スペシャルレポート Vol.1

悲鳴を上げる現役世代:前編

団塊の世代が65歳に到達し、
現役のあなたを襲う高齢者医療負担

総報酬割拡大で健保組合、共済組合の負担は急増

 一方、後期高齢者医療制度にも大きな課題がある。後期高齢者医療制度は前期高齢者医療の仕組みと異なり、全ての市区町村が加入する広域連合が運営する独立した医療保険制度だ。厚労省によれば、「高齢世代と若年世代の負担の明確化などを図る観点」で作られた。

 そのため、後期高齢者医療給付費には公費が投入されている。その割合は、給付費の約5割。残りの約1割が高齢者の保険料で、約4割が現役世代の保険料からの“仕送り金”である「後期高齢者支援金(支援金)」だ。2014年度予算ベースの医療費の負担の内訳は図3の通り。約14兆4000億円のうちの6兆円を、支援金として国保と健保組合、協会けんぽ、共済組合の加入者である現役世代が分担して支えている。

しかし、この支援金の分担に関わる算定方式を大幅に見直す案が、厚労相の諮問機関である社会保障審議会の医療保険部会で浮上している。

 現在、支援金は、その3分の2を各保険者の「加入者数」に応じて決める加入者割、3分の1を加入者の「平均所得」に応じて決める総報酬割で分担している。これを2015年度から全て総報酬割によって分担する方向に改める方針が出てきたのだ。これにより、平均所得が高い企業の健保組合や共済組合では拠出金が大幅に増えることになる。健保連によれば、これにより健保組合の約6割の組合が負担増となるという。

 総報酬割の導入で負担が増えるのは、健保組合と共済組合だ。その一方、平均所得が低い協会けんぽの負担は約2300億円減る。実は、これまで、加入者割による収入などの格差の是正などの観点から、協会けんぽには国庫補助が行われていたが、総報酬割によって補助していた約2300億円の国費が浮くことになる(図4)。その使い道に議論がわき上がっているのだ。

国は、これを国保の赤字の穴埋めに使う方針だが、健保連などは、「高齢者医療費を社会全体で支えるという観点では総報酬割の導入はやむを得ないが、国民皆保険制度の礎を担う被用者保険が揺るがぬよう、浮いた分は現役世代の負担軽減に使うべき」と訴える。

 宮武氏も、「被用者保険からの負担で浮いた国費を国保の財政再建に使うのは納得がいかない、という健保連の主張は理解できる」と言う。

企業への負担増が産業空洞化を招く

名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授の
澤野孝一朗氏

 老人保健制度と医療費自己負担率などに詳しい名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授の澤野孝一朗氏も企業の活力を憂う。「そもそも、1990年代には、少子高齢化による医療保険制度の崩壊が予見されており、何らかの手を打つべきだった。しかし、今となっては、財政も逼迫し、高齢者医療費に充当できる“金の卵を産む鶏”は健保組合などからの前期高齢者納付金や後期高齢者支援金だけなのだろう。日本では、社会保障については企業から取って当たり前、取っても黙って支払うと考えているようだ。これでは、企業を成長させようとする意欲を削いでしまう」と澤野氏。

 その上で、「このまま現役世代の負担が増え続け、企業や労働者の努力の及ばないところで高齢者医療費を負担させられるようであれば、事業の拠点を海外に移す企業が出てこないとも限らない。企業にとって健康保険料は人件費コストの増加につながることから、産業の空洞化による国内雇用の減少、国際競争力の低下などを引き起こす可能性があり、日本経済へ与える影響も少なくない」と指摘する。

 では、国民皆保険制度を持続可能にするためにはどうすればよいのだろうか。「教科書的には、医療給付を抑えてバランスのよい資金調達を図るということになるが、これも難しい面がある。例えば、高齢者の受診を抑制して医療給付を抑えようとしても、それができるのか、できたとしてやってよいのかという問題があるからだ」と澤野氏。

 一方、宮武氏は「まずは、誰がどのように負担していくのか、また適正な医療費となるような医療システムの構築についても国民が議論をすることが重要だ。医療費の負担については、支払い能力のある高齢者は応分の支払いをしてもらう必要もある」と話す。現在、所得にもよるが、高齢者の医療費の自己負担は、69歳までが3割、70〜74歳までが2割、75歳以上が1割と定められている。これをどうしていくかも今後の課題だろう。

 高齢者医療費の負担構造を見直し、現役世代の労働意欲を削ぐことのない負担の仕組みを作っていくためには、まず我々現役世代が制度について十分に理解し、声を出していくことが重要になるだろう。

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