コラム Vol6

日本総研・西沢和彦氏が語る 「社会保障・税の一体改革」の深層③

後期高齢者支援金における
「全面総報酬割」導入案の背景と問題点

「全面総報酬割」導入による国保への赤字穴埋めに
合理性はない

 そもそも高齢者医療制度改革会議においては、高齢者医療の名を借りつつ、主眼は国保の都道府県単位化(広域化)に置かれていたように見える。国保の財政安定化には市町村よりも規模の大きい自治体が責任を持つ必要があること、また各都道府県において医療計画が策定され、医療サービスもその中で提供されている実態があることから、都道府県単位を軸とすべきと提案された。これに都道府県側は総じて乗り気ではなかった。国保の大きな赤字を抱えることが背景にあるだろう。そこで都道府県側を納得させるために、「全面総報酬割」の導入で浮いた国費を国保に充てることを思いついた、という印象が強い。この国保に充当する案は、私が委員として参加した国民会議では途中(第9回)で唐突に提起された。赤字分の増税では国民の納得が得られそうもないので、健保組合からお金を引っ張ってくることでやり繰りしようという政府の思惑が透けて見える。つまり、「国保の都道府県単位化」が大前提であり、それを早期に実現するために「全面総報酬割」を手っ取り早く利用しようとしていると思われる。

 法律面から見ても、その合理性は疑わしい。協会けんぽへの国庫補助は、「1000分の164から1000分の200までの範囲において政令で定める割合を乗じて得た額を補助する」(健康保険法153条)と定められており、「全面総報酬割」の導入で国庫補助がたとえ減ったとしても、それをすぐに国庫補助率の見直しへと結び付けるのは無理がある。

 従って、政府の説明も歯切れが悪い。例えば、第11回高齢者医療制度改革会議(2010年10月25日)の議事録によれば、事務局は次のように説明している。「支援金については、全て総報酬割とすべきではないかと考えております。また、その反射的な効果としまして、支援金の負担が全て応能負担となった場合には、健保組合・共済組合との財政力の違いに着目した協会けんぽの支援金負担への国庫負担約2100億円が不要になるわけでございます」(注:当時の試算では2100億円)。この発言に見られるように、「反射的」という曖昧な言葉を使わざるを得ないところに、「全面総報酬割」導入によって国庫負担を減額することの合理性の乏しさが表れていると思われる。

 また、「総報酬割」といいながら、実は「総報酬」ではないという問題も指摘できる。例えば複数事業所に勤務している人については、トータルの報酬が把握されていない。本当に「全面総報酬割」を導入するのであれば、各企業ベースで把握している賃金ではなくて、確定申告なりできちんとトータルの賃金を把握して、そこで計算し直すべきであると考える。

 さらに指摘すれば、2008年の「加入者割」でスタートし、その後「3分の1の総報酬割」を導入し、今回の「全面総報酬割」という五月雨式の改革手法も望ましくない。やはり「打ち止め感」を出す必要があり、今後数十年の財政計算を行い、「全面総報酬割」にした場合は、協会けんぽの保険料率はこうなる、あるいはこうすると明示すべきだろう。

考慮されない健保組合などの財政的持続可能性

 後期高齢者支援金における「全面総報酬割」導入案で、最も気になる点は、健保組合などの被用者保険の財政的持続可能性がさほど考慮されていないことである。被用者保険の財政基盤が健全に維持されて、初めて国保や後期高齢者医療制度の持続可能性が確保される。このことへの認識が甘い。例えば、急速に進行する高齢化により、協会けんぽの保険料率は今後引き上げが予想されるが、その半分を負担する企業にとっては雇用コストの増大となり、雇用の抑制や保険料の滞納、協会けんぽの適用逃れなどを招く恐れがある。協会けんぽから漏れた被用者は国保に加入することになり、国保の財政をさらに悪化させる要因ともなるだろう。

 また、健保組合の財政状況も逼迫している。健康保険組合連合会が発表(2014年9月11日)した2013年度の決算見込状況によれば、赤字の健保組合は927組合で、全体の65%に上る。健保組合が拠出する後期高齢者支援金は、2008年度は約1兆2740億円(決算額)だったが、2013年度は約1兆5770億円に膨れ上がる見込みだ。前期高齢者医療に対する納付金と合わせた額は約3兆2740億円に達する。こうした状況が存在するため、被用者保険の財政的な持続可能性をセットにした上で、「全面総報酬割」を論議する必要がある。

 加えて、現行の後期高齢者医療制度を前提として「全面総報酬割」が提案されていることも問題だ。前期高齢者医療における財政調整にもいえることだが、後期高齢者医療制度においても、保険料に「負担」と「受益」の対応関係を見出すことは難しい。表2に示すように、各保険者の保険料がどのように使われ、そこにどれだけ税(公費)が投入され、どのように使われているのか、きちんと理解できる国民がどれだけいるだろうか。このような複雑な仕組みになっているため、問題の本質が見えにくくなっている。後期高齢者医療制度の「全面総報酬割」導入による国保赤字の穴埋めは、保険料の「負担」と「受益」の関係を一層希薄化させることになる。

 このような問題点を指摘した上で、私は「現行の健康保険財政の枠組みの是非に遡って議論されるべきである」と主張してきている。国民皆保険制度を維持していくためには、一時的に取り繕う政策ではなく、少子高齢化の進行という時間軸を見据え、誰もが納得できる仕組みにしていくことが求められる。

(談)

西沢 和彦氏

1989年一橋大社会学部卒、三井銀行(現三井住友銀行)入行。98年さくら総合研究所出向、2001年日本総合研究所調査部主任研究員。02年法政大学修士課程(経済学)修了。著書に第51回日経・経済図書文化賞を受賞した『年金制度は誰のものか』(日本経済新聞出版社, 2008)、第40回日本公認会計士協会学術賞を受賞した『税と社会保障の抜本改革』(日本経済新聞出版社, 2011)などがある。

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