コラム Vol5

日本総研・西沢和彦氏が語る 「社会保障・税の一体改革」の深層②

現役世代に過重な負担を強いる
「前期高齢者医療」の問題点

不合理で複雑な前期高齢者医療における財政調整

 こうした前期高齢者医療における財政調整のあり方に対して、以下の問題点が指摘されている。

 まず前述したように、団塊の世代が前期高齢者の仲間入りをした影響は非常に大きく、これを過小評価できないという点である。団塊の世代が前期高齢者から抜けるまでの今後10年間については、特に前期高齢者納付金が膨らむため、厚生労働省はこの10年間に限定してでも財政の手当が必要と考えているようだ。しかし、2060年には国民の約2.5人に1人が65歳以上の高齢者となる社会が到来すると予測されており、そこまでの展望を描きながら高齢者医療のファイナンス(財源調達)を考慮すべきだ。前期高齢者医療に関しては、団塊の世代が後期高齢者入りをするまでの間だけしのげばよいと安易に考えているならば、赤字で解散に至る健保組合が増加するおそれがある。

 前期高齢者納付金の算定上の問題としては、国保に加入している前期高齢者が負担すべき後期高齢者支援金を、加入者調整によって増加した人数分、健保組合などが肩代わりしている点が挙げられる。これは原則的に不合理な仕組みである。このように、国保の前期高齢者が負担すべき後期高齢者支援金の一部をサラリーマンが補填している一方、国保が拠出する後期高齢者支援金に公費が投入され、その受け手である後期高齢者医療制度にもまた公費がダイレクトに入っているという非常に複雑な構造になっている点も問題だ。

 2008年の新たな高齢者医療制度の創設に伴い廃止となった退職者医療制度(2014年度までは65歳未満の退職被保険者を対象に経過的に存続)は、サラリーマンが退職して国保に加入しても、企業がその財源を補填するという形になっており、それなりに筋道が通った制度であった。しかし、現在の財政調整は、過去の就業形態・状況にかかわらず、全ての前期高齢者について現役世代が面倒をみるという形となっており、この仕組みを成り立たせる根拠そのものが希薄だと思われる。

 付け焼刃的な財政調整ではなく、シンプルで分かりやすい仕組みにしなければ、国民の健康保険制度全体に対する理解も深まらないし、政治的な論議の対象にすらならない。

前期高齢者交付金は高齢者だけに使われていない

 健保組合などが拠出する前期高齢者納付金は国保への交付金として使われているわけだが、この交付金が国保では64歳以下の医療給付費の支払いなどと混入しているという問題もある。高齢者に対する負担を名目としているにもかかわらず、国保の若年加入者の医療給付費にも紛れているのである。これは、国保が前期高齢者にかかる費用について財政上区分しておらず、前期高齢者交付金を収入の一部として受け入れ、一体的な運用で使っているためである。

 これに対し、健康保険組合連合会(健保連)は、国保の財政を65歳以上と64歳以下に区分し、65歳以上の前期高齢者の保険料および「被用者保険からの納付金=国保への交付金」の使途を、前期高齢者の給付費等に特定すべきと主張しており、妥当な意見だと思われる。「負担」と「受益」の関係を明確にしなければ、被用者保険側の納得は得られない。

予測できない算定方法が
健保組合の安定的な財政運営に支障をきたす

 各保険者が負担する前期高齢者納付金は、当該年度の「概算」と2年前の「精算」によって算定される。前期高齢者の医療給付費や加入者数などをベースに納付金額を計算する算定上の問題から、「突発的に高額な医療費が発生した場合」や「加入者数の変動」により、大幅に納付金額が増減する場合がある。このため、単年度で収支均衡を図らなければならない健保組合にとっては、安定的な財政運営に支障をきたす大きな要因となっている。もちろん、今後も現役世代が中心となって高齢者医療を支えていかなければならないが、健保組合などの財政が不安定な状況になれば、国民皆保険制度の根幹が揺らぐという視点を失ってはいけない。

 このように、前期高齢者に対する被用者保険の負担は単なる財政調整事業となっており、財政調整という制度設計自体に問題がある。しかも、健保組合などの保険者が制度の運営に関与できず、高齢者にかかる医療費を適正化しようとしてもその努力を発揮する余地がない点も問題だ。

 本来、保険料は「負担」と「受益」が対応する費用調達手段であるべきで、保険料を所得移転に使うのは望ましい方法とはいえない。その財源は、現役世代だけでなく、全世代が応分に負担する仕組みに変えていく必要があると考える。

(談)

西沢 和彦氏

1989年一橋大社会学部卒、三井銀行(現三井住友銀行)入行。98年さくら総合研究所出向、2001年日本総合研究所調査部主任研究員。02年法政大学修士課程(経済学)修了。著書に第51回日経・経済図書文化賞を受賞した『年金制度は誰のものか』(日本経済新聞出版社, 2008)、第40回日本公認会計士協会学術賞を受賞した『税と社会保障の抜本改革』(日本経済新聞出版社, 2011)などがある。

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