コラム Vol.7

日本総研・西沢和彦氏が語る 「社会保障・税の一体改革」の深層④

持続可能な財源確保と経済成長を考慮した
健康保険制度の再構築 

 わが国の高齢者医療は、公費(税)に加え、現役世代の負担で支える構造になっており、急速な少子高齢化の進行を背景として、高齢者医療制度ひいては国民皆保険制度そのものも存続が危うくなっている。

 シリーズ最終回となる今回は、一層の増大が見込まれる高齢者医療費を支えていくために、どのような制度設計が望ましいのか、公費投入のあり方は公平かつ効率的か、財源確保はどうすればよいのか——。健康保険制度の再構築に向けた提言を、日本総合研究所調査部上席主任研究員の西沢和彦氏に語ってもらった。

民主主義的な意思決定が可能な
健康保険制度のシステム基盤づくりが必要

日本総合研究所調査部上席主任研究員
西沢和彦氏

 わが国の健康保険制度は、主に現役世代の保険料を原資とする支援金等を通じて高齢者医療費を支える構造になっている。前期高齢者(65〜74歳)の加入者数の多い国民健康保険(国保)には現役世代が加入する健保組合や協会けんぽ等からの財政支援が行われ、75歳以上の後期高齢者医療制度には現役世代からの支援金に加え、公費も投入されている。こうした仕組みのため、各保険者の収支の流れは非常に複雑だ。本来、社会保険料は「負担」と「受益」が対応していることによって租税と大きく差別化されるのだが、現状では健康保険料によって「負担」と「受益」の対応関係を把握することは困難であり、その結果、国民一人ひとりが健康保険制度の問題点を認識できなかったり、保険料の使い道の検証が疎かになったりすることに結び付いている。

 私たちは、自分の受けた社会保障サービスと支払った金額とを比較することでサービスの価値を実感できる。例えば、マンションで大規模修繕が行われる際、理事会は工事費と工事の質とを勘案して総会に諮り、入居者の意向に沿って修繕案が決定される。こうした民主主義的な意思決定の基盤が、健康保険制度にも求められる。健康保険料の負担水準が適切かどうか自分で判断し、負担が重すぎると感じれば、医療給付の効率化を促すという関係を再構築しなければ、社会保障サービスの価値は実感できず、国民が負担に対し納得感を得ることはできないだろう。

 厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会の議論を見ても、結局、後期高齢者支援金への「全面総報酬割」導入といった話題が中心で、一般の国民が議論に参加することは困難になっている。本来は、わが町・わが村に病院と診療所がいくつあり、かくかくしかじかの医療費がかかるから保険料はこうなる、というのが「負担」と「受益」の議論のはずだ。

再考されるべき公費投入のあり方

 国民一人ひとりが「負担」と「受益」の対応関係を実感できるようにするには、社会保障制度に対する公費の投入方法を抜本的に見直し、健康保険料を含めた社会保険料のあり方を本来的な姿に改めることが重要となる。例えば、現行の公費投入方法では、一般会計から特別会計や地方自治体を通じて各家計に給付されるため、高所得者層も低所得者層も等しく恩恵が受けられる。しかし、これは効率的ではないし、本当に公費が投入されているかどうかもよく分からない。

 これに対する改革案として、一般会計から所得の低い家計にダイレクトに公費を給付する方法が考えられる(図1)。これは社会保障に対する公費の役割を「高齢化・低成長経済モデル」に切り替えることであり、このような国民自らが判断できるような民主主義的な制度設計が不可欠である。

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