スペシャルレポート Vol.2

悲鳴を上げる現役世代:後編

健保組合の解散は「国庫負担増」と
「医療費の削減・適正化手段の喪失」に直結

 健康保険組合(健保組合)はこれまで特定健康診査(特定健診)やさまざまな独自の保健事業に積極的に取り組むことで加入者の疾病予防や健康増進を図り、医療費の削減や適正化に寄与してきた。しかし現行制度では、そうした"企業努力"が正当に評価されているとは言い難く、健保組合は多額の高齢者医療費の拠出を強いられ、健保組合の財政は急速に悪化。高齢者医療制度が創設された2008年以降、その累計赤字額は7年間で2兆7000億円を超える見通しだ。

 体力の衰えた健保組合が一度解散すれば、健保組合の拠出は減り、国庫の負担増につながる。さらに、医療費の削減や適正化を図る担い手としての重要な役割も喪失することになる。健保組合の存続の可否は、単に加入者の利害にとどまらず、社会全体の問題として捉える必要がある。

 今回は、健保組合の現状を紹介するとともに、国民皆保険制度における健保組合の存在意義をレポートする。

 三菱電機健康保険組合は今年、長年7.8%で維持してきた保険料率を8.3%へ0.5ポイント引き上げることに踏み切った。「加速度的に悪化する財政に対応するための苦渋の決断だった」と同組合事務局長の大森義文氏は肩を落とす。

 三菱電機健保組合は、三菱電機をはじめ130の事業所が加入し、被保険者約11万6800人、被扶養者約11万6600人と全国でも有数の規模を誇る(2014年3月末現在)。また後述するように、2002年より社員の健康づくりに関する積極的な取り組みを行うなど、独自の保健事業によって医療費の削減や適正化にも注力してきた。

 それにもかかわらず、同組合の経常収支は、悪化の一途をたどった。2003〜2010年度まで黒字だった経常収支は、2008年に施行された高齢者医療制度により高齢者医療への拠出金が膨らんだことで2011年度には約7億円の赤字に転落。さらに2012年度には約30億円、2013年度には約60億円と、赤字額が激増した。

 こうした状況を踏まえ、同組合は2012年には保険料率の引き上げを検討し始めたという。「当初は1年後の引き上げを目指していたが、本社、労働組合(労組)、関係会社など、関係各所に丁寧に説明を重ねる必要があり、実行までには2年を要した。保険料率を引き上げたからといって黒字に転換するわけではなく、今後も別途積立金を取り崩しながら運営することになる。計画では、別途積立金の額を支出のリスクと収入のリスクを勘案した適正な"基準額"になるまで5年をかけて減らしていくが、前年度の決算に応じてさらに保険料率を引き上げる可能性もある。このままの状態なら、来年度も保険料率を上げざるを得ないだろう」と大森氏は説明する。

 健康保険組合連合会(健保連)によれば、2014年度に保険料率を引き上げた健保組合は全組合の約3割(図1)。平均保険料率は約8.8%で前年度より0.2ポイント増える見込みだ(2014年度予算早期集計)。保険料率が10%以上の健保組合も、2014年度には251組合へと急増している(図2)。高齢者医療費の拠出金が急増する一方で、景気低迷により従業員の給与や賞与は伸び悩み、保険料収入が減る健保組合がほとんどだ(図3)。その結果、経常収支は高齢者医療制度が創設された2008年以降は赤字が続き、その累計額は約2兆7300億円に膨らんだ。

三菱電機健保組合の財政悪化の主な原因も高齢者医療に関わる拠出金の増大だ。同組合の2013年度の保険料収入に占める保険給付費の割合は約70%。一方、「前期高齢者納付金」と「後期高齢者支援金」を合わせた高齢者医療への拠出金は34.5%だった。拠出金の額は増え続けており、前期高齢者納付金は前年度比十数%、後期高齢者支援金は数%アップしているという。「現在、前期高齢者納付金には公費が投入されていないが、今後ますます健保組合のその負担は大きくなる。今後はここに公費を投入もしてもらえればよいのだが」と大森氏は切望する。

(注)健保組合の拠出金の全国平均は約42%で、三菱電機健保組合の拠出金の比率は低いように見えるが、これは同組合が「特例退職被保険者制度」を取っているからだ。特例退職被保険者制度では、61歳以上75歳未満の要件を満たす人を被保険者とする。このため被保険者全体に占める前期高齢者(65〜74歳の高齢者)の割合が高くなり、その結果拠出する前期高齢者納付金が少なくなる。もちろん、組合員として抱える前期高齢者の医療費は、保険給付費として支出している。

今の健保組合にできるのは"企業努力"による医療費の削減

 財政悪化の中、三菱電機健保組合が取り組んでいるのが、組合員の医療費削減と医療費の適正化に関わる事業だ。

 なかでも、健保組合が会社や労組と一体となって取り組んでいるのが、2002年に始めた社員の生活習慣改善を促し健康寿命を伸ばすための「三菱電機グループヘルスプラン21(MHP21)」である。これは、社員にできるだけ早い時期から食生活や嗜好などの生活習慣を見直し、QOL(生活の質)の向上を図ってもらうことで、従業員への安全配慮、労働生産性の向上、医療費の削減を達成しようというものだ。MHP21では、保険給付費の20%を占めていた歯科関連の医療費削減のために「歯の手入れ」を、生活習慣病予防のために「適正体重の維持」や「運動の習慣化」を、疾病予防のために「禁煙」を、メンタルヘルス予防のために「ストレス対処能力の向上」を重点項目として定め、それぞれに定量的な目標を設定し成果を確認している。

 実際、MHP21の取り組みにより、2001年度には40%だった喫煙者率は、2011年度には27.5%に減少。運動習慣者の割合は11.7%から16.2%へ、歯の手入れをする人の割合は13.3%から20.5%へと改善したという。こうした社員の行動変容は保険給付費の削減にもつながった。「2001年度から2010年度までの累計で約70億4000万円の医療費の削減ができた計算になる。今後も、国が推し進める特定健康診査(特定健診)・特定保健指導の積極的な推進はもちろんのこと、MHP21の取り組みもさらに強化する考えだ」と大森氏。

 また、医療費の適正化に関わる事業として、診療報酬明細書の点検強化、ジェネリック医薬品の利用促進(写真)、正しい受診指導による柔道整復師療養費の削減などを行っていくという。加えて、昨年度からは糖尿病の重症化防止策にも力を入れている。

 さらに、「今後は医療費、健診の結果、MHP21による生活習慣の改善結果の3つのデータを突き合わせて重点項目を絞り込み、費用対効果の高い取り組みを進めたい」と大森氏は展望する。

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