有識者インタビュー Vol.2

土田 武史氏 早稲田大学 名誉教授

持続可能な国民皆保険を構築するために

医療費削減のため保険給付範囲の見直しも

──医療保険制度の財政的な危機は、遡れば医療費の増大が根本にあります。このため、政府としては医療費の削減、医療提供の効率化を進めようとしています。この点について、お考えを聞かせてもらえますか。

 医療政策の実現は、診療報酬の改定を中心として推し進められています。日本の医療機関・医師の収入はほぼ100%が保険診療によるものですので、そこをコントロールするという意味で、診療報酬が医療政策にとって大きな武器である状況は変わらないし、また変えるべきではないと思います。それによってこそ、国際的に見て日本の医療費がここまで低く抑えられてきた事実があります。ただ、診療報酬における政策誘導には、7対1看護のように予期しなかった問題を引き起こすこともありますので、更なる慎重な議論と対応が必要だと思います。

 診療報酬以外では、マイナンバー制度に期待しているのですが、情報管理への信頼が十分に得られず、残念ながら話が進んでいないようです。個人の所得をベースに、医療・介護の給付を含めた社会保障を一元的に捕捉できれば、はしご受診の防止などによる医療費の削減や、介護保険制度も勘案しての医療提供の効率化など、活用の幅が大きくなると思います。

 もう一つ私が医療費削減に有効と考えるのが、保険給付範囲の見直しです。保険給付には医療サービスなどの現物で提供される給付と、出産手当金や埋葬料などの現金で提供される給付がありますが、まずは埋葬料や移送費など、医療保険としての給付にふさわしくないものを是正・廃止したらどうでしょう。例えばドイツでは、妊娠や出産などに関係する給付の財源は全て国が負担しています。日本でも少子化問題への対策として考えれば、医療保険だけで対応する必然性はないと思います。このように保険給付範囲を根本から見直すことで、医療費の削減が可能となります。

きめ細かな保健活動で保険者機能を強化

──最後に、以前から医療保険制度の維持のために保険者機能の強化が叫ばれていますが、十分に進まない現状があります。この点について、何か具体的な提案をお持ちでしょうか。

 日本の医療保険は、地域や職域といった中間的機能集団が保険者となり、加入者が拠出する保険料から給付を受ける社会保険方式をとっています。この方式の利点は、何らかの同じ基盤を有する集団としての連帯があることであり、保険者機能もその連帯がベースとなっています。

 保険者機能として重要なのは、一つには自らが保険料率を設定することで主体的に財政をコントロールし得ることです。給付の面ではどの保険者もほぼ一律なので、次に重要となるのは疾病予防などの保健活動です。母体となる集団ごとに規模や業種による特殊性などがありますので、そうした集団ごとの特徴を加味して疾病予防に工夫を凝らすなど、きめ細かな保健活動を行うことに、保険者機能を発揮する余地があるのではないでしょうか。

 現在、実際に協会けんぽが関連団体などと連携して疾病予防活動などを始めています。協会けんぽに加入する中小企業では、これまでそうした面への意識が薄く、いわば放置されてきたような状況だと思いますので、協会けんぽには活動の余地が大いにあると思いますし、成果も期待できるのではないかと思います。また、これまで積極的に保健活動・事業を行ってきた健保組合などでも、まだ工夫を凝らす余地はあるのではないでしょうか。

 日本の医療保険制度の素晴らしさは世界でも注目を集めています。社会構造や経済状況の変化に即した改革を施し、これからも長く皆保険制度を維持していくために、国の政策のみならず、保険者、被保険者の意識もまた変革を求められていると思います。

土田 武史氏

1972年早稲田大大学院経済学研究科修士課程修了。日本労働協会、(社)産業労働研究所研究員、国士舘大教授などを経て、93年早稲田大商学部助教授、95年より同教授に就任。博士(商学)。現在、同大名誉教授。中央社会保険医療協議会会長、(財)医療経済研究・社会保険福祉協会理事などを歴任。

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