」がある。クロヨンとは、一般サラリーマンの給与所得に対する税務当局の捕捉率が9割に達するのに比べ、自営業者と農林水産業者の所得捕捉率はそれぞれ6割、4割にとどまっていることを指す。国保の保険料の仕組みは、給与収入に単一の保険料率がかけられるだけの健保組合や協会けんぽなどに比べて複雑だが、「所得」がベースの一つとなっている。従って、国保加入者の所得を正確に把握しなければ、適切な保険料収入を得られないが、現状では極めて不十分な状況だ。こうしたまま被用者保険の保険料負担を引き上げ、それで得られた財源を国保に充当すれば、公平性が一段と損なわれる。一般サラリーマンからしてみれば、まず国保加入者の所得捕捉を正確に行い、それによって「取り漏れている保険料」を徴収するのが先決ということになる。過少申告などに対する罰則強化など、国保運営側の努力なくして、被用者保険の納得は得られない。

 また、税制改正にまで踏み込んだ高齢世代からの一段の保険料徴収も考慮すべきだと思われる。現在、国保の保険料は年収が同額でも年金受給者か否かで保険料負担が異なっている。例えば、国保加入者で年収200万円、単身世帯という条件で、年金受給者(65〜74歳)と給与所得者(64歳以下)を比較した場合、保険料がかかる所得は、年金受給者は47万円、給与所得者は89万円。所得を求めるのに際し、収入から差し引く公的年金等控除が、給与所得向上に比べて厚いためだ。保険料率を仮に7.82%とすると、年金受給者の保険料は、給与所得者よりも3.3万円低くなる。

 同じ収入でもこれだけの差が生じているため、公的年金等控除を引き下げる方向で見直すべきだろう。これは年金受給世代の負担を引き上げ、被用者保険加入者すなわち現役世代の負担を抑えることから、世代間の公平の観点でも望ましい。

 こうした収入面での努力に加え、特定健康診査の実施率の引き上げ、ジェネリック医薬品への切り替え勧奨、国保にかかる行政費用の効率化など、医療費をはじめとした支出面での抑制努力が図られているかどうかも検証が必要だ。

被用者保険では使えない
「法定外繰入」という"裏技"

 そもそも国保の赤字は、本当に「赤字」といえるのか、という本質的な問題がある。国保の事業勘定では、市町村の一般会計から決算補填目的で繰入金を投入するという"裏技"がある。この繰入金は「法定外繰入」と呼ばれるもので、この金額がしばしば赤字部分とされている。被用者保険の場合、赤字を回避または解消するためには、積立金の取り崩しや保険料率を引き上げるしか対応する選択肢がないのに対し、国保は一般会計からの繰入という手法があるわけだ。この法定外繰入を行っている市町村と行っていないそれとを比較すると、国保財政の問題点が浮かび上がる。

 厚生労働省の国民健康保険事業年報(2012年度)を見ると、全国の市町村の中で、国保加入者1人当たり法定外繰入額が最も高いのは置戸町(北海道)で8万3300円だった。しかし、同町の加入者1人当たり保険料は8万5700円に過ぎない(表1)。そして、法定外繰入額上位20市町村のうち、全国の国保加入者1人当たり保険料の平均7万6500円を上回っているのは、わずか4市町村である(1位、9位、13位、17位)。このように、法定外繰入を行っている市町村でも保険料は高くなく、すなわち、適切な保険料を設定しているのか疑わしく、しかも大都市を抱える都道府県において法定外繰入が多く行われているという実態がある(図1)

一方、法定外繰入を全く行っていない458市町村のうち、加入者1人当たりの保険料が高い上位20市町村を見ると、最も高い大潟村(秋田県)の13万9000円をはじめ、いずれの市町村も平均を上回る(表2)。これらの市町村のように、保険料を引き上げることで法定外繰入を減らすことは可能なはずだ。

国保の財政基盤強化が優先課題の一つであることは間違いない。だが、国保の実態を検証し、できる限りの改善策を講じることがまず必要だ。その構造改革がなされなければ、被用者保険と国保の公平性はますます失われることになる。

(談)

西沢 和彦氏

1989年一橋大社会学部卒、三井銀行(現三井住友銀行)入行。98年さくら総合研究所出向、2001年日本総合研究所調査部主任研究員。02年法政大学修士課程(経済学)修了。著書に第51回日経・経済図書文化賞を受賞した『年金制度は誰のものか』(日本経済新聞出版社, 2008)、第40回日本公認会計士協会学術賞を受賞した『税と社会保障の抜本改革』(日本経済新聞出版社, 2011)などがある。

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